史朗の必殺技「まさかの正面からメテオ」と、その影響
明日はこの高い崖を登って上の世界に行く。
「俺たちさ、この森に何だかんだで1ヶ月くらいいたんだな」
「そのくらいになるか。地球の日付とは違うから、ちゃんとチェックしておかないとわからなくなるな」
「約30時間が28日で一ヶ月でしょ。840時間。地球時間の35日がこっちの一ヶ月」
「わー、そういうの俺苦手。面倒くせー」
「こっちの1年は840時間が13ヶ月で10920時間、地球は24時間が365日で8760時間。あはは、史朗はこっちの時間だと20歳だ」
「マジか!お前は?」
「14歳。ないわ〜」
「あ〜、それはあれだ。泣き虫でも許す。お前はガキだ。酒のむな」
「えー、俺もう18歳になってるからね。人の街で酒あったら飲むもんね!」
「人の街な、人族ってどんなだろうな?みんなモハメドみたいなんかな?」
「どうだろ。見た目は俺達と変わらないかもね。でもさ、デカかったら怖いね。モハメドは虫なのに俺と同じくらいあったじゃん」
「あんたたち、小さいわねとか言われちゃう」
「プロがいても、ものすごくデカかったらどうする? 3メートルとか4メートルの美女!」
「うわ、それは困るな。別の意味でも小さいわねって言われるっ」
そんなバカを言いながら森の最後の夜を過ごす。いや、帰る前にまた来るから最後じゃないけど、今の気持ちは最後の夜。
星空を見上げて、ため息をついて史朗が言った。
「はぐれてからずっとさ、一緒にいたのが俺じゃなくてセバスさんだったら、助けられたんじゃないかって、すごく悔しくて苦しかったんだよ。まあ、杞憂だったけどさ。でさ、俺はもっと強くなるって決めたよ。何かがあってもちゃんと動けて力になれるように。お前の為だけじゃなくて俺の為にもな」
「俺は悔しい思いするのは嫌いなんだ」と笑っている。
確かに逆だったら俺もそう思ったかもしれない。でも、逆だったら俺は史朗を助けられていたかもしれない。
これまで、もちろん大きな危険は回避するようにしていたが、パンク熊やビッグバードでも、他の魔物や動物でも、俺達は2人でずっと敵無しで進んで来てしまった。
けど、もうちょっと自分たちを見直した方が良いかも知れない。
実際に、バランスが悪いとは思う。
史朗はセバスの訓練を受けて確かに強くなったいけど、やっぱり俺の方が強いし、更に今の俺には魔法もある。
別に何かの頂点を目指すわけじゃないけど、史朗にはアトラトル以外にも何か距離に関係がない技があった方が良いのかと思った。
だけど史朗は魔法が発動出来ない。では、どうしたらいいだろうか?
地球で史朗が元々持っていた特質を、こっちの世界で増幅される不思議さと合わせて、より強化した何かを生み出せないだろうかと考えた。
「気功だ!」と俺は言った。
「え?気功?」
「史朗は十分に強いと思う。心も身体も。だけど、距離に関係ない技があった方が良いと思う。でも史朗は魔法が使えないから、地球でも使えていた能力を強化して使うんだ。ほら、俺達身体能力がやけに高くなってるだろ?行けると思う」
「気功はいいけど、何をどうやるんだよ」
「明日、朝起きたら説明するからやってみよう。今言葉だけで言ってもきっとピンと来ないよ」
「そうか。じゃあ、まあ任せた。俺はあんまり考えないでおくわ」
「うん」
そう言って、俺達は翌朝に向けて早めに就寝した。
そして、朝。
まずは史朗に命の水を飲ませる。
そして、俺が光合成のようなイメージで大気の魔法の力を取り入れて自然に呼吸をしているように、史朗にもそれをしてもらう。史朗の気を増幅させて力として発動させようというプランだ。
何度か呼吸と光合成のイメージを練習してもらう。大地からも、足からパワーを吸い上げるイメージも重ねる。
そしてしばらくして「わかったような気がする」と史朗が言うので、いざ実践。
俺はカメラを構えた。
そう、今日は俺が監督だ。
練習だから気楽に行く。と言っても、大技を覚えてもらうので、目標としてまずは30メートルほど離れた場所のある大岩を狙ってもらう。
「じゃ、史朗くん行ってみようか。まずいつものように軽く砕く感じでやってみて」
「はい」
史朗がしばし呼吸を続け、そして巡らせていた気を自分の身の芯に集めていく。
「意識は眉間に置いたまま、胸から両腕にかけて気が流れ手に集まる。十分に気を集めたところで、一気に大岩に向けて放て!」
俺の誘導に従って史朗が気を放つ。
ばしゅっ!と大岩の中央が音を立てた。当たったようだ。
これまで数メートルの遠当て「エア正拳突き」を行っていただけの史朗が、一気に30メートルも先に、音がする程に気を当てられるという事だけで凄い事だ。それはわかっている。だけど、これではダメだ。当てるのではない。割るのだから。
