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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
魔の森
31/117

ハサミ蜘蛛

 その日、森の中、熊さんに出会った。


 夢のプロでデビューに向けて狩りに出かけた俺達の前に、とうとう現れた熊さん系魔物。


 やはりこの世界にも熊はいた。

 だが、目の前のこいつらはただの熊ではなく魔物な2体。


 体長は5メートル程と7メートル程だろうか。目が赤く光っていて肩や腕、そして背中に大きく鋭い角がある。中々パンクな熊だ。

 見るからに力強そうな前足の鋭い爪が、俺達を認識した途端に更に伸びた。タンク猪こと弁慶くんの角と同じで、仕掛けはわからないが敵が現れると戦闘態勢に入り伸びるらしい。

 セバスがいたら、有無を言わさず「逃げろ!」と指示されたであろう、でかいでかいパンク熊達。


 7メートルサイズの方のパンク熊が、左腕の一振りで太い木を3本軽々と砕いた。

 左利きか。オスかもしれないな、と俺は思った。


 低い唸り声と赤くギラギラと光る双眸。身体中から見えない炎のように広がる憎悪のエネルギー。彼らはまるで、自分たち以外の生きるもの達への怒りと憎しみだけで出来ているかのようだ。

 攻撃と破壊以外には関心がない、正に魔物だった。俺達の息の根を止める事だけを熱望するように襲いかかってきた。


 だが、この日の俺達は無敵だった。


 明確な目的があることが、慌てがちな俺達を冷静にさせていた。


 もう「こわい」などという感情には左右されない。俺達が求めるものは「こわい」の向こう側にある。そこにたどり着くためには「こわい」なんて感情は、ただの道端の小さなうんこでしかないのだ。

 ほら、俺達はもう、このうんこを軽々と(また)いで進むことが出来るじゃないか。


 そんな気持ちで、落ち着いてパンク熊達に対峙(たいじ)する俺達には、最早(もはや)敵は存在しないかのようだった。 


 史朗が跳び、上から石礫(いしつぶて)の一撃でパンク熊の脳天から体内を貫き、倒した。

 俺が風魔法でパンク熊・大の首をスパンと落とした。 


 出会ってからわずか1分も経たずに、パンク熊たちは倒れた。


 俺達は何だかウルトラマンみたいだなと史朗が笑った。「カラータイマーがピコピコする前に勝てたな」と。


 ごめん、史朗、それは何のことなのかわからない。とりあえず後でそれとなく聞き出そう。多分ヒーロー的な何かなんだろうと思いながら、俺は心のメモ帳に「ウルトラマン」「カラータイマー」とメモをした。

 

 俺は、妙に気になった2体の胸のあたりをナイフで切り、そこにあった直径5cm程の固まりを取り出した。

 「これも魔石だな。これは売れると思うぞ」という史朗の言葉を信じて、俺はふたつの魔石から汚れを取り除き、史朗に渡した。


 そして、俺達は凶暴熊を記録として写真に収めてから魔法で解体をして今日の拠点に運んだ。

 皮と牙や爪は大きな目的のために大切に状態保存をかけておいた。大切に。

 

 熊の肉も、一般的な臭いというイメージを検証するために焼いて食べてみた…が、ダメだった。とてもではないが食えない。パンク熊、残念だが君は不味い。カレー粉でもあればなんとかなったのかも知れないが、塩コショウすらなくなった今となっては無理。

 仕方ないので再び川の向こうに運んで埋めることにした。


 そろそろ何か食べられる肉を得ておきたいものだ。

 木々の様子が変わって来て果実が目立つようになって来た。ベリー系と思われる実も結構多い。俺達はそのまま、実の検証をしながら…つまりつまみ食いをしながら、タンパク質として食料に出来る動物を探しに森の中を進んだ。

 

