ビッグバードとの戦い
ここでは鳥もでかい。
ニワトリくらいある雀っぽい鳥や、大鷲くらいのカラスのような鳥がよく空を飛んでいる。
森から飛び立ち森に帰っていく。つまり森に巣があるのだろう。多分。
今日はやつらの卵を拝借しに森に行く。
どうか生みたての卵がありますように。
間違っても育ってしまって孵る少し前ではありませんように。
孵化直前の卵を茹でて食べるバロットという料理があることは知っている。だが、俺はそれはダメ。無理。形が出来かけた状態では食べたくはない。てか見たくない。
鶏なら育っている卵は持った時に妙に重いとわかるが、サイズ感がわからないこの世界の鳥の卵では、どれが軽くてどれが重いのかわからない。
史郎に言ったら「それは透視でなんとかならないか?」と言う。
無理、てかヤダ。だって透視なんかしたら、あらゆる状態の卵の中身を漏れなく視ることになるじゃないか。俺は白身と黄身以外は見たくないんだ。
そもそも透視なんて俺に…あれ?出来るのかな?出来そうだな。
まあ、それは後でいいか。
俺達はそれぞれバッグに石を詰め込んで腰につけ、水とカメラを持って出かけた。もう武器はあまり意味がないとわかったので持たなかった。石は主に史朗用だ。
この日俺達は、今まで行ったことがない東の方に進んでみた。鳥が飛ぶ事が多いのも理由の1つだが、大黒蛇がいた西側はやめたんだ。もちろん、大黒蛇だって移動しているので、東にもいないとは限らない。だが、いるのを見てしまった方角にわざわざ行く気にはならない。
東の森は何となく植物が俺達の拠点とは違うような気がした。
そんな事を思いながら2時間近く跳び回ったが特に鳥の巣が見つからない。
「もしかしたら、木の上じゃなくて結構崖の上に巣を作ってるんじゃないの?」
「そうかもね。じゃあ崖の方に行ってみた方がポニョの卵はあるかもしれないなあ」
「はい、もう名前がついた。鳥なのにポニョ」
「ポニョ鳥は肉食じゃないよね…」
「む。肉食の場合、俺達が雛の餌になる可能性もあるな…」
史朗と俺は顔を見合わせてブルッと震えた。
「やっぱ小さめの雀ポニョを狙おうぜ。アレくらいなら大丈夫だろう」
鳥は恐いんだ。何しろ恐竜の子孫だからね。
あの小さなニワトリだって気性が荒くてとても攻撃的だ。本気で殺りに来るからとても恐い。
俺は小さい頃、うちの飼育場で飼っていたニワトリの卵とり体験をした事がある。鶏舎があると知って行きたいと騒いだのだ。
初めて長靴を履いて、汚れてもいい服を着て手袋をして、意気揚々と鶏舎に向かった。そして「にわとりさーん!」と無邪気な笑顔で、係の者に付き添われて入っていったんだ。
ニワトリ達は「なんだあのちっこい人間は?けっ!」という感じで見ていた…らしい。係の者達が牽制していたので遠巻きにしていたようだ。
だが、俺が卵に手を伸ばした瞬間、一羽のニワトリがカッと目を見開いて「俺の子に何しやがる!」とばかりに特攻を仕掛けてきた。メスのニワトリ達が鳴き出した。「あんた、やっちまいな!」と言っていたのかもしれない。
幼児だった俺からしたら、ニワトリさんはものすごくでかい鳥だ。あの目が怖かった。そして、あの不思議な形の足が、羽ばたきという威嚇と共に俺めがけて飛んできたのだ。更に研ぎ澄まされたナイフのような嘴が俺の手をかすめた。「ヒィッ!!」多分俺はそう声を上げたと思う。
係の者がすぐに俺を抱き上げて助けてくれたが、かわいい卵に手を伸ばした嬉しい気持ちが、一瞬で恐怖となったあの感覚は、屋敷に戻ってからもしばらく拭い去る事ができなかった。
今でも泣き虫なので、幼児の時はもっと泣き虫だったのは想像に難しくないだろう。「ごめんなさい。ごめんなさい」と泣いて、それからしばらくは卵料理が食べられなかった。
奈々恵に「この玉子は大丈夫な卵ですよ。私の国の文字にするとこの違いがありますよ」と、玉子と卵は違うのだと理屈を言われて、そうなのかな?と思ってから食べられるようになった。
正直、「モノは同じだよな…」とは思ったが、ささやかに俺の心を慰めてはくれたのだ。そういえば、本格的に日本語に興味を持ったのはあれからだったか。
…なんて回想をしている場合ではない。俺は気を取り直して辺りを見回してみた。
