良男くん(仮)救出 / 後編
『この家の御子息を閉じ込めているのはわかっている。案内しろ』
バーティスが言うが、侍女頭は恐怖で声も出せないようだ。ただ、口をぱくぱくさせているだけで埒が開かない。バーティスの部下のひとりが姿消しを解いて剣を首に突きつけると、やっと状況が受け入れられたようで、『ひぃぃっ!殺さないで!ち、地下に、地下に閉じ込めてます。ここから…、これ、これが鍵…!』と言って、今開けた扉に付いたままの鍵束を震える手で指差す。
史朗が鍵束を抜き取り、開いた扉から史朗班の数人と地下に降りて行く。バーティスは侍女頭を抑えたまま、剣を突き付けたまま再び姿消しをした部下とその場に残った。
地下への階段は灯りが灯っているが、通路は暗かった。シャノトワ騎士団の騎士が魔法で灯りを灯す。史朗も懐中電灯で周りを照らした。
通路の脇に幾つかの部屋があるのがわかる。一つ一つドアを開けてみるが中は暗く空になっていた。嫌な臭いがする部屋もあり、ここで想像したくないような事が行われていたようだと皆は思った。
鍵がかかっている部屋もあって、そこには子供が4人、女性が9人閉じ込められていた。拐われて来た人達だろうか。声も出せない程に怯えた様子だ。
いつから閉じ込められていたのか。少なくとも1〜2日は暗闇に放置をされていただろう。一箇所に固まるように座り込んでいる。少し離れた床には汚物もあるようだ。別の部屋には同様の状態で5人の男達が閉じ込められていた。
彼らに『助けに来たぞ。もう大丈夫だ』と灯りを灯した騎士が声をかける。姿が見えず浮いている灯りから声がしたので驚いたのだろうが、眩しそうにしながらも『助け…?』と言った者がいて、『そうだ、すぐにここから出してやる』と答えた騎士が、史朗に『私は彼らの状態を確認します』と言う。
『お願いします。俺達は他の部屋をチェックします』と言って史朗と他の騎士達は先に進む。
一番奥の部屋からかすかに灯りが漏れているようだ。ここにも鍵がかかっている。恐らくここに良男くん(仮)が閉じ込められているのだろう。史郎は声をかけてみた。
『ワルノー家のご子息を助けに参りました。ご無事ですか?』
すると、少しの間を置いて中から答えが返ってくる。
『私を助けに…?本当に!?』
しっかりとした声だ。シャノトワ騎士団の者達が『おお!ご無事な様だ』と言うと、『本当に?私をここから出してくれるのか?だが、兄達が…兄達がいるでしょう?』と聞いて来た。どこか信用していないような様子でもある。
無理もないと史朗は思う。元々が実の家族に閉じ込められたのだから。
『お助け致します。ドアを破壊しますので下がって、離れたら合図をください』
『大丈夫だ。ドアからは離れている』
史朗班の騎士達は、鍵があるのに何故ドアを壊す?と思った。普通に開ければいいのに、と。
だが、ドアの向こうに救出するべき対象がいるこの状態は、史朗の中では映画やドラマでよく見るドアを蹴破る鉄板シーンだ。「こういう時はドアを壊す」が正解、いや、他の選択肢はありえないのだ。
では、と言って史朗が「はぁっ!」とドアを蹴る。
およそドアを蹴破ったとは思えない「ボンッ!」という破裂するような音と共に、今までそこに存在していたドア部分に空間が出来た。ドアが粉々に崩れて跡形もない。
そして、一瞬で粉砕されたドアの向こうでは、太い鎖で大きな鉄の玉を両足につけられ、首には魔力封じの魔道具を付けられた良男くん(仮)がポカンとした顔で口を開いたままこっちを見ていた。
『ワルノー家のご子息ですね?国王陛下の命により救出に参りました!』
史朗が言うと、良男くん(仮)はポカンとしたまま、『…え?そこに誰かいるのか?』と言う。
え?と騎士達と互いに顔を見合わせようとした史朗は、相手の姿が見えない事でやっと『あ、俺たち姿消ししたままだ』と気づく。そして全員が指輪をはずし姿を表した。
