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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
ロートリング
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史郎の才能 俺のひみつ (前)


 1ヶ月が経ち史朗が帰ってきた。


 奈々恵に日本語で「おかえりなさいませ」って言われたと、そしてメイド達にも言ってもらったと感動していた史朗。

 爺ちゃんにも「おかえり(welcome home)、シロ。良い旅だったようだな。絵葉書をありがとう。ゆっくりして、一息ついたら旅の話しを聞かせてくれ」と言われて、「「ただいま」って言える所があるってありがたいなあ」って嬉しそうだった。 

 あの絵葉書は爺ちゃんにだって伝わってた。良かったね。

 

 そして俺はちょっと驚いたよ。史朗は多分気付いてないけど、爺ちゃんの「home」発言は意味がある。暗に「君はずっとここに居てもいいぞ」って意味だ。セバスも奈々恵も一瞬驚いた顔をしていた。

 爺ちゃんの行動や発言は、何気ないようでいてどれもすごく意味がある。あの一言で史朗の立場は、「短期滞在する俺の友達」から、「ロートリングの客人=身内」に変わった。



 

 爺ちゃんの一言で「うちの人」となった史朗を待っていたのは、セバスによる「護身術」の訓練だった。


 セバスが楽しそうに準備をしているのを見ながら、「無理しなくていいよ。適度にね」と言ったのに、史朗は「いや、こんな機会は中々ないし、願ってもないことだよ」とやる気満々だ。

 セバスがすごく強いと知って、教えを乞う機会を得たと喜んでいる。 

 

 まずは体力と基礎的な動きを見ると、セバスにあれこれテストされる。その辺りで既に汗だくで息が上がっていた。まあ、普通だ。

 でも、へろへろになりながらも史朗は立ち上がって、セバスの言う事をやり続けた。すごいなと思ったよ。気持ちが負けない人なんだなって思った。


 普段は完璧に礼節を守る執事をしているセバスは、訓練になると人が変わる。映画に出てくる鬼軍曹みたいだ。わざと気持ちを凹ませるような事をしながら、そんな時にどう反応するか本質を見ようとする。

 史朗は素直で、でもそれだけではなく、やっている事の目的や意味を理解し、ブレないで見つめ続ける事が出来る…らしい。つまり頭も良くとても意思が強い。

 セバスが「良いですね。実に良い」とこっそりと褒めていた。意思が強いだけでなく、力を抜くべき所がある事も理解している。「のほほんと生きていたわけじゃなさそうだ」と言っていた。


 ちなみに俺はというと、セバス(いわ)く「あちこちウロウロするけど、結局は誰よりも早く答えに到達して行動に移せて、それで元のお題よりも成果を上げちゃうんだから、アラン様はもうそれで良いんじゃないですか?」って言われた。それは褒めたのか?呆れてないか?



 この訓練が始まってから、史朗にとんでもない特技があるのを知った。これにはセバスも、そして爺ちゃんも驚いていた。

 史朗がそこそこでかい石を、力も入れずにパン!と一発で割ったんだ。

 素手じゃないよ。金槌の細くなってる部分で軽く叩いたら、粉々と言っても過言ではない割れ方をしたんだ。崩したと言った方が正確な表現になるんだろうか。

 とにかく、「ここにほんのちょっと力を加えるだけでね…」と言って、目の前で割った。


 石以外でもある程度の物なら一発で崩したり壊したり出来るらしい。岩でもいけるって言ってた。大きさはあんまり関係ないんだって。試しに大きな氷や庭にあった岩でもやってもらった。

 史朗が集中すると一瞬空気が張り詰めたようになる。この時にポイントを見極めているらしい。そして、その直後にパンっ!と一撃で割るのだ。



 俺の目が輝いたのは言うまでもない。「えー、ナニソレ!超能力?!」と大喜びする俺に「何だろうな、でも、ここを突けば良いってポイントがわかるんだよね」とへにゃりと笑う。 

 うわー、やっぱり主人公タイプだ。



 どういう風にそのポイントがわかるのか、食いついたのはセバス。 

 それから俺は完全に2人に置いていかれ、彼らが石に向かって熱中する様子を、たまたま見に来ていた爺ちゃんと一緒にお茶を飲みながら眺めた。

 

 俺は別に石や岩を割りたいとは思わなかったし、見てるだけで楽しい。

 爺ちゃんが「お前はあれの仕組みがわかるんじゃないか?」と俺に聞いた。「仕組み?」と言うと「お前は小さい頃から、誰かがどこかが痛いとか(かゆ)いとかいうと、『ここだね』と言っては『この痛みはここから来ているから、ここをほぐすといいよ』と良く言っていた。あれと似たようなものなんじゃないのか?」と、俺をじっと見る。

 

 ああ、そうか。そうだね。

 俺は、例えば、誰かが転びそうになる前に、身体のバランスが崩れる瞬間がわかって、それから起こることの予測がつく。つまり転びそうな人がわかるし、何なら何秒、何分後に転ぶかも予測がついたりする。それの逆で、確かにどこを突けば全体が崩れるかもわかるって言うことか。

 その感覚を別の事に使うと、様々な事柄の状況の先読みが出来るというわけで、実際に仕事にも使える。


 「うーん、まあ、勘がいいってことかな?」と答えると、「勘がいいで済ますか」と面白そうに笑う。 

 「何だかわかるというか、言ってみれば道筋が視えるって感覚なのかな。瞬間的に演算をしてるのかもしれないけど、でも、やっぱ勘だよ」


 そうか、と言ってから「シロも増々面白い男だな」と爺ちゃんが嬉しそうだ。俺が「性質の良い人間」と関わっている事が嬉しいのが伝わってきた。


 10歳で子役を始める時、そして12歳で大学に通い始める時に言われた。

 「これから色々な人間に出会っていくだろう。お前は良い人間を引き寄せる。信頼と愛情を持ってお前と関わり、互いに喜びを分かち合おうとする者達だ。だが、そんなお前に目をつけて欲しがる者もいるだろうから、警戒心も持ち十分に気をつけなさい」


 爺ちゃんは闇雲に俺の友達だからと史朗を良い目で見ているわけじゃない。作業のライブ配信で関わっている皆についても同様だ。

 俺が関わる人達が「己の道を見出そうと情熱を持ち、諦めずに理想と希望を抱き続け、尚且(なおかつ)善良であろうとする」、そんな強さを持っている者であるか、またはその素養を持っているのかを見極めているらしい。

 なんか難しい。でも大事な事の気はする。とにかく、史朗にはそれがあると認められたって事はわかった。

 

 「人は変わっていくことも多い。だが心が強い者は表面が変わっても芯は変わらないものだ」

 

 そう言って爺ちゃんは立ち上がり史郎とセバスの所に行って、「私にもやらせくれ」と言って史朗の指導の元…というか、史郎に指さされた所を金槌でカン!と叩いて見事に石を割り、「これは爽快だな」と言って、満面の笑顔で俺を振り返りVサインをした。


                                                                            

 

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