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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
魔の森
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泡沫(うたかた)の日々

 俺達はボン・ジョヴィの Livin’ On A Prayer を大声で歌いながらカカオを求めて移動していた。 

 史朗に「アメリカでバンドやってた時って、どんな曲やってたの?」と聞いたのがきっかけ。そこから史朗の得意な曲メドレーが始まった。ノリノリで進む。 

 

 …まだちょっと異世界コーヒーハイが続いているのかもしれない。 

 

 後ろを振り返ると、パンク熊やタンク猪の毛皮や角などを入れた木の風呂桶が、ふわふわと俺達の後を着いてくる。風呂桶の容量に余裕はあるが、ザックは変わらず自分たちで背負っている。

 大して重さを感じない事もあるが、地球に戻った時の事を考えて、日常のトレーニングはしておくべきだと思うから。地球に戻ったは良いが身体が重くて立つのも大変では困る。だから筋トレもしているし、セバスに受けていた訓練もちゃんと続けている。


 異世界コーヒーの効果が切れて来たのか、やっと冷静になって歌うのをやめて普通に歩く俺たち。急に左側の茂みからガサガサと音がした。何かがいる!と身構えると鹿ほどもある(うさぎ)が顔を出した。何かを(くわ)えている。え?人の身体?!

 

 俺達に驚いた兎は、ダッと逃げていってしまった。史朗と俺は顔を見合わせて、それから恐る恐る兎が現れた方に行ってみた。

 人がいるのか?でも生きてないのか?兎が咥えていたのは大人の女性の胸の部分に見えた。かなりドキドキしながら木の枝をかき分けて進む。


 そして、大きな葉っぱをかき分けた所で俺達の脚は止まり、目の前に広がる光景に全意識を持っていかれた。


 おお、神よ!

 俺達は大変なものを発見してしまいました!

 

 カカオを求めて、命の水川を離れ森の奥へ奥へと入って来た。そこで俺達は、地球だったら確実に新種の植物に間違いない、それはそれは神々しい実のなる木をみつけたのだ!


 その木はあまり背は高くないが幹がしっかりしていて太い。そしてそこに()っている沢山の実。その実の形状は…その、なんというか、豊かな女性の胸、つまりおっぱいの形をしていた。さっき兎が咥えていたのは、この木の実だった。


 大きさも色も、美しく豊かなおっぱいそのものだった。それがあっちにもこっちにも。ご丁寧に2房一組で生っている。


 「なんだ、ここは理想郷か?」


 または、俺達は知らない内に死んで天国に来てしまったのか?

 俺と史朗はお互いのほっぺたを(つね)った。痛かった。「痛いな」「うん、痛い」そう言いながら2人ともニヤニヤしていた。


 顔はニヤニヤしていたが、俺は「これは何かの罠ではないか」とも疑った。捕食植物なのではないかと。ま、捕食植物なら、確実にこの近辺に人間がいるっていう事になるわけだが。

 

 ただの自然のいたずらなのか、または罠なのか、とりあえず離れた所から小石を投げ、幹に当てたり実に当てたりしてみた。何の反応もない。史朗と俺は木に近づき、拾った木の枝で実を軽くつついてみた。


 ぽよよん。


 っ!? 俺達は固まった。やばい、やわらかいぞ。感触までそのまんまおっぱいみたいだなんて。どうしよう?こんな夢のような木があるのか!庭に植えたいじゃないか!



 「隊長、わたくしは今、とてつもなく感動するとともに、大いなる欲望に(さいな)まれておりますっ」


 「うむ、私もだ、アラン隊員」

 

 頭の悪いプレイが始まった。



 「アラン隊員、しかし慌てるな。まずは証拠写真を撮り、その後に検証を行う事としよう」


 「そうですね!何かの罠である可能性もありますからね」


 「うむ、そうだ。アラン隊員、とりあえずそこに、木の前に立ちなさい。木のサイズと、その、そのけしからん実のサイズを記録しよう」


 「はっ!」


 俺は敬礼をキメてから木の前に移動し、実に若干顔を寄せる。もちろんサイズを検証する為にだ。吸い寄せられたわけではない。


 とても素敵な実だ。しかし気を緩めてはいけない。まず、事実を記録する為の撮影だ。決して頬を染め満面の笑顔で写っている俺に注目してはいけない。

 俺が撮られた後に「隊長、隊長も是非!」「そ、そうか?では」という、相変わらず頭の悪いやり取りをして、史朗もとろけるような笑顔で素敵な実に囲まれて写真に収まった。

 ちょっと頑張って真顔になろうとしていたようだったが、全く真顔にはなれていなかった。


 笑顔になるのは仕方がない。右を見ても左を見ても、そして上を見てもおっぱいがある。もう、笑顔が止まらない。だって男の子だもんっ。 


 記録撮影の後に、いよいよ検証をしようと言うことになり、一対の実を採取することにした。手袋を着けたまま枝の部分をナイフで切り取る。

 ぷるん、と揺れた実。


 「っ!! やわらかい!隊長、実に柔らかいです!」


 「おお!!」


 俺達は興奮した。


 ぽよんぽよんでぷるんぷるんしている。

 木のせいか、いや、気のせいか何となく人の体温に近いあたたかさすら感じる。まだ、触ってないけど。


 「隊長、ぽよんぽよんでぷるんぷるんですね」

 俺が枝ごと少し揺らして言う。


 史朗隊長がそっと木の枝で突いた。

 「うむ、ぽよんぽよんでぷるんぷるんだな」


 手袋をしたまま史朗隊長が手のひらにのせる。サイズは史朗隊長の手に程良く収まる大きさだ。つまり俺の手では完全に包んでしまえるサイズ。


 「これは、E…いやFというところでしょうか」 俺が言うと、史朗隊長が赤い顔をして「そ、その言い方はやめなさい!」と言った。それから小さい声で「そうか、これがEかF…」とつぶやいていた。


 それから俺達は、何故こんなにも柔らかいのか、中身がどうなっているのかを確認するため、大変に不本意ながら切れ目を入れてみた。 

 中からは半透明で甘い香りの液体が出て来た。

 センサー代わりの妖精さんがニコニコしているので、悪いものではないのだろう。


 隊長と目を合わせて頷いてから、俺が指につけて舐めてみた。どちらかが倒れてもどちらかが元気であればなんとかなるはずだ。

 だが、そんな心配は必要なかったようだ。まるでココナッツミルクのような甘みがある美味い汁だった。これはこの世界の椰子の実なのか? 

