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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
魔の森
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異世界の森 初めての夜(後)

 ちょっと落ち着いて、改めて俺は話し始めた。


 「きっとGPSが消えてから、衛星写真で様子もチェックしてると思うんだ」


 「衛星写真?!マジで?」捜索の規模が違うなと史朗が呆れたように言う。

 

 最初は動物に襲われたと推測するだろうけど、捜索部隊が現場検証をして痕跡がないと見たら、誘拐が疑われると思う。前に俺を誘拐しようとした連中あたりは、恐らくこれで跡形もなく壊滅することになるだろうな。そう言うと史朗が「壊滅…」とつぶやく。


 「セバスはさ、強いじゃない?」


 「ああ」


 「だけど、本当のセバスはものすごく強くて恐いんだよ…」 


 「へえ…」史朗の顔がひきつる。


 「訓練の時って、ユーモアのある完璧執事の皮を脱いで、鬼軍曹になるじゃない?でもさ、鬼軍曹の皮を脱ぐとね…」


 「お、おう」史朗がつばを飲み込む。 


 「有能な司令官になって、そして…」


 「そして?」


 「鬼神となる」


 「鬼神…」 


 「そう、荒ぶる鬼神。

  全ての敵を壊滅させて、鬼神セバスの歩いた後には(しかばね)以外何も残らない。それがセバス、いや本名ヨハン・門倉」 

 

 「え?」


 「ヨハン・門倉」 


 「門倉?」 


 「うん、こないだまで俺も知らなかったんだけど、なんか11〜2年前に奈々恵と国際結婚したらしくてさ、門倉家に婿入りした形なんだって。 だから、ヨハン・門倉」


 「ぷっ。マジか?本当の門倉君なのか!」


 「そうなんだよ!鬼神なんだけど本当の門倉君なんだよ!!」


 「あはははあっはあっはあははははは!!」俺達は大笑いした。


 「そんで、鬼神なのに奈々恵に尻に敷かれてるんだって!」


 「あははははははははははは!!」


 「え、でもさ、それじゃ敵組織を壊滅させちゃう鬼神より奈々恵さんの方が強いってことじゃん」


 「そうなんだよ!!」


 「奈々恵さん、最強だな」史朗が感心したように言う。だが俺は訂正する。


 「いや、最強は爺ちゃん。鬼神も奈々恵も爺ちゃんの手下にしか過ぎないから」 


 「あ、ああ、そうね。フリードリヒさんはある意味ではやっぱり王様というか帝王だよな」 


 「うん、でもそんな爺ちゃんの唯一の弱点が俺なんだよね…」俺がちょっとしょぼんとする。


 「…アラン」


 「俺がいなくなったら、爺ちゃんは本当に死んでしまうかも知れない…」

 

 だめだ。せっかく笑ってたのに、また俺は我慢できずに泣き出した。ずっと我慢していた。俺が森に誘ったから史朗がこんなことになって、森生活に慣れてない史朗を俺がしっかり守らなくちゃって思って頑張ってきたのに、さっきので崩れてしまって、修復が間に合わないようだ。


 「俺さ、爺ちゃんの本当の孫じゃないんだ」


 それから俺は、自分が爺ちゃんの本当の孫ではないことを話した。爺ちゃんの家族のことや、俺がロートリングの孫になった経緯を。 

 

 「俺が元気で笑っていられるようにってのが、爺ちゃんが生き続ける意味で力なんだ。俺までいなくなったら、爺ちゃんは今度こそ本当に絶望しちゃうよ…」そう言って泣く俺。

 ごめん、史朗。こんなわけわからない所に来ちゃって困ってるのは同じなのに、俺ばかりこんなにダメで、ごめん。だけど止まらない。




 しばらく黙って火を見ていた史朗が静かに歌を歌い出した。


 焚き火が燃えて木の枝が()ぜる音と、夜空に響く史朗の優しい歌声を聞きながら、もう少しだけ俺は泣いた。



 恥ずかしいな。

 史朗が歌い終わる頃に落ち着いて涙を拭いて、俺は思った。


 「その歌、初めて聞く」やっとそう言うと、史朗が「母さんが俺が子供の頃よく歌ってたんだよ」と言う。

 

 「優しい歌だね なんて曲?」

 

 「『見上げてごらん夜の星を』だったかな」

 

 「いい曲だね。史朗が歌うと何でもいい曲になっちゃうけど」

 

 「ははは。いい曲は誰が歌ってもいい曲なんだよ」 


 「まあ、そうだけど。でもほんとにいい曲だ。なんかごめん、泣いてばかりで俺は恥ずかしい」 



 焚き火に枝を足しながら史朗が言う。


 「なんか、お前が「良い子」な理由がわかった気がする。お前は大好きなフリードリヒさんの心を一生懸命背負って来たんだな」 それから俺の目をじっと見て言った。「でもな、俺は、フリードリヒさんを見くびってはイカンと思うぞ」


 「見くびる?」


 「ああ、そうだよ。フリードリヒさんはお前よりもずっと強いぞ。

 いい加減な事は言えないけどさ、でも、俺はフリードリヒさんは大丈夫だと思う。

 行方不明になったと気づいてるなら、何が何でもお前を見つけて、家に帰れるようにって行動してるんじゃないかな。

 もしもここが火星だとしても、必ず迎えに来るよ。それだけの力を持ってる人だしさ。 

 子供のアランが怪我して意識がない時に、見つけて助けてくれたのもフリードリヒさんなんだろ?だったら、今度も絶対に見つけてくれるし、お前は元気に笑ってまたフリードリヒさんに会えるよ」

 