鳥の巣だからと木の上ばかりを見ていたが、ふと下方を見ると遠くに黄色く固まっている何かが目に入った。
「ねえ、何かあそこ黄色いぞ」 俺が言うと史朗もそちらを見て「なんだろう?なんだかモサモサ動いてるな、少し近付いてみるか」と言い、黄色いモサモサに向かって移動し始めた。
結論から言うと、黄色いモサモサは鳥だった。
モサモサが4体いて、大胆にも地上に巣を作って抱卵している。
形はダチョウみたいだが、全身を鮮やかな黄色い羽が覆っていてアレみたい。あの、セサミ・ストリートのビッグバード。
顔はニワトリの精悍さがあり嘴がでかくてとても鋭い。体高は、木の上からでははっきりわからないが、恐らく小さいので俺と同じくらい。大きいやつは5mくらいはありそうだ。
地上に巣を作るような豪気な性質からして、恐らく凶暴、そして強い。
「あのチョコボでかいな」史朗がささやく。
「でかいね、ビッグバード」俺が言う。
「まて、あれはチョコボだろう?」
「えー、ビッグバードだよ」
そんなことはどうでもいい。卵を見ろ、俺達。
巣が3つある。そのうちひとつの巣には卵が5つあった。30cmくらいの卵が5つ。
「あるな」
「ああ」
「行くか」
「行こう」
相手は全然小さめのポニョではないが、俺達は行動に移った。
俺が奴らの前を跳び回って気を引き、史朗が卵を掠める。
俺が気を引き、史朗が…史朗が…、あーーーー!!!どっちも気を引いちゃったーっ!!
けぇええええええええっ!!
メスと見られる小さい方のビッグバードが雄叫びを上げた。そして、一斉にギロッと俺を見たビッグバード達が恐ろしい殺気を放つ。
史郎が隙きをみて卵を抱え跳んだ。だが、その動きをその場のビッグバードが全員目撃していた。目の位置が正面ではなく左右に離れているからなのか、視野が270度くらいあるのもしれない。かなりの範囲で周囲の動きをお見通し。
一瞬、どっちを追うか迷ったようだったが、一番大きな奴、推定オスが ぎぃぃええぇぇぇ!と声を上げて史朗を追い始めた。いかん!
俺はビッグバード達に向かって魔法を放った。
「ステイ!」
後に史朗に「犬の躾かよ」と言われたが、い、いいんだ。その場を動かないようになればそれで…。
既に移動を始めていたオスビッグバードだけはステイを逃れて、跳びながら逃げる史朗を追っていく。俺はステイに2時間の制限を付けて、すぐにオスビッグバードを追った。
史朗も速いがオスビッグバードも速い。飛べないらしいが、追いながら史朗の尻や足を鋭く突いていく。当たってはいないようだが、史朗のズボンが切れているように見える。風圧で切れる程の突きか。危ない。
「史朗、上だ!こいつ飛べないみたいだから、上に逃げろ!!」
後ろから追いながらそう叫ぶと、史朗がすぐに上に登っていく。オスビッグバードは少し行き過ぎてからUターンして史朗が登った木の所に戻って来た。そして、その太くたくましい脚で蹴りを一撃木に放った。
「おわぁ〜〜〜〜っっ!!」
史朗が木の上で声を上げる。
木が折れて倒れる。
寸前で史朗が別の木に飛び移る。
オスビッグバードは執拗に史朗を追いかけようとする。
俺はバッグから石を出してオスビッグバードの脚を狙おうとして気づいた。違うよ、魔法だよ、俺!
オスビッグバードの脚に向けてエアカッターを放つ。
見えない刃はビュンっ!と飛んでオスビッグバードの脚を切り…ませんでした。ちょっとだけかすっただけ。寸前で避けられた。野生動物恐るべし。簡単には当たってくれない。
だが、オスビッグバードの意識をこちらに向けるのには十分だった。くるりと頭をこちらに向けて目を細め、低く ぎぃぃぃと鳴いた。
こわい。
物凄く狙いを定められた気持ち。
「史朗、早く行って!」と叫び、俺はオスビッグバードが動く前に魔法を放つ。
「ステイ!」 …からの、「エアカッター!」
そしてオスビッグバードの首を落とした。
オスビッグバードは多分、何が起こったのかわからないうちに絶命しただろう。ゆっくりとその巨体が倒れる。ドォォン!と地響きを立てて埃が舞い上がり、俺は顔を庇う。
風を起こして埃を吹き飛ばし、オスビッグバードを見ると、落ちた首がこっち向いていて、恨めしそうにその目がじっと俺を見ていた。ヒィィ!