 「俺達さ、随分強くなったから、今ならセバスさんに勝てるかなあ」と史朗が言った。


 「うーん、でもさ、こっちに来たとしたらセバスも跳べるし、一撃が強烈になるわけでしょ?」 つい冷静に史朗の夢を打ち砕いてしまう。


 「…無理だな」 


 「勝てる気はしない。むしろセバスの最強ぶりを見せつけられて恐いかもしれない」


 「さっきのパンク熊なんて、セバスさんならデコピンで倒しそうだもんな」


 「あらゆるものをデコピンで倒していきそうだ」


 「あの大黒蛇もゲンコツ一発で絶命させるかもな」 


 俺達は身震いをした。

 

 「この森に野生のセバスがいませんように」と俺が言うと、史朗が声を裏返して「お、恐ろしいことをいうなっ」と言った。

 かなり怖かったらしい。


 つまみ食いをしながら普通に歩く道々、俺はセバスに教わった武器を作ってみようかと思いついた。その辺の木でも作れる、投槍器。

 細い木を枝の突起が残るように切って、その突起部分を短く尖らせておく。でっかいかぎ編み棒みたいな形。これがアトラトル。

 槍にする枝を長く切って、アトラトルの突起部分に上手く引っかかる様に枝の片方を(えぐる。そしてもう片方は尖らせる。この槍をアトラトルの突起に引っ掛けて2本一緒に持って、そして的に向かって上に持ってる槍の方だけを投げる。手で投げるだけよりもアトラトルを使うと押し出す力が強く加わるから、遠くまで飛ばせる。

 

 「それ何?」と史朗が興味を示す。

 石礫の一撃で至近距離の敵を葬れる史朗だが、遠く離れているものに対してはイマイチ攻撃力は低くなる。俺が「エアげんこつ」と呼んでいる遠当て正拳突きも数メートル先までしか威力はない。


 「これはアトラトルってやつで、弓のもとになったっていう昔の武器なんだ。上手に飛ばせばこっちの槍みたいにした枝を、軽く100mくらい飛ばせるよ。セバスが、何もない時に兎や鳥を獲るのに知っておくと良いって、俺が10歳くらいの頃に教えてくれた」


 「へえ、いいな。長いから木の間を飛び回る時はちょっと邪魔だけど、背中にしょっておけばいいかも」そう言って史朗が、少し短めのサイズで槍を作って練習をし始めた。勘がいいから、すぐに使い方を覚えて、その辺の木の実を狙っては落としている。


 「これ、平地だと使えるな。スリングショットよりいいかも」


 「俺、これ最初にやった時上手くできなくてさ、アトラトルと槍を一緒に飛ばしちゃって、セバスに『そうじゃありません』って何度も言われた」


 あははと笑いながら森を進み、少し小高くなって木がほとんどない場所に出た。

 命の水川とは違う小川が流れていて、その近くの木に中型犬くらいの大きさの、黒い毛の生えた多足の何かが5〜6匹、モゾモゾと動いていた。 


 「え?あれは…なんだ」


 丸い目が複数ある限りなく蜘蛛っぽい、あまり好きじゃない系の生き物。それぞれに右に大きな、そして左に小さなハサミを持っていて、カニといえばカニにも見えなくもない。赤くなったら毛ガニと言うことも出来る。…でもやっぱり顔が蜘蛛っぽい。


