魔法と恋バナ
史朗が無言のまま、おもむろに川向うに向かって俺と同じ様に腕を振りながら言った。
「エアカッター!」
何も起こらない。
そのまま立っていた史朗がポツリと「…属性か?」と言って、俺の方を向き、「次はファイヤーだ」と言う。
「え?」と言うと、「ファイヤーだよ。次はファイヤーと言え」と俺に魔法を求めてくる。
俺は頷き、言われるままに手のひらを上にして、もしもボッと出たら危険だから前方に手を伸ばして小さい声でそっと言った。
「…ファイヤー」
ボッ。
うわっ! 小さく言ったのに、そこそこの大きさで火がついた。高さが30cmくらいあったので、手のひらを覗き込みながら言ったら大変なことになっていた。みんなも気をつけろ!
「おおお、火だ。これで火起こしが楽になるな!よし、次は水だ、このカップに水を入れてみろ」そう言って、史朗がコーヒーを飲み干したカップを俺に差し出す。俺は言った。
「水!カップ満タン」
途端に命の水川から水が竜巻のように立ち上がり、史朗の持ったカップに飛び込んできた。きっちり満タンだった。
「え?アラン、なんで川の水使ったの?」史朗が俺に聞くので、「なんとなく、水って言ったら川かなって思っただけ。別に川から汲むつもりはなかったんだけど…」と言うと「ちょっと、んじゃ、今度は川関係無しで水入れてみ」 そう言ってカップの水を飲み干して空にし、また俺に差し出した。
「水!カップ満タン」
同じことを言いながらも、川のイメージをせず、カップの上に蛇口があるようなイメージにしてみた。
「はいはいはい!いいね。今度はいきなりカップに水が湧いて出た感じ。こっちにしなよ」と史朗がニコニコしている。
そして飲んでみて「うん、これは普通の硬質ミネラルウォーターだな。俺、軟質がいいから、次からは軟質にして」などと言う。
「ダイエットとか便秘には硬質がいいんだよ」とキャロからの受け売りを言ってみる。「いや、軟水で頼む」史朗は譲らない。
「あ、でもさ、甘い果物があったら炭酸水で割って飲むってのもありだな!」と言う。俺もそれはいい考えだなと思って、「今度、甘い果物探そうぜ!」と答えた。
「史朗もやってみなよ」というと、「うん、でもまずはお前からだ。なんか俺は出来ない気がするんだよな。直感だけど。何かがお前と違うんだと思うんだよ。妖精とも話通じないし」
確かに、数日経つが、史朗が妖精さんに何を話しかけても、相変わらず妖精さん達は不思議そうに顔を見合わせたり首をかしげるばかりだった。
史朗が、次は土だと言う。そこに土で何か作ってみろとと。
急に何か作れと言われても困る。どうしようと思っていると、「女の子だ。女の子を作ってくれ、等身大で」と史朗がリクエストをする。
そんな、等身大の女の子なんて…と思いながら、ふと身長の低い奈々恵を思い出し、小さい人なら土の量も少ないしあんまり頑張らなくても作れるかも?と思って、そのまま「おにゃにょこ!」と土に向かって言ってみた。
そしていつものメイド服の奈々恵が現れた。全くの等身大で。
「アラン、お前ふざけんてんのか?」
史朗が呆れた顔で俺を見る。「む、昔は女の子だったはずだ…」と言って、慌てて俺は奈々恵を戻した。でも、かなり良い出来だったと思うんだ。
「とてもリアルな奈々恵さんだったけどさ、そこはちょっと考えようよ」と史朗が言うので、今度は美人のアリスをイメージしてみた。
「人型!アリス」
すると、そこには見事な8頭身の美しいアリスの姿がとてもリアルに創り上げられた…裸で。しまったー!
「おおお!!」 史朗が声を上げる。即座に俺はアリスを消した。「おい、ちょっと何してんだよ」 史朗が怒る。
「今のはダメだよ。裸だったじゃないか」
俺が言うと史朗が「何を赤くなってんだよ?あ、お前…さては彼女と浮気をしたな」と俺を問い詰める。
「浮気じゃない。そもそも俺は誰とも付き合ってない」
俺がそう言うと「何いってんだよ、キャロさんと付き合ってんじゃないの?」と痛い所を付いてくるので、「お、俺はっ…俺は付き合ってるつもりだったんだけど、キャロにとっては遊びでしかないんだ…っ。今のアリスだって、俺のことは本気じゃなくて…くっ」とバカ正直に答えた。
しばらく沈黙が続いた。何だ?何で土魔法でこんな事を告白しているんだ?