「最初にしてはとてもいいよ、でもなんか違うんだな。なんだろう? …あのさ、史朗くんて自分の事どう思ってる?例えば虎?猫?どっち?」
「俺ですか?えと…猫かなあ。虎が良いけど、虎じゃないよなと思います」
「それだ!それが違うんだな。いいかい、史朗くん、君は虎なんだよ。自分を猫だと思ってる虎」
「お、俺が虎ですか?!」
「そう、虎。だって虎がいいんだろ? じゃあ何で自分を猫だって言っちゃうか。自分を小さい、大したことないと思ってるからだろ? でも実は虎なんだ。その牙と爪はあらゆる生き物を凌駕した強さと鋭さを持ってる。偉大な虎だ!史朗くんは自分をカッコいいと思ってないだろう」
「思ってません。と、特に監督と一緒にいると、俺は自分がカッコいいとは…とてもじゃないけど」
「違う。史朗くんはカッコいいんだ。すごくカッコいい」
「え、監督みたいな人にカッコいいと言われても、ちょっと…」
「誰がどう見たってカッコいい。いいか、小柄ながらに引き締まったボディ。意思の強さを現す輝く瞳と、頼もしく暖かい微笑み。内に秘めた決して諦めない熱い心と勇気!それが、魂が、その存在の大きさがにじみ出てるんだよ!史朗くんにはフェイクではない本物のかっこよさがあるんだ!」
「俺がカッコいい…。にじみ出ている…本物…」
「そうだよ。いいか、人はバカじゃない。みんな感じているよ、史朗くんの素晴らしさを!本当は自分でもわかってるんじゃないか?自分がすごくイケてるって事」
「そ、そう言われると、そんな気がしてきます」
「だろ? それを、それを隠さないで出してみてよ。小さくならないで、遠慮しないで、このくらいだろうって思わないで、史朗くんの本気をスパークさせてみろよ!」
「でも、俺にそんな…」
「史朗くん、もしまだ自分を信じられないなら、それでもいい。だが、思い出せ。あのフリードリヒさんが君を見込んでいるという事を。フリードリヒさんの目に間違いがあるか?あの偉大な爺ちゃ…いや、フリードリヒさんを疑おうと思うか?思わないだろう?信じろ!イメージの中の自分ではなく、フリードリヒさんがファミリーと認めた寿頼史朗を!」
「は、はい、監督。やってみます!」
「よし!じゃもう1回だ。身体の内側から緑の炎がゆらゆらと上がって来て、全身を包み込んで大きく燃えるイメージで行ってみて」
「はいっ!ふぉぉぉおおぉぉぉ〜」
史朗のパワーが上がった。いいよ、この状態ならポイントを見極めなくても岩をも砕けるだろう。
「監督っ!出来ましたが、長くは持ちませんっ!」
「自分の力だけでやろうとするな! 大地だ、大地と友達になれ!この大地から力をもらうんだ!大地のパワーを足の裏から吸い上げろ!!この世界の全てが史朗くんの味方なんだ!史朗くんの持つ力を、この世界の全てが応援し支持をしている!そして何百倍にも増幅してくれているんだっ!」
「はい!監督!! うぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「いいぞ、呼吸を止めるな!そのまま両手にパワーを集めるんだ!そしてそれを凝縮して細く小さくして…真っ直ぐに、あの岩に向かって放てっ!」
あ、史朗の髪がスーパーサイヤ人みたいになっている。
「ふうぉうっ!!!!」
ドォオォォォォオオオオオオンッッ!!
史朗のポテンシャルは俺の想定を越えていた。
30メートル先の大岩を砕くどころでなく、その辺り200メートル四方位が跡形もなく吹き飛んでしまった。まあ、だいたい東京ドーム一個分ってやつだ。
うわ、すげえな。ずっと向こうの方まで大地がえぐれてるわ。
「…やったな。予想以上だ。その、なんていうか、あの…、辺り一帯が偉いことになっているぞ」
「監督、これは…やって良かったんでしょうか?」
「し、心配するな。私がちゃんと修復しておこう。それより感覚は掴めたか?」
「はい!監督」
「よし、この技は究極の平地メテオ!まさかの正面からメテオだ!今日から君はメテオ、メテオ史朗だ!」
「俺は…、俺はメテオ史朗!! …って、なんだそれは!!アホか!!」
「なんだよ、いいじゃんかよ。まるで隕石が落ちたみたいな状況じゃないかよぅ」
「こんな危ない技、使えるか!!」
…そりゃ使う機会は、ほぼないだろうけどさ。いいじゃん、距離に関係なく使えるすごい技が出来たんだからさ。
これで「もっと俺が強かったら」なんて悔しがらなくてよくなっただろ。史朗だって、何だかんだ言いながらちょっと嬉しそうじゃないか。
「あー、もう! ほら、アラン君、早く修復して!」
俺からカメラを奪って、また史朗が監督になってしまった。
ちぇっ、俺は仮初の監督でしかなかったのだ。まあいいや、史朗が大技を身に着けるプランは成功だし。俺はとりあえずこの惨状をなんとかしよう。
「じゃ、アランいきまーす」
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その頃、竜の住処
