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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
人間界
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<間話> 王宮白騎士団長ウィットニー /突入前のつぶやき

修正 閑話として「良男(よしお)くん(仮)救出 後編」の後に入れました。(2026/5/20) 






 『それにしても、自分の子を監禁するとは、ワルノー侯爵もおかしなお方だ』


 私の名はマーカス・ウィットニー。イシルディン聖王国王宮白騎士団の団長を務めている。

 現在、私は我が白騎士団を率いて、王都のスタイリッシュ侯爵邸に来ている。今回の任務は、監禁されているワルノー侯爵家の次男ジェメス殿の救出と、現場の制圧である。陛下から『まだ極秘ではあるが、ジェメスは王太女の王配候補筆頭である』と伺った。


 良い噂の無い、いや、悪い噂しかないワルノー侯爵。その次男であるジェメス殿は、私も言葉を交わした事があるが誠実で知的な青年だと感じた。王太女であるミリア殿下と互いに想い合いながらも、自分の父や家族達に王家との繋がりを持たせることになっては良く無いと、ミリア殿下から距離をとっているようだと聞いていた。

 私の推測でしか無いが、王家に近付き権力を得ようとするワルノー侯爵が、思い通りに動かない息子を罰する、または洗脳でもする目的で監禁をしているという状況なのではないだろうか。


 自宅でありながら衰弱が懸念される状況だと、急ぎ救出する必要があるのだという明確な情報があるようだ。その情報がどこから齎されたかなど、詳細は我々には明らかにはされていない。

 だが、紛れもなく国王陛下御自らの命により我々に任務が与えられたのだ。陛下が精霊界がどうとか言おうとして、シャノトワ公爵閣下に口を塞がれていたのが気にはなるが、我々は命じられた任務を遂行する。それだけだ。


 今回の任務は、シャノトワ公爵家の騎士団の者達と共同で進められている。他家の騎士団と共同任務というのは滅多にないことではあるが、共同で遂行するのが王家と祖を同じくするシャノトワ公爵家であるということで秘密裏に進めるのだろうと推測し理解している。

 

 我々が突入に向けて待機しているこのスタイリッシュ侯爵家の邸は、ワルノー侯爵邸の向いに位置している。正に気付かれずに待機するにはもってこいの立地だ。

 つい数分前までここにいたシャノトワ騎士団のシロウ殿が、少数での救出班として先んじて出発前に、今回救出する対象の次男ジェメス殿の事を『コードネーム、良男(よしお)くん(仮)ですから、今後のやり取りの中では良男(よしお)くん(仮)でお願いしますね』と言っていた。

 シロウ殿は会話の中でよく意味のわからない言葉を使う。コードネームとは何だ?遠方の出身だそうだが、彼の故郷の方言なのだろうか。


 『まあいい、とにかく任務中は救出対象を良男(よしお)くん(仮)と言えという事だろう』 


 シロウ班が出てから30分後に我らが正面から突入する予定だ。そろそろかと時計を確認するが、まだシロウ班が出立してからそれほど時間は過ぎていないことに気付く。どうやらこの場にいる部下たち同様に、自分もいつになく些か気が逸っているようだと苦笑する。

 ふと、シロウ殿が先ほどまで使っていた魔道具「望遠レンズが付いたイチガンレフカメラ」に目を止め、何気なく手に取ってシロウ殿の真似をして「ファインダ」という覗き穴を覗き込んでみた。


 『何も見えないな』


 シロウ殿は先程までこれを覗き込み、遠くに見えるワルノー邸の様子を探っていた。『怪しい馬車が入って行ったようですね。ほら、ちょっと暗いけど』と言いながら、小さな面に映し出された幾つかの絵を我々に見せた。

 そこには、馬車が門から入っていく様子が描かれており、なんとシロウ殿が指を動かすと拡大されて乗っている男達の顔が大きくはっきりと見てとれた。


 『ほう』としか言えなかったが、この距離で乗っている者の顔を正確に捉え記録するとは、いかなる魔法か?と思った。

 シロウ殿が『覗いてみますか?』と言って覗かせてくれた小さな窓のような「ファインダ」は、最初は何が見えているのかよくわからなかったが、シロウ殿が丸い筒を回す様に動かすと風景が小さくなったり、そのまま大きく拡大されたりした。