『失礼致しました。全員姿消しをしていたことを失念しておりました。我ら王命により救出に参りました。上では王宮白騎士団により屋敷内の者全てが制圧されているはずですので、ご家族達も手出しは出来ません。ご安心下さい』
『あ、ああ。そうか。ありがとう。いや、ありがとうございます』
どうやら本当に自分を助けに来たのだと理解したのか、礼を言う良男くん(仮)。表情は暗くやつれているようには見えたものの、健康に異常はないようだ。
なかなか端正な顔立ちをしている。痩せているのは仕方ないのだろうが、目の光は失われてはいない。あれ、この顔って誰かに似ている。誰だっけな?と史朗は思った。
さすがに彼が監禁されていた室内は他の部屋とは違い、明かりがあってベッドもテーブルもあった。ワンルームではあるものの、過ごすのには不備のない仕様になっていた。浴室やトイレもあるようだ。
そして、テーブルの上には数冊の本と、日記なのか書きかけの手帳がある。ペンとインクも与えられているようだ。
『…こちらには、もう長く?』
『外が見えないのではっきりはわからないが、恐らく1週間か10日程は経っているのではないかと…。その前はずっと自分の部屋に閉じ込められていたのだが、父が隣国に発って少ししてから、隙を見て外に出ようとして、兄に見つかってしまったのです。逃げぬ様にとここに移されて足枷まで付けられてしまい…』
『そうでしたか。これより王宮にお連れ致しますが、お体の方は大丈夫でしょうか?歩行に問題があれば私が抱えてお連れしますが』
『あなたが?…いや、大丈夫だ。自分で歩ける。だが、この鎖が付いていては…。兄上がこんなにも頑丈な鎖を私に付けて…室内を歩くだけで鍛錬にはなったが、これを外さねばまともには進めません』
他の屈強な騎士達を差し置いて自分を抱えて行くと言った史朗を怪訝な顔で見た後に、自分に付けられている足枷を憎々しげに見る良男くん(仮)。
『そうですね。外しましょう』
そう言って史朗が屈み、足首に着いている足枷の輪の部分に指を差し込み「ふん!」と引きちぎった。
『えっ!?えっ!??』
『こっちもですね、ふんっ!』
足首を捉えていた輪の部分だけでも相当に分厚く重い鉄のはずだ。それをこの小柄な男がまるで厚紙でも破く様に裂いて外してしまった。
『え!?』
え!?以外の言葉が出てこない良男くん(仮)の傍で、騎士団の面々が苦笑いをする。
『首についている物も外しましょう』
『あ、え…と、いやこれは魔道具だから。魔力を吸い取られるから無理だと』
『大丈夫です。俺は魔力ないから。ああ、でも、これ壊したら爆発するとかだとまずいですね。これは魔法省の方々に任せた方が安全かな…』
『爆発っ!?』
良男くん(仮)が驚く。『爆発しないまでも、発火したりでもすれば危険だな』と史朗が躊躇していると、騎士団の一人が『この魔道具は犯罪者を捕まえる時にも使いますが、爆発も発火もしないはずですよ』と言った。
それではと史朗が首との隙間に指を差し込みちょいっと捻った。すぐにパキッと音がして解除された…というか、破壊された。
そっと首から外す。やはり怖かったのか青い顔で固まっている良男くん(仮)に、騎士の一人が持っていた命の水を纏わせた回復アイテム「爺ちゃんの飴」を渡し舐めさせる。
『あああ、体に力が満ちて来ます。魔力も戻った。すごい!この飴すごいですね!』
爺ちゃん印の回復飴に感動している良男くん(仮)には答えず、『この魔力を奪う魔道具って、腕力がある人だったら全然意味無しなんじゃないですか?』と素朴な疑問を投げかける史朗。良男くん(仮)と騎士がいやいやと慌てて手を降る。
『普通はどんなに力があっても取れませんから。長角人でも無理ですよ。さっきの足枷外すより大変です。ドラゴンでもあれば取れるでしょうけど』
と騎士に言われ、あ、そうなの?と言っている史朗を見て、良男くん(仮)は改めて思った。誰、この人???え?人なの?