 二人共言葉が出てこない。

 襲ってくる様子もないので、しばらく離れた所で眺めながら無言で悩んだというか、観察した後に史郎がようやく口を開いた。


 「アラン、で、あれはカニ?蜘蛛?」


 「うー、カニかな?」


 「なんか尻から糸出してるけど、…ハサミあるからカニ?」


 「俺たちは食料を必要としているから、カニって事でどうでしょうか?」


 「…食料。あれを?…お前、勇者だな」


 「地球でも何人かの勇者が、大昔にカニやエビ、そしてウニを食べました!その勇気の恩恵を世界が受けています!そして俺の勘がアイツはGOだと言っている」


 「お、おお、そうか。そうだな! よし、あれはカニ、あれはカニ、あれはカニ」



 史朗が作ったばかりのアトラトルを使った。

 きれいな放物線を描いて槍1号がカニの頭部を貫く。

 …まあ、頭部と言っちゃってる時点で、形的にやっぱりカニじゃないよなってのは認識している。だが、俺の中の何かがGOと言うんだもの。


 一匹を狩ると、他のカニ達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


 俺は無言で火を出し、その暫定「カニ」の脚部分を焼いた。野生の勘が、こいつは食べても大丈夫と言っている。だが気持ちがちょっと微妙。


 しかし、「カニだ」と言った責任として、まず俺が、自分を信じて恐る恐る焼けて赤くなった脚の部分を割り、中のカニっぽい身を食べてみた。



 そして!



 なんと!俺の勘よ!良くやった!!

 まるで栗のようなほっこりした美味さだ。量的にも、多分、脚一本でかなり腹も心も満たされるだろう。


 「暫定「カニ」美味し!」俺は声を大にして言った。


 その一言で史朗も食べ始めた。


 「ホントだ!この蜘蛛、美味い!!」


 ああ、言っちゃった。

 まあ、蜘蛛だよね。そうだよね。カニってよりハサミ蜘蛛だよね。


 ちょうど小腹も減っていて、しかも美味いので、俺達は2本ずつ脚を食べた。残りの4本は持ち帰りだ。


 ふと見ると他のハサミ蜘蛛たちがまた戻ってきていた。

 ああ、あそこに巣があるんだ。糸が張ってあるね。単体じゃなくてグループで暮らすんだ、珍しい習性だね。でも、君たちそこにそうやって集まってると、美味しいからまとめて獲られちゃうんじゃないの?大丈夫なの? 


 何となく近付いてみると、ハサミ蜘蛛たちが身を固くして縮こまる。

 大丈夫、大丈夫。俺達は今、割と腹が満ちているから乱獲はしないよ。ふふふ。そんな事を思いながら、そっと糸に触れてみた。


 「やっぱネバネバしてるな」


 「こいつら何を餌にしてるんだろうね?」


 「ねえ、こいつらってすごく子供でさ、実はものすごく巨大になる種で、こうしてると親が現れてってオチじゃないよな?」と言って史朗が笑う。


 やめて。なんかそれ、とても嫌な気持ちになるから。

 今、俺達はこのハサミ蜘蛛のサイズなら、捕食者は自分たちだと思ってるので、ここまで寄って来てるわけで。この子達が赤ちゃんだったりしたらなんて、そんな恐ろしい事はあってはならないと思うんだよ。 

 

 糸がやけに動いている巣があったので、そちらを見てみると、そこには妖精さんが掛かっていた。え?何してんの?獲られてるの?

 驚いてそっちに行くと、正に妖精さんをクルクルと巻こうとしていたハサミ蜘蛛が、くっと身を固めて動かなくなる。隠れてる気持ちなのかな?丸見えだけど。そう思いながら、そっと巣から妖精さんを外して巻いてある糸を外す。うん、この子は知らない妖精さんだな。


 餌に逃げられたハサミ蜘蛛が、困った素振りで左右に揺れている。

 「なんかごめん。でも妖精さん達は許してあげて」と言って、俺は持っていた弁慶くんの燻製を少しちぎって巣に貼り付けてみた。 


 困って揺れていたハサミ蜘蛛が、ハッとした様子で燻製にしがみついて味見をしている。そしてプルプル震えだしたかと思ったら、色が変わり始めて、黒から綺麗なエメラルドグリーンに変わった!え? 


