風魔法
「親父殿、森に精霊の至宝が戻っている」
「まことか」
「ああ、戻る途中に目が合った」
「目が合った?あちらも気づいたのか?」
「二本足の細かい連中、人というのか、あれらが群れをなして住んでいる平地の近くにいた。あそこの崖の下からこちらを見ていた。俺が視線を合わせたら気付いたようで、慌てて見るのを止めたがな」
「ほう。その位置からこちらに気付くとはさすがだな。しかし、まだ人などに関わっておるのか。相変わらず酔狂な事だ。…いや、待てよ。違うな。あれはイシルディン神とは違って、元より人の子として生まれたのだったか…」
「こちらから行くべきか?」
「まあ待て。出方を見てからでも遅くはあるまいよ。…何、戻ったのであれば時間はうんざりするほどある。慌てることはない」
「…わかった」
「なんだ、行きたいのか?」
「興味はある。だがいい。慌てても良いことはないだろう」
「うむ。時期を見よ。あちらから来るかも知れぬしな」
「…そういえば、不思議なものが一緒にいた」
「不思議なもの?」
「何やら、この世界の理とは違うもののようだった」
「ふむ。この世界の理に属さぬものか。なるほど、儂も気にかけておくとしよう」
遠い南の山で、ジャンボジェット機級のでかい竜の方々がそんな会話をしているとも知らずに、俺達は大ドングリを粉にする作業に没頭していた。
「考えてみればさ、竜って多分、絶対王者じゃん。竜からしたら矮小な人間風情と目が合おうが、別にって感じなんじゃないかな?」
「だよな。鷹が蟻を見つけたくらいの感覚だろうしな」
ドングリ粉作りは結構手間がかかった。
まず、水に浮くか沈むかで食っても良い大ドングリを選別し、軽く炒ってから殻と薄皮を剥いて、何度か水に晒しアク抜きをしてから更に茹で、それを適当に砕いてから、洗った平らな石の上に乗せ、上から大きめの石を回しながらゴリゴリとすりつぶして細かくする。
何でこんな事をしているかと言うと、これでパン的な物を作ろうという計画。炒っただけでも食べられそうだったけど、せっかくなのでやってみようということになった。
「あの大蛇と竜が戦ったらどんな感じなのかな?」
「ちょっと見たいね、遠くから」
「ね」
そんな呑気なことを言いながら、晩飯の準備だ。
ここでの生活は基本的に食料の確保と探索、そして休息。長く住むつもりはないので小屋などはつくらない。テントで十分だ。
まだ肉が残っているので、今日は猟には行かない。もしも、あのタンク猪「弁慶くん」が腐らないなら、俺達は多分1ヶ月以上狩りをしないでいられるはず。だが、腐敗は普通に進むと思った方がいい。肉を熟成させるにも氷室でもなければ無理だ。
大きな穴を掘り、反対側のヒレとロース、それからモモあたりを確保してから、早いうちに埋葬した。そう、埋葬だ。命を頂いたのだから。
肉を切り出すよりも埋葬用の穴を掘る方が大変だった。だが、そのままにしておくと、余計な魔物をおびき寄せる可能性もある。安全の為にも埋めてしまう方が良いと思った。
「…ここってさ、人間いるのかな?」 と史朗が言う。
「いるんじゃない?」 俺はいると思っている。
「軽く言い切りましたね。その根拠は?」
「だって、妖精さんが人型なんだもん」
「ああ、確かに。目がちょっと違うけど、完全に人型だな」
「昆虫目…、人間がいても、やっぱ目が昆虫っぽいんだろうか…」
「うーん。それはちょっと心情的にキビシイな」
地球との違いはあるにしても似たような植物があって動物がいて、生きられる環境だし、俺的に想像の産物だと思っていた妖精さんが人型なこともあり、恐らくここには妖精さんが姿を模して現れるような、人間型の生き物もいるんじゃないかなと思っている。最初から妖精さん達がフレンドリーな事もそう思う理由の1つだ。
