髪には魔力が宿るらしい
史朗が日本から来て2週間。
うちでのんびりして、市内観光や近場の観光にも行って(どこ行っても雪だったけど)すっかり慣れた史朗は、1ヶ月でスペイン、フランス、ベルギー、ノルウェーを回って来るプランで1人旅に出かけた。
一眼レフのカメラを持って「いっぱい写真撮ってくるよ」と出かけた史朗。言っていた通り、沢山の良い写真をいっぱい撮っていた。
撮った写真のバックアップは史朗のノートパソコンだけではなく、史朗がうちのライブラリーで使っていたにデスクトップパソコンにも送られて来ていたらしい。
ある日、何かの誤作動で、誰もいないはずなのに、ライブラリーにあるプリンターから、史朗が撮った風景や自撮り写真が数回プリントされて出て来た事があった。心霊現象か!?と誰かが言ったのでちょっと騒然とした。
史朗に何かあったんじゃないかと慌てて連絡を取って、無事を確認して、連絡した理由を話したら、「あ、ごめん」と史朗が言って設定のことを知ったのだった。
でも、史朗がライブラリーのパソコンでも一眼レフカメラのバックアップを取る設定をして行ったのはわかったが、何で急にプリントされて出て来たのかは謎のまま。
でも、それからうちのパソコンで、すぐに史朗の写真を見ることが出来るようになったのは嬉しい。「自撮りはスマホでやることにするよ」と史朗が苦笑していた。
まあ何か面白い騒動だったよ。
旅行中、史朗は旅先からよく絵葉書を送ってくれた。メールやチャットでほぼ毎日やり取りはしていたけど、ふとした時に絵葉書が届くのがとても嬉しい。
爺ちゃんに「史朗から絵葉書が来た」と見せると、「今はどの辺にいるんだ?」と言ってメガネを掛け、葉書の写真を見て「ああ、このあたりか。楽しんでいるようだな。シロは筆まめで朗らかないい男だ」と口元を緩める。
ある日、相変わらず「俺工房」に籠もっていた俺は、「鉄人くん」の作業で行き詰まってしまって、なんとなく雑踏の中で一人になりたくて街に出る事にした。
静かな森で1人になると暗くなりそうだったから、雑多で知らない人達がザワザワしている中に行きたかった。
1人で出歩いても大丈夫だと確認も出来たし、またちょくちょく出歩こうと思った。
昼前のカフェでぼんやりと外を見ながらコーヒーを飲んでいると、キャロが通りかかって俺に気付いた。
あら?と言う顔をしてカフェに入ってくる。そして俺の前に座って「1人なの?史朗は?」と聞く。史朗は旅に出ていると言うと、じゃあ寂しいわねと言い、「アパートに行きたいわ」と席を立ち俺の手を引く。
早い、早い!展開が早いよキャロさん。全然いいけど。
シナモンロールを2つ買ってカフェを出て、寄り添って腕を組んで歩く。俺達はまるで恋人同士のようじゃないか。
でも、前にそう言ったら「勘違いしちゃダメよ」って窘められた。
その時、ちょっと傷付いたので、おどけて「俺の身体だけが目当てなのねっ!」って言ったら、大爆笑されたよ。笑い過ぎだ。
ひとしきり笑ったキャロは、確かに身体は目当てだけど、それだけじゃなくて可愛いとも思ってるわよとキスをしてくれた。仕方ないから俺はキスで誤魔化された。
そして今日もまた、うっかり勘違いをしそうだった俺は、「身体が目当てなんだから」とちょっとしょぼんとしながらも、やっぱりキャロの言うことを聞いてしまう。
きっと俺も同じなんだろうなと思うから。
アパートの部屋に着いて鍵を開け、中に入って鍵を締める。そしてそのまま俺達は獣になりました。
キスをして、お互いに服を剥ぎ取って、キャロを抱えて寝室に行く。「重くないの?」と笑っていうキャロの唇を塞いでから、「お姫様は羽のように軽いですよ」と言う。毎度のやり取りだ。
そして、ベッドで激しく求め合う。
…はい、これ以上は書きません。自粛です。
そして思う存分暴れた俺達は、静かに寄り添って眠る。
今日もありがとうございました。大変良うございました。…なんてね。まあ、そんな所です。
30分くらい眠った所でキャロが起き出して、「帰るわ。史朗はいつ戻ってくるの?」と聞く。「あと2週間ぐらいしてからかな」と答えると「じゃあ、それまでにまた会いましょう」と言って「電話にはちゃんと出るのよ」と手をヒラヒラと振って部屋を出ていく。
部屋の温度が下がった気がする。
はぁ〜。1人になるはずだったのに、俺は何をしているんだ?いや、これも運命だ、仕方ない。なんて自分に言い訳をする。
別にアパートで1人になりたいわけじゃない。もう少し散歩してから屋敷に帰ろうかな、と思って起き出すと電話が鳴った。キャロ?と思ったら、美人でおしゃれなアリスからだった。
「はい」
「あら、すぐ出たのね、珍しい。どこに居るの?」
