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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
魔の森
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巨大生物

 俺達は何度か転んだものの少しずつ移動に慣れていった。


 「歩こうとするより、むしろ思い切って跳ねるようにした方が良いかもな」 

 

 地面が柔らかいわけではない。

 ちょっとした力が強く働いてしまい、軽い一歩でいきなり跳んでしまうのでバランスを崩す。つまり跳ぶと思っていれば着地も問題ないはずだ。宇宙飛行士が月面を跳ねながら進むようにすればいい。

 イメージが出来てしまえば割と簡単だった。ビクビクしないで思い切って前に踏み出す方が上手く行く。そうして力の加減を覚えて行った。



 本当にスライムを火星人だと思ってるわけではない。少なくとも俺は。だがやはり気味は悪いのでその死骸から少し離れたかった。それでも最初に落ちてきた場所が見える位置でテントを張る事にした。もしかすると帰れそうな兆しが見えるかも知れないから。


 どういうわけでこんな事になったかはわからないが、地場の歪みか何かで時空が繋がったのなら、またそれが起こらないとは限らない。

 いや、むしろあの妖精さん達の光を、ロートリングの森で見た事がある自分の体験と、そして爺ちゃんも見たことがあるのだったら、何かしらで頻繁に繋がると考えた方が良い。そう思った。




 この時の俺は、火星だ何だと言いながらも、自分たちがまだ地球にいると信じていた。

 地球にはまだまだ未知の場所があるはずだ。人は全てを把握しているわけじゃない。地球なら俺達のGPSを探知して、必ず爺ちゃんが助けを手配してくれる。時空を越えるにしても、迎えが来るにしても、多少時間はかかっても俺達は必ず帰れるはずだと思っていた。


 だから、荷物の重さをあまり感じず、妙なバランスで飛び跳ねられるこの事態も、それ程には深刻に考えないで、ここではそうなら順応しようと思い、そして気分が暗くならない為にも出来るだけ楽しもうと思った。 


 テントを設置して、かまどを作り火を起こしてから、さっきのスライムの死骸を埋めた方が良いだろうという事になった。周囲の様子を調べながら、俺達は水と武器とカメラ等を持って行動に移った。

 相変わらずキラキラ妖精さんは周りを飛んでいるが、なんだか表情は楽しそうだから、それ程緊張することはないのかもしれない。

 

 ホップ・ステップ・ジャンプとばかりにぴょんぴょんと跳び進む。かなり慣れた。


 「なんかさ、ほんとにジョン・カーターのあのシーンそのままだな」 

 

 「思い切り踏み出した場合、一歩でどこまで跳べるんだろう?」 


 「やってみようぜ せーの!」


 俺たちは跳んだ。いや、飛んだ。6〜7メートルくらい軽く飛んだ。スーパーヒーローになったような高揚感を感じた。


 「おおおお、すげええ!」


 「フォーーーーーーーーーーーっっ!!」


 ハイになった俺たちは、ピョンピョン飛び跳ねながら奇声をあげて森を移動した。コントロールに慣れきったわけではないので、気を抜くと木に激突しそうだ。その緊張感がまた気分を高めた。警戒心など、どこか遠くの山に捨ててしまったかのように騒ぎながら飛び回った。


 垂直にも4〜5メートルくらい軽く飛び上がれる。飛び回っているうちに50メートルくらいはありそうなとんでもない巨木に到達したので、それに飛びついて枝ジャンプで上まで登り、そして森全体を見回してみた。

 

 奇声をあげて飛び回る俺たちに驚いたのか、俺たちの来た道筋から逃げるように離れていく動物、いや魔物?達が見えた。…なんか、ちょっとごめんなさい。 


 スライムは魔物と分類しても良いと思う。ただの未知の生物というよりも、その存在から発していた嫌な気というか、違和感というか、普通の動物とは明らかに違う雰囲気を(まと)っていた。特に怒ってからは強烈な悪意を放っていた。

 ということは、他にもそういう嫌な気を纏った生き物達がいると考えたほうが良い。そいつらは総じて「魔物」と呼んでも差し支えないだろう。

 かと言って、特に敵対するわけでもなければ、こちらから攻撃する必要もない…と思う、多分。 


 多くの動物や魔物がいるのであれば、さっきのはしゃぎ具合を「ここは俺たちの縄張りだ」という意思表示と受け取られてはまずい。逃げてくれるならまだしも、縄張り争いで俺たちめがけて襲ってくる強者がいたら大変だ。俺たちは「奇声をあげるのはやめよう」と話し合った。 