「やったな!」 そう言って卵を抱えた史朗が戻ってきた。
「ビッグバード一家の大黒柱であったであろうオスビッグバード、ごめんよ」と俺が言うと、史朗が卵を下に置いて合掌する。そして言う。「こうなってしまったからには無駄にしてはいけない。アラン、解体だ」
初めての魔法で解体。
俺が「首は落としてあるけど、まずは、これを逆さに木に吊るして血抜きかな」とつぶやいた。そこで史朗からのダメ出し。
「違うな。やっぱお前は魔法がわかってないよ」 カメラを構えた史朗が言う。
「え。すみません、監督」
「あのさ、俺言ったよね。過程を考えすぎだって。良いか、使うのは何だ?『魔法』だろ?」
「あ、はい」
「魔法とはなんだ?有り得ないことが起こる、無理だと思うことが可能になる、それが魔法だろ。お前は今何がしたい?この倒れているチョコボ、いや、ビッグバードが一瞬で解体され終わって、羽とか皮とか内臓とか肉とか、それにパッと変わって、あら便利!って言いたいわけだろ?」
「はい」
「だったらさ、わかるだろ?血抜きとか、そういう過程はすっ飛ばして、完了形にパッといっちゃおうよ、パッと!な?」
「あ、はい!わかりました」
俺はビッグバードを見て、それからこいつが完全に血抜きされた状態で、羽、肉、骨、嘴、爪、その他の内臓や脳、目玉などに分かれて並ぶ様子を思い浮かべて言った。
「解体、完了」
「おおお!お前、マジで細かいな」撮影をしながら史朗が言う。
ビッグバードは見事に解体され、それぞれに分かれて、羽は全て洗浄された状態で袋に詰まり、肉はカットされたまま汚れないように宙に浮いている。骨も同様に洗った状態で宙に浮き、嘴と爪はそのまま地面に。その他の使わないと思われる内臓等は既に地中に埋めてある。
「どうでしょう、監督」
「うん、いいよ。魔法って感じだった。内臓とかはどうしたの?」
「はい、廃棄処分する部分に関しては、既に地中に埋めてあります」
「いいね。良い判断だ」
監督が満足そうだ。それから言った「ここまで来ちゃうとさ、一気に肉を燻製にしちゃうとか、焼いちゃうとか、出来上がった物があっても良い気がするな」
ああ、そっか。そこまでは考えてなかったなあ。
「いや、いいか。あんまり出来上がり過ぎもつまらないよな。調理ぐらいは俺達が自分でやりたいしな。’’多少の不便さは楽しみでもある’’ってのは忘れないようにしたいよな」
なんか史朗が、ちょっといい事っぽい発言をした。多少の不便さは楽しみ。なるほど、確かにそうかも。じゃ、これでいいや。
「じゃ、これでオッケーということでいいですか」
「おう、オッケーだ!一発オッケー!」
良かった、一発OKだ。撮り直しなし。俺はやり切った気がした。
「そういや、あれはないの?あの、空間魔法っての?小さいカバンにすごい容量が入っちゃうっての」
「お、俺に亜空間を作れと?!」
「ダメかな?」
「ちょ、ちょっと時間を下さい。そっちの分野は思考が働いてしまって…。それよりまずは状態保存という事で鮮度を保つ事を先に行いたいと思います」
「あ、じゃあそれやって。撮るからチャッチャッとやっちゃって。画になるようにちょっと派手目でね」
「はい、監督」
俺達はこの監督と新人俳優的なプレイから抜けられなくなっていた。
肉とその他の素材を浮かび上がらせてから「状態保存」と言って、無意味なキラキラのラメを飛ばしてみた。史朗監督から一発OKをもらって、それから、ビッグバードの卵と肉などが浮いたまま後から付いて来るようにしてテントのある拠点に戻った。
「やっぱさ、魔法があると作業がはかどるなあ」
「ほんと、楽でいいよね」
そう言いながら、手作業で燻製を作る準備をし、燻製にはしない今日食べる肉はカットして、串状にした枝に刺して焚き火の周りで焼き始めた。
状態保存がいつまで効くのかはわからないので、試しに少し残して常温に置くことにして、他は燻製にしている。
この状態保存は時空魔法ってやつなのかな。
燻製を仕込み終え、ビッグバードの卵を割ろうとしていたその時、上空を竜が3体飛んでいった。
「お、この辺を飛ぶのって珍しいな」
「ほんとだ。結構低く飛んでたね」
「しかも何か小さくねえ?いつも見るのってもっとバカでかい印象があるんだけど」
「うん、俺も思った。あんなに小さいのかって。種類が違うのかな?」
呑気にそんな事を言っていると、ズズンッ!という地響きと共に上から崩れた岩の一部がガラガラガラッと落ちてきた。
何事??




