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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
魔の森
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イシルディン神

 はい、カカオありました。やっぱサイズは地球よりちょい大きいでーす。てな具合にちょっと気合が抜けている俺達です。 


 でも作業はちゃんとしておこう。

 カカオ豆を発酵させ、乾燥させ、綺麗にして殺菌し、使えそうにないものははじく。言葉で書くととても簡単だね。ここら辺もみんな魔法でやっちゃう。というか、もう全体の作業を魔法でやるから、実際の作業も結構簡単に進む。

 

 カカオ豆を焙煎して、粉砕して殻部分と中心部分のカカオニブに分けたら、カカオニブをすり潰してペースト状にして、カカオバターを取り除いてココアパウダー完成!


 カカオニブの半分はカカオバターを抜かないでチョコレートの為に取っておく。 


 出来上がったココアは、もちろん苦い。蜂蜜や砂糖があれば甘くて美味しく飲めるんだけどな。


 ダメ元で妖精さんに甘い蜜ない?って聞いたら、ちょっと渋い顔をしてから、ある方角に案内してくれた。 

 

 ついて行ったら、ああ、これは渋い顔をするわけだ。パンク熊が木の(うろ)に顔を突っ込んで蜂蜜を食べていた。

 その周囲をスズメサイズの蜂、正にスズメ蜂がぶんぶん跳び回っている。


 そうね、熊は蜂蜜見つけるの大得意だよね。そっか、パンク熊との争いが待っているのか。スズメ蜂もなあ…。


 「どうする?」と史朗に言うと、「かったるいなー」と言う。だよね。

 俺達はココアは飲みたい。だが、今この時はそこまで求めてはいない。だって、あの実を味わった後だもの。

 

 協議の結果、カカオの加工が完了した事を良しとして、甘味料は慌てず探していこうと決めた。

 元のカカオの木がある場所に戻って、ひたすら加工作業をして、かなりの量のココアとチョコレートの元を作成した。そして、その日はそのままその場所でテントを張ることにした。 

 

 いつものように肉を焼き、スープを飲み、腹を満たして星空を仰ぐ。


 「そういえばさ」と史朗が話しだした。


 「お前が俺工房で鉄人くんの作業してる時、フリードリヒさんと2人で話してたんだけど、その時に家族の話になってさ。俺の家族の話をしたら『そうか、シロも私も肉親との縁は薄いのかもしれないな』って言ってたんだ。

 その時はよくわからなかったんだけど、こっちに来てからお前が本当の孫じゃなくて、フリードリヒさんは家族みんなと死別していたって聞いてさ、ああ、そうなのかって思ったんだよな」

 

 「そうなのかって?」 


 「フリードリヒさんがね、『肉親との縁が薄く、孤独を感じて辛いこともあるかもしれない。だが、大切に想い心を満たし合う者には出会える。それまではしばらく寂しいこともあるが、諦めて一人ぼっちだと思い込む必要はない。必ず心が満たされる時は来るものだ。だから、大事なのは生き続ける事だよ』って言ったんだよ。

 あれさ、お前のことを言ってたんだなって。

 フリードリヒさんにとっては、人生の大半を孤独の中で過ごしちゃったけど、それでもちゃんとお前に出会って、生き続けていて良かったって思ったんだろうなってさ」 


 「爺ちゃん…」


 「不思議に力強くてあたたかくて、その時は何を言われてるんだろうって思ったけど、それでも俺のこれからを『お前は大丈夫だ』って言われたみたいで安心したんだよな。

 こっちに来て、ああ、そうだったんだってわかってから、俺なあ、頑張ってみようって改めて思ったんだ」 

 

 「そうなんだ…」


 俺は爺ちゃんの言葉の深さとか想いは想像するしか出来ない。

 ただ愛されて可愛がられて生きていて、なんとかその愛に答えたいと頑張ってるけど、それでも俺はもらうばっかりだ。

 いつか、俺も誰かにいっぱい与えられるようになるんだろうか。そうだと良いなと思いながら、でも、やっぱり俺はまだまだ自分の事で精一杯で、色んな事をわかったつもりで全然わかってない事に気付いてがっかりして。

 爺ちゃんの「大事なのは生き続ける事だ」というのは、どんな思いを乗り越えてきて出てくる言葉なんだろう。俺はそのほんの一端でも受け止められてるのだろうか。 


 「だからさ、元気で帰らないとな」と史朗が笑った。

 

 そうだね。まずは元気で帰って、それからまた頑張ろう。


 「なんかさ、こうして異世界に来ちゃって思ったんだけどさ。事故や病気で亡くなったり、行方不明の家族がいる人達は、「もしかしたらどこかに転移してて、そして元気で冒険してるのかも」って思えたら、少しは元気も出るのかもなって。