「親父殿、精霊の至宝と異世界のドワーフが、何やら森で暴れておるようだ」
「む、この前の子竜の勝手な訪問の怒りが収まらぬわけではあるまいな」
「…まさか。その後、精霊の至宝が慈悲深く幼竜を救ってくれたのにか?」
「『竜どもめ、面倒ばかりかけおって』…などと思っておるのでなければいいが。こちらの世界でもドワーフは怒りっぽいからな、異世界も同様か、または更に怒りっぽいかもしれぬ。これ以上刺激をしないように、もう一度チビどもに言っておけ」
「子竜達は怖がって尻尾を丸めて洞窟の奥に隠れておる。もう馬鹿なことをする心配はあるまい」
「それにしても異世界のドワーフめ、なかなかの力を持っておるようだ…」
「おお!親父殿、精霊の至宝が大地を癒しておるようだぞ!」
「うむ、儂も感じる。何という優しさに溢れた癒やし。異世界のドワーフの怒りを精霊の至宝がおさえ癒しておるのだろう」
「ここは下手に謝罪になど行かず、精霊の至宝に任せたほうが良いようだな」」
「うむ。その様にしておけ」
**************
「アランすごいな、あっという間に元通りだ」
俺は、えぐれた大地を平らに均し、そこに周囲の草や木の種を運んだ。そして命の水を降らせて、以前、大きな光にお礼を言った時に空から降り注いだような、七色に輝くキラキラの光を撒き散らしてみた。
それだけでかなり修復出来たよ。結構いけるもんだ。
そして、「もう破壊しないから、安心して成長して大丈夫だよ」と声を掛けてみた。すると更に大地が安定して、芽を出していた植物が、成長記録の早送りのように育った。
「木はすぐには成長しないけど、草は早いね」
「一面に花がいっぱい咲いて綺麗だな」
「不思議だよね、この花。数分で伸びて開花して、いい匂いが漂うし、なんだか空気も浄化される感じ」
「ねえアラン、俺のこの技ってさ、地球に帰ってからも使えるのかな?」
「使えるんじゃないかな?威力はだいぶ弱まると思うけど」
「そっかー。そんじゃさ、地球に帰ったらガチで地球防衛軍とか作っちゃう?」
「いいね。秘密の組織。鉄人くんを装着したら無敵じゃん!」
「チーム☆フェルナンドの連中に話したら秘密にはなんないだろうなあ」
「ならないね。話してる途中でどんどん広められるね」
「ダメだな」
「ダメだね」
「アランもさっきのメテオっぽいの使えるの?」
「使えるんじゃないかな。仕組みはわかってるから。…危ないからやらないけど」
「もう、俺達最強だな」
「うん、戦う相手はいないけどね」
「タンク猪とか、パンク熊とか、ビッグバードくらいだもんな」
「どれも、石礫とかエアカッターでスパンで終わりだし」
「…平地メテオ、無駄だな」
「そもそも環境破壊はダメだよね…」
「…だな」
こうして、俺達は出発前に史朗の技完成を果たし、そのとばっちりで焼け焦げてしまったタンク猪や、大うさぎ等の肉を食料として持ち、いよいよ崖の上の大地に向かって移動を開始した。
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その頃、魔物の森のどこかで
「魔皇帝陛下」
「なんだ?」
「例の、精霊の至宝、いや「イシルディン神の欠片」の手下が地上で暴れているようです」
「ああ…、ここにおってもその力の振動が伝わって来ている」
「どうやら、イシルディン神の欠片が力を授けた模様です…」
「軽々とあのような力を授けるとは。イシルディン神の欠片、やはり恐ろしい」
「いかが致しましょうか?」
「下手に相まみえるよりも、我々が我々でいられる地に移るべきやもしれぬな」
「では、やはりこのままでは…」
「全く忌々しい事だが、このままでは我ら闇のものは、消え去るしかないやもしれん」
「我らが移ることを許される地などありますでしょうか…」
「…何れにしても近い内に我が自ら出向いて話してみなければならんだろう。イシルディン神に止められなければ、今頃この場に迎えて上手く動いてもらえたやもしれぬというのに」
「まことに…。しかし、考えようによっては我々はイシルディン神に救われたのかもしれませぬぞ」
「ふん。確かに、あのままここにイシルディン神の欠片を呼び寄せておれば、我らはその時点で滅ぼされていたやもしれぬからな。
口惜しいが、我ら闇のものがこの世界で消えずに存続するためには、あの破壊と再生の力と、その慈悲にすがるしか道は無いのか…」
「…」
「我が正式な対話の機会を得るまで、余計な事をせぬようにと全ての民に申し伝えよ。下手に刺激をして不興を買えば、我らの未来は完全に消え去ると思えと」
「はっ」
「人間は我ら闇のものを見れば襲いかかってくる、迷惑な者共だ。イシルディン神の欠片が、まともに話が出来る者であれば良いが…」
次はいよいよ、人の世界へ。
一部、表現を変えました。