 セバスの言うように「まず回避」だ。特に相手がどんな物かわからないうちは、可能な限り対峙しない方がいい。

 

 俺達のいるこの森は、どうやら高い山々の間にあるらしい。テントを設置した場所のすぐそばに高い崖、いや山があって、そこから小川を越えて移動して来て、今この巨木に登っている。

 歩いたらだいぶ時間がかかる距離だろうが、ジャンプしながらなのでそれ程時間はかかっていない。単純に歩く6倍くらいのスピードで移動していると思う。ハイになって騒いでいたのは30分位だと思うから、テントの場所からは徒歩でおよそ3時間くらいの距離か。足場の悪い場所を歩いて来たとして、大体20km程ジャンプして移動したと思われる。


 まだまだ森は深く広がっていて、どこまで行けば抜けるのかがわからない。

 テントの位置を真ん中として、近くの山を北側と見た場合、東西南に森が広がっている。

 遠く南の方にも高い山々が連なっていて、そこに向かって時々大きな鳥のような何かが、ものすごく上空を飛んで行くのが見える。南の方の森は何となく色が濃いというか、暗いように見える。

 東も森が広がっている。この巨木からではどの方向にも平地は見えない。

 

 「あっちに川があるぞ」 史朗が言った。


 西側に史朗が言った大きな黒い川が見える。西から南に向かって流れているようだ。


 「ホントだ。俺達のテント近くの川よりでかくて黒いね。どうする?大黒(おおくろ)川の方に行ってみようか」 


 「もう、名前ついた」 史朗が笑う。


 「暫定、大黒川」 俺も笑う。


 俺達は、テントのある位置を振り返り遠目に特定した。小さい川のそばで特に崖が尖っている辺りだ。同じ様な地形は他にないので、大丈夫、ちゃんと戻れる。


 さっき史朗が後方に転がってキズだらけになった事でわかるように、身体の傷つきやすさは元と変わらないらしい。俺達は転んで手を負傷するのを防ぐ為に、手のひら部分にゴムがコーティングしてある軍手をつけていた。それが木に飛び移る時に思いの外役に立っている。そのまま地面に降りずに木から木へと、まるで猿のように飛び移りながら大黒川の方に移動する事にした。 

 

 大黒川は流れはゆったりに見えたが、水が本当に真っ黒で日の光を反射して光っている。この川はそこまでバカでかくはないが、なんとも言いようのない不気味な雰囲気を(かも)し出していた。

 俺達は川に近づくに連れ、とてつもなく嫌な感覚を感じた。あまり近づかず、100mくらい手前で木の上で止まって観察をする事にした。


 そして、気づいた。


「…川じゃない」


 そのまま声も出せず、動くことも出来なかった。大黒川は川ではなく、巨大な黒い蛇だったのだ。


 上から見た胴体の横幅が、多分15mはありそうな、4車線の道路の幅の特大の蛇。ぬらぬらと黒い鱗が光っている。よく見るとマダラの模様があるようだ。ズッズッと擦る音が響き、木の上まで振動が伝わってくる。


 頭は俺達がいる場所よりも20mくらい先に行っていた。だが、尻尾の先まではその4倍以上あるようで、俺達はしばらく無言で息を潜め長い長い身体が通り過ぎるのを木の上で待った。

 頭は既に通り過ぎていたので、跳んでその場を離れても良かったのかも知れないが、正直動けなかった。

 完全に俺達の視界を尻尾が通り過ぎてからしばらくして、やっと俺達は話すことが出来た。


 「あれは一体なんだ…」


 「あんなサイズの蛇っていうか、生き物って本当に存在するのか」

 

 「あの蛇、多分ゴジラの身長くらい長かったよね」


 「ゴジラの身長を知らないけど、多分そうなんだろうな」


 「119.8メートル」


 「あったな、そのくらいあった」

 

 「俺、あのズッズッていう音、二度と聞きたくない」


 「俺も…」

 

 俺達は世界の大きさと自分達の小ささを感じながら、テントの所に戻ったのだった。

 いつの間にかいなくなっていキラキラ妖精達も、戻る途中からまた姿を現し始めた。多分だけど、妖精さん達が姿を見せなくなった時は、あまり良くない状況なのかも知れない。 

 


  

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