 しかし今は、どれだけ覗いてみても何も見えず、小さな平らな面も暗いだけで何も映し出されてはいない。


 『私の魔力では扱えないか…』 


 数週間前にシャノトワ公爵と共に陛下に謁見し、王家の方々の前で数々の不思議な魔道具を披露した者が居たとは聞いていた。時を記録する魔道具の話を宰相閣下が楽し気に話していて、『そのような物があるのですか!』と思ったものだ。

 今回の任務で、それらを齎したのはシロウ殿なのだと知った。そして実際に目にして心が躍った。しかし今、ウィットニーは全く反応しないカメラに触れ、自分には使えないのだろうと落胆した。


 そうではない。誰でも使えるカメラだ。

 ただ史朗が、出立前に電源を切ってしまっただけだということを、ウィットニーは生涯知る事はない。



 『だが、このケータイとはまた素晴らしいな』


 ウィットニーは気持ちを切り替える。

 つい先ほど、シロウ班の出立を伝える為に、離れた場所にいる副長への通信に使用したケータイに触れながらウィットニーは口角をあげた。


 今回の任務の為に支給された、この世界に20個しかないという最新の通信用魔導具「携帯魔道フォン」。略して「ケータイ」と呼ぶ物である。

 

 極秘で特別に支給されている物で、魔法省でもその存在を知らない。では、出所はどこなのかと問うた時、「それらの疑問も問うことは許されない」と言われた。『いずれ明らかになる。それまでは黙秘せよ』と。

 

 ウィットニーは思う。これまで、任務に当たる際はいつも必要事項の伝達に苦労をしてきた。

 風魔法が得意な者をそばに置くか、手紙を送る為の簡易転送ポートがなければ、離れた所とのやりとりは出来なかったのだ。


 しかも、風魔法では距離によっては通話が届くまでに時間が掛かったり、途中でかき消えてしまう事もあった。

 簡易転送ポートは、手紙など小さな物を送るだけでも、馬に引かせた荷台に乗せなければならない大きさで、持ち運びが大変で使い勝手が良くなかった。

 伝書鳥や伝書竜もあるが、やはりやり取りには時間がかかる。


 飛竜隊では、飛竜同士が念話を使って簡単なやりとりをしている事を利用し、離れた小隊同士が交信をすることもあるが、それでも「進む」「止まる」「危険」等のシンプルな事しか伝わらない。

 そもそも飛竜は人と会話が出来ない。訓練をしてサインを覚えさせ、人が飛竜の素振りを読み取るやり方なので正確性に欠ける。


 しかし、この携帯魔導フォンという物はどうだ。まるで隣にいるかのように会話が出来る上に、現在の時間が表示されるので任務の遂行には持ってこいだ。

 更に、すぐに呼び出しに対応出来なくても通信があった事は表示されるし、要件を伝える音声が残っていて、消さない限りは何度でも聞いて確認が出来るのだ。


 昨日、出勤直後に急に呼び出され指定の部屋に行くと、そこには陛下を始め宰相閣下、シャノトワ公爵閣下、そして初めて見るシロウ殿という黄人がいた。そこで支給された最新の通信魔道具。

 「明日の任務で使うので早急に使い方を覚えろ」と言われた時は、その場に集まっていた各騎士団の団長と副長全員が戸惑った。

 各騎士団から団長と副団長が集められていたが、何故か黄騎士団の団長と副団長だけはその場に居らず、彼ら黄騎士団にはこの魔道具と作戦の事は秘匿せよとの命令だった。

 疑問に思ったが、その後の説明で黄騎士団長への疑惑があると知り、それぞれに思い当たる事があった我らは、それ以降詳細を明らかにされるまでは口を閉じる事にした。


 急に与えられ、早急に操作を覚えよと言われた魔道具であったが、元々が操作しやすいように出来てるらしく、短い講習を受けただけで意外なほどすぐに使い方を覚える事が出来た。

 何と言っても、陛下が面白がって講習直後から何度も何度もあれこれとつまらな…いや、御自ら頻繁に通信訓練をして下さるので、急いで応答する為に操作をしていたら、半日もせずに考えずに操作できるようになり、今日までにほぼ完全にマスター出来たのだ。