 爺ちゃんの本当の息子一家も事故で亡くなってるけど、実はみんなどこか違う世界に転移していて、そこで楽しく幸せに過ごしてるのかもしれないなって。

 そんな風に思うと、会えないのは寂しいけど、辛い気持ちは少しだけ軽くなるのかなって」 


 「そうだな。俺も母さんと義父さんが事故に合う瞬間に、どこか違う世界に飛んでてさ、戸惑いながらもそっちで暮らしていて、今頃2人で演奏旅行なんかしてるかもなって思うと、ちょっと楽かな。まだ生きてる父親は、地球でそのまま落ちぶれてれば良いって思っちゃうけどさ」


 「俺の本当の家族はどうしてるんだろうな。俺がいるってことは、両親がいるってことだもんね。どんな人達で、なんで俺は1人で森の中で倒れてたんだろう。もしかしたらさ、俺も事故の瞬間に異世界転移で地球に来ちゃったのかも、なんてね。家族からしたら、俺はある日突然行方不明になった子供だったのかもしれないよね」 


 あんまり口にした事はなかった、俺の血が繋がった家族の事。こんな風に誰かに言うのは初めてかもしれないな。

 本当に、俺の家族はどこでどうしているんだろう。生きているのかそうじゃないのか。


 「爺ちゃん達が俺の家族を探した時に、誰も名乗り出る人がいなかったって聞いたから、俺は必要なくて、意図的に捨てられたのかも知れないなって思って来たんだけど、異世界転移で地球に来ちゃったんだったら仕方ないよなあって思うと気が抜けたりもしてさ」


 怖くてずっと口には出来なかった思いを言葉にすると、史朗が言った。


 「なんとなくだけどさ、アランは、フリードリヒさんの所に来る前も、すごく大事にされてたんじゃないかな。そんな気がするんだよな。何か覚えてないの?」 


 んー、そういえば、爺ちゃんのあの家に、当たり前のように馴染んでたって言われたかも。

 小さな子供なのに、当たり前に大勢の大人に給仕されながらマナー良く食事をしたし、着替えも黙って手を上げてメイド達がするままにしていたとか、「お前は良い家の子なのだなと思った」と爺ちゃんが言っていた気がする。

 奈々恵の『エルフの王子様なのです』発言がすごくインパクトがあって、それ以外で言われたことはあんまり考えてなかった。 

 

 「最初からあの屋敷に馴染んでたらしい。執事とかメイドがいる生活が当たり前だと思ってたみたいだな。あんまり前の事って考えたことなくてさ、覚えてないっていうよりも、考えたことない。

 ああでも、怪我が治るまで随分泣いてた気がする。怪我が痛かったからなんだと思ってたけど、もしかしたら家族のこと思い出して泣いてたのかな?」


 「全然覚えてないの?」


 「ほとんど覚えてないというか、なんだろう、あの家での生活で上書きされちゃったみたいな感じ?てことは違和感なかったって事なのかな。

 誰か女の人がピアノみたいなのを弾いてた気はするんだけどな。俺、ピアノをテレビで見た時、これがやりたいって騒いだらしくて、初めてわがまま言ったって喜ばれて、ピアノを買ってもらって、初めて触った時に誰も知らない曲をちょっと弾いたらしい。ピアノがある家にいたんじゃないかってセバスが言ってたのは覚えてるな」


 「それ、いつ?」


 「6歳の時かな」

 

 「ピアノを弾いてた女の人って、どんな感じだった?」


 「優しい…かな。その人のこと大好きだった…と思う、きっと。あと、誰かいたな。女の子かな。歌ってた気がする。なんか、いじめられてたかも、俺」 


 「それさ、お前のお母さんとお姉さんとかなんじゃないの?」

 

 「そうなのかな。ああ、全然、そういうの思い出そうとしたことなかった。なんか俺、爺ちゃんの本当の孫じゃないってのはうっすら理解していたけど、でも、なんか生まれた時からあの家にいたみたいな気がしてた」


 「まあな、セバスさんと奈々恵さんがずっといるから、お父さんとお母さんと一緒みたいなものでもあるもんな」


 「…そうか。だから爺ちゃんが『あの2人が居れば、いずれ自分がいなくなっても大丈夫だと思っている』って言ったのか。…うぅ、爺ちゃん。俺の方が先にいなくなっちゃてごめんなさいぃぃ…うぅぅ…」 


 「ああ、ほら、泣くな」 


 「ふぅうぅぅぅっ」 ダメだ。スイッチが入ってしまった。


 「とにかくさ、元気で帰るんだから、大丈夫だろ」 史朗が頭を撫でてくれた。俺は子供みたいだ。恥ずかしい。


 「うん、…そうだね」 俺は深呼吸をした。

 きっともう俺は18歳になってるはずだ。成人なんだから、いつまでもベソをかくようではいけない。


 