「…アパートに居るけど」
「ふーん、1人?遊びに行っても良いかしら?」
アリスが来るってことは、また俺は暴れる事になる。
大丈夫。俺はまだ頑張れる!そう思って返事をする。
「いいよ」
「じゃ40分くらいで行くわ」
「オッケー」
電話を切って、俺は窓を開けた。寒い。でも空気の入れ替えをしておこう。
雪が吹き込んでくる。
カーテンが風を孕んで膨れてはためく。
ちょっとカッコつけて両手を広げて雪風を受け止めるポーズ。多分この瞬間を写真に撮ったらすごく幻想的でドラマチックだと思う。…だが寒い。やめよう。
向かいのアパートの窓際にいる白黒ふわふわの猫がじっと見ていた。恥ずかしい。
俺は窓を閉めて、床に屈んで吹き込んだ雪をタオルで拭く。なにしてんだ?って思う。
だって仕方ないよ。キャロが帰っちゃって、空気の入れ替えをしなきゃいけないんだから。
そしてシーツを替えてから、シャワーを浴びる。髪を乾かしながら、日本で買ったお香に火を付け煙をたゆらせる。
髪が長くて邪魔だなと思いながら、ソファに座って、さっき買ったシナモンロールをつまんで、テレビをつけた。
ぼんやりとテレビを見ながら、「鉄人くん」の事を考える。
軽量化はしているけど、それでも全身に着用すると重い。稼働してる時は良いけど、何かの不具合で止まったら、身体は動かせなくなるよね。バックアップと視線で操作できるシステムがあるから、まあ大丈夫だろうけど、腕とか脚の筋肉の電気信号を感じてバックアップが作動する装置もあったほうが良いだろうな…。
特に武器類は搭載予定はないけど、身体の周りに何かエネルギーフィールドを発生させるシステムはあったほうが良い。例えば熊と戦っても、熊の爪がまず本体に届かないように、そして体当たりされても、本体には熊の体が当たらないようにする…。まて、何で俺は熊と戦う事を考えているんだ?
玄関の呼び鈴が鳴ってハッとした。
出ようと立ち上がりかけたら玄関が空いた。
え?恐い、何で?鍵は?
俺がびっくりしてると、アリスがびっくりした顔で入ってきた。「鍵、開いてたわよ」と。
あ、そうか。ここオートロックじゃないから、キャロが出てった時に開けたままだったのか。今度オートロックに変えておこう。
「あれ?そうだった?」とすっとぼけてから、「久しぶり」と笑顔でアリスを抱きしめる。
艷やかな茶色のストレートの髪が雪で濡れている。でもそれ程冷えてなさそう。車で近くまで来たのかな。
「元気だった?ベイビちゃん」とキスしてくれるアリス。ベイビちゃんって、確かに俺は年下だけど、アリスとは2つしか違わないよ。
ムウッと口を尖らせると、「そういうのが子供なのよ、ふふ」と頭を撫でられた。
2つしか違わなくても、なんだかアリスは大人だ。女の子ってみんなこういう感じなのかな?
「髪、伸びたわね。切らないの?」と言われて、それだ!と思った。
おしゃれなアリスは髪のアレンジも得意で、美容師並みの腕を持っている。カットも出来るって言ってた。
「あのさ、髪切るの上手いんだよね?ちょっと切ってもらっていい?」
「今から?良いけど、あんまりそれで時間を取りたくないな。夕方には戻らないといけないのよ。雑になっちゃうけどいいの?」
「うん、短くなれば全然いい」
俺の髪を長く伸ばさせようとする奈々恵が、15歳くらいからずっと肩よりも短くは切ってくれず、最近は背中くらいまで伸びていた。いつも作業の時には縛って、落ちてくる髪は帽子や髪留めで押さえていた。
短ければ楽じゃん。切っちゃえ!
バスルームで裸になって、イチャイチャしながら髪を切ってもらった。アリスは雑になると言っていたけど、全然きれいに切ってくれたよ。子供の時依頼のベリーショートだ。
切った髪をシャワーで流して、そしてベッドに移動して2人で暴れて汗をかく。
ちょっと休んでまた暴れて、そしてシャワーを浴びに移動して、バスルームでも暴れました。
俺達は獣だ!
本当に今日は色んな事をしてもらってありがとうございました。
よし、頑張るぞ!!
俺はアリスを送りながら一緒にアパートを出て、そして「またね」と別れて屋敷に戻る。
気分爽快で戻ったのに、うっかり玄関で帽子を脱いでしまって、奈々恵に悲鳴を上げられた。そこからしばらく玄関でお説教でした。
おなか空いたと言っても許してもらえず、「髪に宿る魔力が消えてしまった」とよくわからない事を言いながらベソをかく奈々恵を宥める為に、髪が伸びるまでは奈々恵の前では帽子を着用すると約束をした。「そんな事をしたって、魔力は戻りませんよっ」と言われたけど、取り敢えずそれで収拾がついた。
何だよ、髪に宿る魔力って?
3連投。
もうすぐ、もうすぐ異世界への扉が開くはず。