ここの生き物がみんなデカめだから、人間もでかいかもしれない。平均身長が3mとか4mとかだと、俺達は「お前、チビだな」ってイジメられるかもしれない。人類に会いたいような、会いたくないような…。
「人間がいたとして、文明の程はどんくらいかなあ?近くにはいなさそうだけど」と史朗が言う。
「あんまり進んでないんじゃない?」と俺は思う。
だって、竜は飛んでるけど、飛行機とか人工と思われる飛行物体は全然見ない。もしも文明が進んでいたら、移動手段とか地域調査とか軍事とか、とにかく色んな点で空は目指すはずだと思う。
あとは高い建物がない。もしもこの近くで文明が進化した存在がいたら、権威を示す為だったりで高い建物を作るんじゃないだろうか?木材もいっぱいあるんだしさ。あんまりそういう技術がないか、ものすごく数が少ないか…。火を使ってたらどっかに煙が上がってもいい。だが何も見ていない。少なくともこの森にはいないのではないだろうか。
山の上からでも、ここで火を焚いてるのってある程度わかると思う。でも誰も見に来ない。近くにはいないのだろう。
「海洋系の人類だったらまた違うだろうけどさ、この環境で地上にいないって事はないんじゃないかな」
「そっか。まあ、俺達は帰れればそれでいいわけだから、別に異文化交流するつもりもないけどな」
そう、俺達の目的は冒険ではなく、出来るだけ速やかに帰る事だ。だけど、確かに人類については考えてしまうんだ。
「あの、映画にもなった『スターゲイト』ってストーリー知ってる?」
「ああ、知ってる、アメリカのTVシリーズな、俺DVDでSG-1から観たよ。実は結構好きだった」
「俺も。あれのSG−1でさ、自分たちを神と称している邪悪な宇宙人というか、宇宙生物」
「ゴアウルドな!目が光るやつ」
「それそれ。人間を家畜ってか奴隷として色んな星に放牧して支配してて。ゴアウルドは別としてもさ、あれみたいに元が地球人と同じ種族の人間が、色んな星に分布してるっていう話し、ちょっと考えたりもしちゃうんだよね」
「そうだな。あれ、大概の星の人たちがみんな中世みたいな生活してたよな」
「地球から派生した人類なのか、地球人もどこからか連れてこられたのかわかんないけど、もしあんなふうに宇宙中に地球人と元を同じくする人類がいたら、それぞれの文化を持ってたとしても同じような歴史を辿るのかな、なんてね」
「だな。そんでもし地球が元だったらどこも地球よりは若干遅れてる感じか。俺さ、色んな物語の多くが地球より文明が遅れてる設定なのは、進んでるイメージが持てないか、優越感を味わう為かなんて思ってたけど、もしかしたらそういう遠い星の親戚たちの暮らしを感じ取ったりしてたのかもね」
「ま、考えすぎかも知れないけどね」
大ドングリの粉がだいぶ出来上がった。俺達はちょっと作業の手を止めて休憩をした。
ドングリパンに鳥の卵でも混ぜたら旨く出来るんじゃないのか、なんて思っていると、史朗が言った。
「これさ、魔法が使えたら楽に出来るんだろうな」
「魔法ねえ。まあ、光をぽわんも、遠当て石割りも、ある意味では魔法みたいなものなのかもね」
「アランさあ、ちょっとやってみなよ、ファイヤー!とか、エアカッター!とか」
「史朗やれよ。エアげんこつ!とか、既に出来てるじゃん」
「げんこつかよ!」
「あははははは」
笑ったついでに俺は川向うの木に向かって軽い気持ちで、手のひらを下にして自分の胸の前に引き、そのまま勢いよく肘を伸ばして言った。
「エアカッター!」
ぶん! スパン!! ズサァァッ!!
「「ええええ????!!」」
切れた。
半円形の透明な何かが俺の手から飛んで、川の向こうの木が3本程スパッと切れて倒れた。
「アラン、おまえ…???」
史朗が俺と川向うを交互に見る。俺は黙って首をブンブン横に振る。
知らない、知らない、違う、俺じゃない!いや、俺だけど! えー?! ナニコレ?!