 

 「隊長、これはまるでココナッツミルクのようです」


 「ほう、では飲んでも大丈夫だということかな?」


 「ええ、恐らく大丈夫でしょう。妖精さん達も俺が試すのを止めようとしなかったし」


 「では、私も飲んでみよう」


 「どうぞ」


 俺達は相変わらず隊長と隊員のプレイから離れられずにいた。結構これ楽しいのだ。


 「ココナッツミルクは大変身体に良いとされています。この木の葉は確かに椰子の葉に似ていますし、この実はココナッツの仲間と思っても良いのではないかと推測する次第です」


 「ふむ。我々の世界のココナッツとは違って堅い殻ではなく、やわらかい皮で包まれている…ということなのか」


 「恐らくそうではないかと…。そして隊長、この実の大きな特徴として、この色と艷やかな張り、手触り、何よりもこの美しい円錐(えんすい型の先にぽちっとある魅力的な小さな突起はまるで…」


 「待て!待ちなさいアラン隊員」史朗隊長が真っ赤な顔で俺を制止する。「言いたいことはよく分かるが、先程のEとかF等というような扇情的な表現は避けるように」


 「しかし隊長、このピンクの突起はどう考えても乳く…」


 「やめろ!」


 俺の言葉を強く止めた史朗隊長は鼻血を出していた。

 

 「…それ以上は言うな」


 「…はい」


 俺はそっとポケットからハンカチを出して差し出した。ティッシュではない。この世界、ティッシュは貴重なので、滅多に使ってはいけないのだ。 

 

 ハンカチで鼻を押さえながら史朗体調が言う。

 「だが、アラン隊員。その突起部分に穴を開けて中のココナッツミルクを飲むことは…許可しよう」


 「おお!隊長!!」 俺の目が輝く。


 「うむ」


 史朗隊長の目も微笑んでいた。俺達の心はひとつだった。


 一応、命の水で突起部分を丁寧に丁寧に洗い、そして突起部分に穴を開けて、俺達は喉の乾きを潤した。それはもうアホな程に潤した。


 なんという背徳、何という至福。


 喉を潤している様子の記録も撮っておいた。撮ってはおいたが、2人とも誰にも見せられないような、実に頭の悪そうな絵面になっていた。この写真は、誰かが俺達を脅迫したい時に、確実に使えると思う程に恥ずかしい画像だった。


 まさか、これらの画像も漏れなくロートリング家に届いていたとは、俺達は想像だにしていなかったんだ。 

 ただ、どこからか爺ちゃんの「楽しんでいるようで何よりだ」という呆れたような声が聞こえたような気がした。

 


 もちろんその日の野営はその木の下だ。その場を離れたくなかった。


 俺達は就寝時に一対の実を持ってそれぞれのテントに入った。特に乾燥はしていなかったのだが、むしろ若干湿気がある空気ではあったが、万が一寝ている時に乾燥で喉をやられてはいけない。「念の為に枕元に水分を用意しておこう」という事になったのだ。

 もちろん水筒には命の水が入ってはいる。だが夜暗くなって寝ぼけた状態で水筒の水をこぼしてしまう可能性もある。そうなったら喉の乾きは潤せ無い。この素敵な実を持ち込むことによって、あらゆる不測の事態をを回避することになるのだ。決してやましい思いからテントに持ち込むのではない。…決してそうではない。


 いつもより少し距離を離して設置していた史朗のテントから「うっ」といううめき声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

 俺は素晴らしい手触りを楽しみながら「気をつけよう」と口を固く結んだ。そして久しぶりに気持ちの良い夜を過ごした。ティッシュは貴重品だが、この時は心置きなく使った。

 そしてその夜、俺はキャロの夢を見た。


 翌朝、目が覚めてテントを出て、朝日に輝く鈴なりの実を見て、今日も一日良い日になりそうだと心から思った。 

 史朗も心做(こころな)しか顔色が良くつやつやしていた。よく眠れたようだ。


 俺が「命名、キャロの木!」と言うと、史朗は「やめて、それはやめて。俺が喉を潤しにくくなるから、違うのにして!」と反対する。

 仕方がないので「女神の木」と名付ける事にした。


 もう、このままここに住むといいんじゃないかな?と思ったが、三日目の朝、あんなにぷるんぷるんだった実は時期を過ぎたようで、しぼんで全て落果してしまっていた。

 俺達は落胆した。何故か種は見つからなかった。種があれば本当に庭で栽培できるかもしれないのに。


 次はいつ()るんだろう?絶対にまた飲みに来よう。そして、もしどこかに売っていたら絶対に買おう。そう言い互いを励まし合って、女神の木から移動することにした。

 

 さようなら素敵な女神の実。俺達の夢。また会う日まで。 


 その二日後、俺達は念願のカカオの実を見つけた。だが思ったよりも感動が少なかったのは、仕方がないと思って欲しい。

 


 

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