『シロウ殿、指輪をご子息に』と騎士の一人が言う。
『あ、そうだった。すみません、一応上では白騎士団が制圧しているのですが、王宮に行くまで姿を隠して頂きたいのです。この指輪をはめれば姿が消えます。互いに見えなくなりますので、私と手をつないで移動をして下さい』
『姿が消える?すごいな。…わかりました』
渡されたチェーンネックレスを首から下げ、史郎がチェーンについたカラビナから指輪を外し渡す。受け取りながら良男くん(仮)は『こんな器具が…とか、この平たい物は…?』と興味津々だ。
『これは特別な神具です。この平たい物には「状態異常回避」「攻撃魔法反射」「身体強化」「物理攻撃無効化」がかかっています。指輪も神具ですよ』
『神具!?』
『詳しいことは王宮で。まずはここを出ましょう』
邸を制圧した白騎士団によって、邸内でくつろいでいたワルノー侯爵夫人とワルノー家の長男夫婦、そして我が物顔で酒を飲んでいたゴロツキども、執事達18人が捕えられたようだ。
史朗は地下を出る前にケータイで良男くん(仮)救出成功の報告をした。ウィットニーのケータイからもその音声は聞こえた。
『地下よりターゲットを救出しました』
捕らえられて『お前達、我らにこのような事をしてどうなるかわかってるのか!?』などと暴れ騒いでいたワルノー家の長男が、その音声を耳にして顔色を変えた。
『まて!地下だと?救出とは何だ?まさか弟を連れ出すつもりじゃないだろうな!!弟は病気なのだ!!精神が病んでいるのだ!まだ矯正が出来ていない!!まだ矯正が出来ていないのだ!!!』と叫んだ。
矯正が出来ていない。
その声が史朗のケータイから聞こえた。良男くん(仮)が怒りのような悲しみのような表情で唇を噛んだ。
『矯正などと…よくも』
絞り出すように言った良男くん(仮)の肩に史朗が手を置く。それに応えるように良男くん(仮)は顔を上げ、史朗達を見て言った。
『わたしは陛下の御前で明らかにせねばならぬ事があります。我がワルノー家の罪を。父達がわたしを使って何をしようとしていたかを全て話さねば…。父は今、私を壊さず洗脳し道具にする為の薬を手に入れる為、隣国に行っています。父が戻る前に皆さんが私を救出、いや、捕らえに来てくださって良かった…。どうか、私を陛下の元へお連れください』
史朗達は無言で頷く。良男くん(仮)はテーブルの上から書きかけの手帳を持ちポケットにいれた。
『姿消しの指輪は上に上がってから使ってください』と史朗が言って、皆で急ぎ地下から脱出する。
階段を上がり廊下に出る扉の所に戻ると、侍女頭がまだそこで拘束されていた。すぐに彼女を白騎士団に引き渡し、地下に閉じ込められていた人達のことも伝え、そしてバーティス達も加わり全員で姿消しをして王宮に向かう。
王宮に着くと通信を受けた緑騎士団の騎士が迎えに出ていた。人に見られないように謁見の間まで緑騎士団に着いて移動し、それ以降は全員が姿消しの指輪を外した為、現場の様子は見えなくなる。
しばらくして、アラン達がワルノー城への潜入を開始する頃に史朗から通信が入った。後をバーティス達に任せ『これから俺もワルノー領に向かうぞ』と。
本来は王族だけが使う王宮内の転移ポートを使ってワルノー領まで移動した史朗は、既に閉じている領都の門を、姿を消して飛び越え入領する。そして猛スピードでジャンプをし、ワルノー城内に潜入していた俺小隊に合流するのだった。
本日二話目投稿です。ちょっと長いので2つに分けた後半です。
(11/23)加筆をしました。何故ワルノー侯爵が隣国に行っているかに触れています。




