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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
魔の森
32/117

コーヒー・ルンバ

 更に下流に移動をして3日目。

 

 「木とか植物の感じが熱帯に近くなってきてるね」


 「気温も上がってきたな。やっぱ俺達は南に移動してるんだな」


 「髭、暑くない?」


 「そんなでもないよ。もうちょっとこのままにしとくかな。もし、人族に会った時に幼く見られたらやだし」


 「東洋人、若く見えるもんね」


 そんな事を言いながら森というか、ほぼジャングルを進む。

 命の水川はやはりアマゾン川に匹敵する長さのようだ。まだまだ続いている。


 手持ちの食料が減ってきた。食べられそうな植物や木の実を摘んで、地下に芋が出来ているであろう葉を見つけては掘り、残り少ないビッグバードの肉やスープと合わせて食いつないでいる。弁慶くんの燻製もハサミ蜘蛛の脚も、もう無くなっていた。 

 果実がなっている木が増えてきているのが救いだが、俺達はちょっと腹が減っていた。


 そろそろ何か肉系を獲らねばならぬ。だが、湿気を含む空気から感じていた通り、雨が降るようになって手頃な動物が出て来ない。パンク熊は何度か見かけたが、あいつらは食べられないからスルーだ。


 俺達は拠点を決めかねて、果実を採ってつまみ食いをしながら移動をしている。何故かと言うと、ぬかるんだ地面ばかりだから。テントは防水ではあるが、わざわざぬかるんでいる所に張りたくはない。


 「決まった時間に食事をするってんじゃなくてさ、ある物を採って食べながら移動って、俺達かなり野生になって来たな」


 「そうだね。人としての生活からかけ離れて来ている。これでは地球に帰った時に、街を歩きながら売り物の食品を採って食べようとしてしまうかもしれない」 


 「危ないな。出来るだけ時間を決めて食事をするようにしよう」

 

 「そうだね」

 

 どんなにこの森での野営に慣れて来ても、俺達の頭には常に地球に帰った時の事がある。それはなくならない。俺達が生きる場所はあそこだって思っているからね。



 今は呼び出そうとすれば命の水を川から呼べるんだしと、川を渡り今までは避けていた森の中でテントを張る場所を探してみようと思い始めた。

 川幅が広くなって来て渡るのが大変になって来たのと、森の中の小高い所の方が地面が乾いていると思ったのだ。

 妖精さん達がちょっと渋い顔をしていたような気もするけど、絶対にダメという感じではなかったので、その様にすることにした。


 途中で木の上で休憩をする。木の枝にそれぞれ座り、カップにスープを出す。離れていてもカップに注げるようになって更に便利な俺。

 

 「この温かいスープがあるだけでもありがたいわ」


 「具入りが出せたらもっといいんだけどな」


 「具なしでも有り難いよ、木の上だろうが何だろうがちゃんとしたスープが飲めるんだもんな」


 「木の上か。ねえ、鳥の巣のでかいの作って、木の上で寝るようにしたら森の奥でも割と安心じゃない?」


 「ああ、それはいいな。オランウータンがそんなの作って巣にしてるよね。最高に寝心地が良いらしいし」 

 

 そんな話をしながら再び木を飛び移り森を進む。

 と、史朗がいきなり木の枝を折って下の方に向かって投げた。ピギーッ!と声がして複数の何かが走り去る音がした。何事かと思えば、史朗が投げた木の枝に脳天を貫かれたタンク猪が地面に縫い止められていた。

 史朗が見つけた瞬間に一頭を仕留めたようだ。どうやら数頭の群れでいたらしく、他のものは驚いて逃げたのだろう。

 最初の頃はあんなに恐怖を感じたのに、今では可愛いとすら思ってしまうタンク猪。今回仕留めた個体は、弁慶くんよりはだいぶ小さくて3mくらいではあったが、食料としては十分だ。有り難い。