 この携帯魔導フォン、いやケータイの使い方に慣れているというシロウ殿に講習を受けながら、使い慣れているという事は、この魔導具を作ったのはシロウ殿なのか?と思った。講習に参加していた全員がそう思っただろう。だが、尋ねる前に陛下がそれを否定した。そして、『今は聞くな』と仰った。


 講習の際にシロウ殿は、『これは普通のケータイとは違ってですね、持っている者が全員で同時に会話できるようになっています。なので、同時に話してしまうとわけがわからなくなります。誰かが話す時は黙って待ちましょう。そして、話している人は自分の話が終わったら「ドーゾ」と言ってください。あ、話す前には名を名乗ってくださいね。インカム型に出来たら両手が空いたんですが、まあ取り敢えずはこれを使っておいて、追々改良してもらえると思います』と言っていた。


 「フツーノケータイ」や「インカムガタ」の意味がわからなかったが、つまりこれを耳に当てながらする会話で、どこにいても全員で会議が可能という事だ。


 そして、講習後に我らが通常業務に戻ってからは、「練習」と称して『今全員が応答しておるのか?各自返事をせよドーゾ』から始まって、『今日のお茶はちと変わった香りがするぞ、皆は何か飲んでおるのかドーゾ』とか、『新しいペンの書き味が良い、ドーゾ』とか、どうでもいい…いや、数分おきに不意打ちで通信訓練を施してくる陛下に、少々参ったなと思いながら、これも訓練であると、鍛えられてありがたいと思えと己を叱咤しながら対応をした。


 何度目かの通信訓練の時に、陛下の背後でシャノトワ公が発言をした声が聞こえた。聞き間違いかと思ったが、確かに厳しい声で『ローレル、良い加減にせよ!』と言うのが聞こえた。

 それを聞いてしまった時には、一緒にいた副長と共に青くなって固まった。冷や汗だらだらだ。えーと、そうか、周囲の音声も入ってしまうのか。…というか、陛下のことを名前で呼び捨てた上に「良い加減にせよ」って叱った???


 すぐに陛下が『だって、訓練ではないか…』と返すのが聞こえた。ケータイを耳に当てたまま話していらっしゃるようだ。


 『面白がっているだけだろう。皆、忙しいのだぞ』

 

 『…わかった。あ、ディアネル、ドーゾを忘れているぞドーゾ』


 『私は今ケータイで話していないだろう。…ああ、もう!口を尖らせるな。ほら、切るのだドーゾ』


 そこでプツリと切れた。

 

 その後、通信訓練の回数が減ったので色々な意味でホッとした。

 予想もしなかった上の方々のプライベートに触れてしまった恐ろしさ。そして、気をつけないと重要な通信中に周囲の音声が聞かれてしまうのだという事を知った。

 副長と私は、出る前には出来るだけ静かな場所に移動しようと話した。間違っても帰宅後に妻や子供がいる所で通信をしてはならぬ。

 そして陛下すら叱る閣下に叱られぬよう、自分は絶対に必要な通信以外では利用するまいと決めた。


 そう言えばシロウ殿は言っていた。


 『ケータイの電波は現在既にグラウギリス中に飛んでます。つまりアラン…じゃなくて、「俺Wi-Fi」という力が満ちていますので、世界中どこからでも会話が可能ですよ。パワーが違いますからね、音声は非常にクリアでよく聞こえますよ』と。


 どれだけ離れていても通話が繋がる魔法…デンパー。「オレワイファイ」という力か…。これまた聞いた事がない魔法だが素晴らしい。グラウギリス中に張り巡らせる事が出来る、そんな力のある魔導師が存在したのか。まるで神の御業ように思える。


 そういえば、陛下よりこのケータイを賜る時、『これには神の御加護がある』と仰った。神聖なるケータイを持つ者として恥じる事がないように、まずは何としてもこの任務を成功させねばなるまい。


 ウィットニーは改めて気持ちを引き締め、出立に備えるのであった。 


 


 

(2020/12/24)加筆しました。話の筋は変わりません。

(2026/5/7と、5/12)加筆修正。


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