 何の確証もない事だけど、でも史郎が本当にそう思っているのはわかった。そして、何故かきっと本当にそうなるんだって思えた。

 俺は深く息を吸って吐いた。

 

 「俺、絶対爺ちゃんが元気なうちに家に帰る!史朗も一緒に帰って「鉄人」を完成させて史朗に試運転してもらう!!」

 「え?あれの試運転、俺にやらせてくれるの? よし、約束だぞ!絶対に元気で帰ろうな!」

 「うん!俺、史郎が一緒で本当に良かった!」

 

 そう言って笑う俺に、「…アランて、本当に17歳なんだな。か、かわいいな」って史朗が言った。


 俺は『かわいい』の称号を得た。

 



 それから、俺達は交代で横になる事にした。

 この星が、あと何時間で夜が明けるのかはわからないけど、3時間交代にしてタイマーをセットした。 


 俺が先に休むことになった。兄貴な史朗が「そうしろ」って命令するから従った。


 寝袋の中で俺は思った。

 ここがどこだかわからないし、火星だったとしても爺ちゃんが迎えに来るまでには時間がかかるだろう。俺は爺ちゃんが元気で生きているうちには帰れないかもしれない。

 だけどきっと爺ちゃんは大丈夫だ。ずっと会えなかった家族とは違って、俺はずっと一緒にいたし、ちゃんと毎日大好きだと伝えて来た。それは絶対無駄じゃない。爺ちゃんの生き続ける力になっているはずだ。俺はそう信じる事にした。



 そんな事を思って寝たからか、その夜は爺ちゃんの夢を見た。 


 いつもの椅子に爺ちゃんが座っている。何か書類を見ているみたいだ。顔色が悪い。 


 「爺ちゃん」 俺は声を掛けた。爺ちゃんが振り向いた。驚いたようにこっちを見ている。


 「アランか」 そう言って両手を広げた。

 俺は笑って爺ちゃんの所に行って膝を付き、そして爺ちゃんに抱きつく。爺ちゃんが震えているような気がした。だから言ったんだ。「爺ちゃん顔色が悪いよ。無理してるんじゃないの?ちゃんと食べて寝ないとダメだよ」


 すると爺ちゃんが言った。「ああ、そうだな。お前はどうなんだ。大丈夫なのか?どこにいるんだ?いつかえってくるんだ?」

 俺は答えた。「わかんないんだよ。地球のどこかなのか、火星なのか。でも大丈夫だよ。寒くないし、ちゃんと食べてるから」


 「火星?…にいるのか?」


 「いや、わかんない。重力がおかしい所なんだ。地球の内部かなと思ったけど、でも空には星が見えるし。月が2個あるから火星かなと思ったんだけど、緑が多いから火星ではないかな。

 植物も動物もなんかやたらとデカくてさ。スライムもいる。あ、今日とんでもなくでかい蛇を見たんだ。長さがゴジラくらいあった!

 見せたいな。史朗が写真を撮ってたから、帰ったら見せるね」 


 「ああ、見たいな。絶対に見せに帰ってこい。爺ちゃんも元気で待ってるからな」


 「うん。いっぱい写真撮って帰るからね。あ、帰ったらピザが食べたいな。黒オリーブがいっぱい乗ってる…」 


 ふと、俺はなんで食事のリクエストをしてるんだ?他に言うことがあるだろう、と我に返って、その瞬間に夢は終わってしまった。そして目が覚めた。 


 起きたら何だかすっきりしていた。夢だけど爺ちゃんと話せた。ちゃんと元気だって伝えた。

なんとなく、ちゃんと伝わっているんじゃないかという感覚を信じて、俺は寝袋から出て火の番をしていた史郎と交代をした。 



******************



 ロートリング邸 / フリードリヒ 




 アランだった。夢などではない。しっかりと体温のあるアランが、今ここに来て私に抱きついて話をしていた。

 初めてあの子を見つけた時に見たあの光と一緒に現れた。


 私を気遣い、いつもの甘えた話し方で、ゴジラ程もある蛇を見たと言っていた。写真をたくさん撮っていると。つまり生きて活動をしているという事だ。

 …写真、そうだ!

 


「セバス!」

「お呼びですか?」


「今、アランが来た」

「え?」

「そんな顔をするな。私は正気だ」

「失礼致しました」

「すぐ消えてしまったがな、あの子は無事なようだ。シロと2人で居るらしい」

「一体、どこに?」

「それがわからんらしい。火星だとか言っていたが。写真を沢山撮って帰ると言っていた。シロが撮っているそうだ。ライブラリーのコンピューターに以前の様に画像が送られてきているかもしれん。調べてみなさい」

(かしこ)まりました」 


「ああ、それと、あの子が帰ったらピザが食べたいと言っていた。いつでも出せるように用意をしておくように」


「畏まりました。…例の組織の方はほぼ追い詰めてありますが、いかがいたしましょうか?」

「うん。関わりはありそうなのか?」

「いえ、どうも何も繋がりはなさそうです」

「そうか、まあ、そのまま潰してしまってもよかろう」

「御意に」 


「サナエに温かいお茶を用意するように言ってくれ。それから、何か軽く食事をしよう。私も張り詰めすぎずに待機しておかねばならないからな」

「はい」



 落ち着いて顔色が良くなり目に力が蘇っているフリードリヒ。そして話を聞いて半信半疑ながらも涙ぐんでいるセバス。


 ただの妄想かもしれない。何の確証もない。だが、きっとアランは無事で帰ってくる。笑顔で「おなか空いたよ」と言って帰ってくる。そう思えた。

 好きな食べ物を用意しておこう。すぐにゆっくり休めるように部屋を整えておこう。


 大丈夫、あの子は大丈夫だ。



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