 「いいね、行動が素早いね!」


 「チャンスは逃したくなかったんす。ハラヘリ切実なんで〜」と、笑いながらぴょんぴょん降りていく史朗。


 「だよね。じゃ、俺も行きまーす」

 一緒に降りていって魔法を展開する。


 「解体!肉熟成、保存」


 「アラン君も早いね。手慣れてきたね」


 「これでとりあえず、また数日は持つね。皮はいるかな?」


 「一応、素材になるものは持っておこうぜ」


 やっぱ豚肉系はありがたいよねとか、そういえば牛系には出会ってないな等と言いながら、森というか、既にジャングルという表現がぴったりな木々の間をを奥へ進む。落ち着ける場所を見つけたら肉を焼いて食べよう。


 30分くらいで背の高い濃い緑の木々を抜けて、日差しが差し込む草地に出た。地面も乾いているし、嫌な感じもしない場所だ。俺達は今日はそこで肉を焼くことにした。木の上のベッドは後で作ろう。 


 肉を焼いて、途中で摘んできたベリー類を洗って、スープを出して食事をした。タンク猪がいたということは、もしかしたらこの辺には大ドングリも落ちているかもしれない。 

 

 そんな事を言いながら一息ついて、改めて周囲を見回し、俺はある木に目が釘付けになった。

  赤い赤いきれいな実がなっている木があった。そして、よく見ると、その木は更に奥の方にも沢山あるようだ。 


 「…史郎さん?」


 「なんですか、アランさん」


 「あれは、コーヒーの木に似ているように見えます」

 

 「ええ、俺も今気付いたんですが、かなりコーヒーの木に見えますね」 


 やった!コーヒーの木見つけちゃった感じ?でかい南天だったとかいうオチはなしだよね?


 俺たちは近くに行って、恐る恐る実を手に取った。だいぶ地球の物よりも大きいが、やっぱりコーヒーの実ではないのか?

 手にとった実を()いてみた。中から出てきたのは正にコーヒー豆の生状態。ちょっと赤い果肉を食ったら甘くて美味しかったよ。


 「博士、確実にコーヒーかと思われます」


 「うむ!採取だな!」


 自然に俺達の間でおかしな博士と助手プレイが始まっていた。嬉しくて楽しい時は仕方ないのさ。


 俺達はコーヒーの赤い実をひたすら採った。コーヒーの木がたくさん沢山あって、赤い実も豊作だから、沢山とっても大丈夫。

 「博士!大発見ですね!」「そうだな、アラン君!」と、うふふあははの状態で夢中で赤い実を集めた。

 そして集めた赤い実をつるんと剥いた。もちろん魔法で。


 確か、つるんと剥いた後は、本当なら洗って2〜3週間くらい乾燥させるんだったか。だが、そんな時間はかける必要はない。魔法で水分を抜いてカラカラにし、そして薄皮を剥いていく。ああ、ホントに魔法って便利。


 いわゆるコーヒー豆の状態になった実を、コッヘルに入れて焙煎しようとすると、過程を撮影していた史朗に止められた。 カメラを構えた史朗は、既に博士ではなくなっていた。


 「アラン君、前にも言ったよな?君に今コッヘルは必要か?」


 俺はハッとして、史朗を見た。


 「監督、すみません。俺また思考が働いちゃって…。でも、でも焙煎はちゃんとしたいんです」


 「わかるよ。焙煎の過程は()になるし香りも良いだろう。だがやり方がある。コッヘルじゃなくても良いんじゃないのかい?」


 「そうか!わかりました、監督!」 


 そう言って俺は、コーヒー豆を宙に浮かせ、見えないフライパンに乗せた気持ちで、下に手を置き火を出した。


 「それそれ!それだよ、アラン君!!」 


 監督が興奮してカメラを回す。



 俺は手のひらから出す火の温度を200度くらいにして焙煎を続けた。割とすぐに豆が膨らんで色が変わった。それを今度は風魔法で冷やす。


 これで良いのかどうかわからないけど、とにかくコーヒーが飲みたい一心でチャンレンジする俺たち。

 さて、ここからどうする?となって、風魔法のカッターで粉々にするか、それとも超音波粉砕にするかでちょっとだけ揉める。


 監督の指示で、今回は風魔法で粉々にすることにした。焙煎した豆をそのまま浮かせて、今度は見えない球の中に入れたイメージで風魔法を展開する。豆が細かくなっていく様子が見えて良い感じだ。 