 今日はもう寝ることにした。

 いつものように、ミニセバス隊に火の番と夜警をさせてテントに入る。 


 不思議なくらいにあんまり考えた事がなかった俺の家族。どこかで元気でいるんだろうか?幸せでいてくれるといいな。 

 そして、やっぱり俺は爺ちゃんの所に帰るんだなと思いながら眠りについた。 



 その夜は不思議な夢を見た。 



 とっても綺麗な女の人がいた。宝石で飾られた長いドレスを着ていて、髪を綺麗に結い上げている。美人だな。あ、目が俺と同じ色だ。珍しいな。


 その女の人がいる部屋に男の人が入って来た。その部屋は天井が高く明るい色合いで、壁や天井の装飾が品が良く趣味が良い。


 男の人もセンスが良い。長袖で胸のあたりまでキラキラの刺繍がある詰め襟の、膝下くらいまでの丈の服を着ている。脚が長くて履いているパンツも光沢のある生地でカッコいい。何より靴がとてもおしゃれだった。この靴って絨毯の上しか歩かない人が履くイメージ。


 2人とも全体的にかなり高級そうな衣装を見に付けている。普段からこんな格好なのかな?肩凝らないのかな?Tシャツとジャージとか、絶対に着そうにない人達だな。


 女の人がその男の人に話しかけている。何語だろう?何となく知っている気がするけど、英語でもフランス語でも日本語でもない。スウェーデン語でない事は確かだ。でも、意味がわかる。ああ、きっと夢だからだな。 

 

 「あなた、アルランティアの気配が数週間前よりも弱くなってしまったわ。あんなに強く気配を感じるのは初めてだったのに。あの子が近くに来ていたのに、どこか遠くに行こうとしているに違いないわ。早く見つけないと…」


 「ああ、ずっと探させているが、今の所はまだそれらしい子は見つからないんだ。3週間くらい前に魔の森で炎の柱が上がったのを見た者がいるらしい。あの子の気配が最も強かった頃だ。その辺りにも捜索隊が行ったのだが、何も見つからなかったらしい。ただ珍しいピンクの花が崖の下一面に咲いていただけだそうだ」


 「早く見つけてあげないと。この機会を逃したら、今度こそもう会えなくなってしまうかもしれない。わたくしも探しに出かけますわ。お兄様にも魔法省を動かすようにお願いして来るわ」 


 「陛下には私が今日話しておいたよ。既に捜索を開始してくださっている。やはり魔の森にこれまでにはない魔法の痕跡が残っているらしい。もしかしたらあの子は魔の森にいるのかもしれない」


 「そんな…なんて恐ろしい。魔物や闇の者達が沢山いるというのに」


 「魔の森の一部が浄化をされて瘴気が消えていたらしい。何か良い力が働いているに違いない。イシルディン神に祈ろう。きっとあの子を守っていて下さる。必ず私達の元に帰して下さるよ」



 …ああ、ここでも誰かがいなくなって、そして探してるんだね。この人達の必死な想いが伝わってくる。どうか、彼らが探している子が無事で彼らの元に帰りますように。 


 炎の柱って、俺のあれじゃないよね?崖の下一面にピンクの花が咲いたって、俺達が排泄物を埋めた後に咲いた、あの花じゃないよね?…まさかね。


 てか、この世界の神様ってイシルディン神って言うんだ。イシルディン、なんだっけ、これの意味って、なんだか知ってる気がするな。銀色だったかな。誰かに教わったなあ。



 『イシルディンは我が名であり、この国の名でもある』 



 そうなんだ。神様の名前が国の名前になってるんだ。面白いね。宗教国家なのかな…。あれ?この国?じゃあ、さっきの人達ってこの世界の人族ってことなのか。人族いるじゃん、やっぱ…。 



 『その森を奥に行ってはいけない。元の場所に戻りなさい。小さき者達の守りが届かなくなってしまう』 

 


 小さき者達?



 『お前はまだバランスが整っていない。闇の領域に踏み込んではいけないよ。人のいる所に行きなさい』


 はーい。なんだかわからないけど、闇ってちょっと嫌な感じするもんね。それにしても、そうか、人族がいるんだ。でも、このまま地球への扉が開くまで森で暮らしていても良いような気もしてるんだよね。別に人族に会わなくても良いんじゃないのかな…。



 『ふむ。お前達はプロに会いたいのではなかったのかな?』



 あ、そうだ!プロだよ。そう、人族がいるならプロも居るかも知れないもんね。ああ、それはダメだ、会わなきゃダメだ…。よし、人族に会うよ。 

 


 誰かが、ふっと笑った気がした。そして、俺はまた深い眠りに落ちて行ったらしい。




 翌朝、起きて一番に史朗に「プロ、絶対体験しようね!」って言って、「どうしたの?」って言われた。 

 なんでそんな事を言ったのかはよくわからない。


 何だか誰かと話をしたような気がするけど。よく覚えてないや。

 

 

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