 「アランさん、また何かした」 史朗が言う。


 「弁慶くん燻製を食べたら色が変わった」


 「まさかな、桃太郎じゃないだろうな」

 

 「なにそれ?」


 「お腰につけたきび団子を一つ上げたら仲間になっちゃうっていう、桃太郎というおとぎ話だ」


 さっきまで餌になる寸前だった妖精さんが、エメラルドグリーンになったハサミ蜘蛛に近付いて笑顔で話しかけている。え?大丈夫? 

 エメラルドグリーン・ハサミ蜘蛛が、スルスルと巣の上の移動して行き、他の巣にも引っかかっていた妖精さんを救出し始めた。そしてその巣のハサミ蜘蛛に俺があげた弁慶くん燻製を分けてあげている。 

 

 なんだろう、こいつらってもしかして知能が高い?美味しいけどちょっと食べにくい気がしてきたぞ。

 

 脇で観察していた史朗が、「燻製食って色が変わると、色だけじゃなくて性格とか知性が変わるみたいに見える」と言う。

 

 燻製は命の水川で良く洗った肉で作ってある。もしかすると命の水のお陰で、ハサミ蜘蛛達の瘴気が抜けるって事か? 

 俺は命の水川から水を呼び出して、他のハサミ蜘蛛に雨のようにかけてみた。すると、それぞれに黒から明るい綺麗な色に変化して、ハサミのある両腕を上げて嬉しそうに左右に揺れる。

  

 「ちょっと可愛いな」と史朗が言って、その毛を撫でている。俺はそこまでは無理。


 黒くなくなった数匹が集まって、一斉に糸を吐き始めた。日の光でキラキラと光る糸は長く長く風に流れて、やがて一本の長いロープの様になった。それを器用にまとめて俺に渡してくれるハサミ蜘蛛たち。同様にもう一本作って史朗にもくれた。


 君たちの仲間を食った俺達に、こんな綺麗で強靭そうなロープをくれて良いのか?と思いながら受け取り、更に他のハサミ蜘蛛達にも命の水をかけてやった。そして俺が持っていた弁慶くんの燻製を全部あげた。…テントにまだ少しあるし。

  

 ハサミ蜘蛛達は、やはりハサミのある両腕を上げて左右に揺れ、嬉しそうだった。 

 俺達はハサミ蜘蛛の巣に掛かっていた3人の妖精さんを解放して、そして残っていたハサミ蜘蛛の脚を持ってテントに戻ることにした。


 さて戻ろうかという時に何気なく史朗が、脚を取ってしまったハサミ蜘蛛の本体を「これ、埋める?」と言いながら槍で動かした。その瞬間に腹から、わーっ!てちっこいのが一斉に散らばったっていうか、もう、わーって出てきて、超びっくりした。 


 何ていうの、バスケットボール満杯にミリ単位の蜘蛛の子が詰まってて、それが一斉に出てさーっと煙みたいに四方に広がる感じ。


 俺達は、ギャー!って叫んで跳び上がって逃げました。巨大な親蜘蛛が出てくるよりずっと怖かった。あれが本当の「蜘蛛の子を散らす」の威力なのか。


 ちなみに翌日、テントを畳んで移動をする前に、また怖いもの見たさで行ってみたら、辺りは大小の蜘蛛の巣だらけになってて、昨日色が変わったハサミ蜘蛛達は身体が一回り大きくなっていた。俺達を見つけてハサミを上げて左右に揺れているので、命の水雨を降らせてやった。


 また引っかかっている妖精さんが2体いたのでそっと救出し、そして、そこに流れている川にも少し命の水を降らせてみた。

 降らせた所から川の水全体が少しクリアになるような気がした。それを見た史朗が合掌すると川の周辺に風が吹いて、その辺りが明るくなったようだった。


 何となくだけど、ハサミ蜘蛛たちも妖精さん達も喜んでいるようだったので、きっと少し「呼吸がしやすくなった」のだろう。

 

 妖精さん達に「もう引っかからないように」と伝え、そして俺達は、更に命の水川の下流に向かって進む事にした。

 

 


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