 何よりも、すごくいい香りがして来て、俺たちはもう香りだけで小躍(こおど)りしそうだった。


 「風魔法ミルを習得した!」って文字がどこかに出ても良い程に上手く行った。史朗が「アラン君、いいよ!」と満面の笑みを俺に向ける。俺も楽しくて嬉しい。

 一気に技術が向上する。目標に向けたこの執念って大事だよね。

 

 俺が風魔法ミルで豆をやっつけている間に、史郎がカメラを置いて、自らのネルシャツを犠牲にして次の工程の準備をしていた。

 

 僕たち、ネルドリップコーヒー、やります。 

 

 まずネルを瞬間高圧洗浄で完全にきれいにして、そして命の水を熱くした湯を用意して、それではいざ抽出。

 二人共無言だった。史朗はまたカメラを回していた。 


 こっちの世界に来て、持ってきたコーヒーが無くなってから、俺が泣き言を言うから、史朗がハーブっぽい葉っぱであれこれ試し、茶というか薬湯を作ってくれて、それを飲みながらやって来た。

 そして今、美味いかどうかは別として、久しぶりにコーヒーが我々の元に戻って来たのだ。感無量だ。 

 

 抽出完了。香りは実に良い。 

 では、実飲。 

 

 2人同時にステンレスマグを傾け、自作コーヒーを飲んだ。…すごく美味いとは言えない気がするけど、なんか結構イケてない? 


 「これ、ちゃんと出来てんじゃん?」


 「おお、すげえな。俺たちコーヒー作っちゃったよ」 


 上機嫌で、コーヒーの木の前でカップを持ってポーズを撮った。

 

 「ブラックでもほんのり甘味がある気がするのは水のせいかなあ?」


 「かもな。しかしさ、こうなるとどっかにサトウキビとかあるといいなあ。サトウダイコンとか、サトウヤシとか、メープルでも良いけど」


 「蜂蜜でも良いね。蜂がデカそうだけど」 


 「とにかくなんか甘いの探そうぜ」


 そんな事を言いながらコーヒーを飲み、誰にとはなくカメラに向かって「元気でーす」と手を振る動画を撮る。 


 コーヒーが飲めて元気が出た。更にもっと沢山のコーヒー豆の加工をするために、その日は一日中そこでその作業をした。

 木の上のベッドはもう作る気力も興味もなくなってしまったので、その夜は等身大のセバス隊に周囲を警戒させながら、テントで寝ることにした。

 

 たまに変な生き物が出ることにもっと慣れたら、ここも結構快適なのかもね。

 寒くないしね。星はキレイだし、空気もきれいだ。

 そんな事を話しながら眠くなるのを待った。…が、眠くならない。 


 史朗がコーヒー・ルンバという歌を歌ってくれた。俺も覚えようと何度か歌ってもらい、俺達はその晩は色んな曲を歌いながら、そしてスマホに入っている曲を流して陽気に踊って過ごした。俺はラテン系のダンスは大好きなんだ。 


 そして、全然眠くならない俺達は、夜が明ける頃に悟った。

 異世界コーヒーは、どうやらものっすごくカフェインが強いらしい。結局俺達は、その後二日間全く眠れなかった。


 眠れないなら仕方がない。その後の二日間、俺達は超元気で移動や狩り、食料の加工など、色んな事をした。作業がとても(はかど)った。

 狩りも神経が冴え渡って、俺達は石礫だけで体高6メートル、体長12メートルはあるでかくて赤い水牛、レッドブルを倒した。初めての牛系の肉。レッドブルの肉は実に美味かった。

 異世界コーヒーは、もはや覚醒剤と言っても過言ではないんじゃないかと思うほどに、俺達は休むこと無くパワフルに頑張れた。

 カフェインが切れた時の反動を心配したが、眠れない二日が過ぎてからも、極端な疲れはやってこなかった。一晩眠って、後はただ普通の日常に戻っただけ。常習性もないようだ。良かった。 

 

 「コーヒーはさ、アメリカンで少しだけ飲もう」


 「そうだな」


 史朗の言葉に、俺も同意した。 

 異世界コーヒーのお陰で、いつもは寝て過ごす夜の森の様子も知ることが出来たのは良かった…かも知れない。

 

 「私はカカオも欲す」と史郎が言い出し、俺達はカカオを求めて更にジャングルを奥に進んだ。 

 

 

  

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