やがて史朗が「ちょっと休憩しよう。お前が魔法を使えることはわかったしな」と言って生暖かい優しい目で俺をみた。
「うん…」俺は答えて、大ドングリ粉をまとめて、ビニール袋に入れた。
大ドングリ粉にココアを混ぜて、水を少し入れてビニール袋のままよく揉んで混ぜた。
平らな石を焼いて、その上にココアドングリを丸く広げて焼いた。
火魔法と風魔法が使えるとわかってからは、食事の作業も楽になった。ココアドングリを風魔法でひっくり返し、裏表をよく焼く。エアカッタープチ(俺命名)でケーキを切るようにカットし、更に風を使ってそれぞれの皿に乗せる。
「使いこなしてるな」 史朗が満足そうに言う。
「便利だね、魔法って」 俺もちょっと楽しくなっていた。
ココアドングリはあんまり美味いとも言えないけど、まあ香ばしくて悪くはない。アク抜きをしっかりしたからか、嫌な味はしなかった。
「卵があると良いな」
「そうだな」
持って来たスープと弁慶くんの肉とココアドングリの食事。食べ終えて一息ついている時に史朗が話しだした。
「俺さ、キャロさんってアランの事好きだと思うぜ」
「もういいよ、キャロの話は…」俺がふくれっ面をすると、ふっと笑って更に話を続ける。
「あのさ、アパートで3人で遊んでたことあったじゃん。初めて俺をキャロさんに紹介してくれた時な」
「ああ」
「あん時、お前先に床で寝ちゃっただろ?」
「初めて大型犬になった時だ」
「お前が寝ちゃってから、しばらくキャロさんと話してたんだけどさ、その時にキャロさんが言ったんだよ。『あたしは30歳前に子供を生みたいし、だから早く結婚したいの。普通に家族を持って年を取りたいんだよね』って」
うん、それは知ってる。いつも言ってるし。だから俺はキャロの本気の対象にはならないんだって。
「アランは絶対言わないけど、実はすごい家のお坊ちゃんでしょ。大学で有名だもの、知ってるわよ。このアパートだって普通じゃないじゃない?
最初に会った時は知らなくてさ。普通の大学生だと思って、なんかガタイの割に童顔でピュアそうで、良いなって思って声かけたのよ。まさかの14歳で、そりゃピュアだわ!って納得しちゃったわよ。
素直でさ、慎重なくせして変な所で大胆で、この子がもっと大人になるまで一緒にいたら、私達結婚したりするのかな?なんて思ったこともあるわ。気持ち悪いよね、いい大人が未成年に。でも、本当にそう思って、それもいいかもなって思ったのよ。
でも、アランのお家の事とか色々知って、あたしじゃダメなんだろうなって思って…」
そう言ったのだという。
史朗は「俺が言えることじゃないけど、アランの家の人は年とかは気にしないと思うよ」と言ったそうだ。するとキャロは続けた。
「もし、お家の人が気にしなくても、あたしが気になっちゃうのよ。
それに、あたしよりもっと合う人がいるって思う。なんか、この子は本当にはあたしを選ばないって変な確信があるのよ。卑下してるんじゃなくて、何ていうのかな…縁?アランとあたしにはそこまでの縁がないって、残念だけどそう感じるの。
それに、これからアランが本当に大人になるまで待ってたら、自分は年を取っちゃって子供も難しくなっちゃうかもしれないし、それでアランを憎らしく思うことになりたくないのよね。
こんなの乗り越えちゃう人達もいっぱいて、幸せになってるのも知ってるけどさ、何だかあたしとアランは違うんだって、変な確信があるの。ほんのちょっとだけど、ズレていて合わないってのは、仕方ないわよね。
なんか、分不相応って言葉をすごく考えちゃってさ。自分の身の丈にあった相手とか生き方ってのを、あたしは選びたいんだよね。
馬鹿よね。あたしの中ではとっくに答えが出ちゃってて、早く離れた方が良いって思うんだけど、なかなか手放せないのよね、このおバカ犬が。
それにさ、最近、他にも女いるでしょ、こいつ。時々あたしは特別なのかもって思ったりもするけど、でもそうじゃないんだなって思わないとやってられないのよね。大人ぶって距離を保ってないと、あたしの方が苦しくなっちゃう。内緒よ」
そう言って笑っていたそうだ。
俺は言葉がなかった。
そんなの知らないよ。いつも俺のことカウントすら出来ないボウヤだって言って、恋人同士って言葉も否定されて、かわいいけど目当ては身体だって言って…。
キャロがずっと一緒にいてくれるなら、俺はずっとキャロだけで良いのに。むしろキャロだけの方がいいのに。
子供が欲しいなら頑張っていっぱい作るし、養えるようにちゃんと働くし。
それに爺ちゃん達はきっと反対なんてしない。
社交界なんて出なきゃいい…ってことはないけど、たまにだって全然いいんだし。
と、そこまで考えて気がついた。それ以前の問題だよ。
俺、地球に戻らない限り何も出来ないじゃん。
もしかして史朗がキャロの内緒話を俺に教えてくれたのは、俺達が帰れるか帰れないかわからから、キャロの本当の気持ちを知っておいた方が良いって思ったからなのか?
「ふうぅぅぅ、史朗、俺は今から泣く」
「おう、泣け。思い切り泣け」
「俺、こっち来てから泣いてばっかり。10歳の時に涙は封印したのにぃ」
「一生分泣いとけ」
泣きながら俺は心の中でキャロに向かって叫んだ。
「俺はキャロが大好きで、キャロをお嫁さんにしたいよ!」
何故か、「ごめん。それに愛してるじゃなかったから却下」という笑い声が聞こえたような気がした。
そこは幻聴でも「YES」って返しておこうよ、キャロ。




