ワルノー領主城 潜入前
更新しないまま、あっという間に2ヶ月空いてしまいました。(筆者的に)とても短いですが連載再開の一話です。
ワルノー領で魔皇帝マルコシウス三世くんと合流した俺小隊は、旅の冒険者を装い観光するように歩き、領都内の様子を見てまわった。そして腹を満たし、暗くなる前に早めに宿を取って夜を待つ。
暗くなったらいよいよワルノー領主城に潜入するのだ。
羽振りの良いA級冒険者パーティと称して少し高級な宿を選んだ。ちょうど続きの広い部屋、いわゆるスイートルームがあったので、そこで全員が一緒に泊まる形だ。
この部屋は金持ち仕様というか、身分が高い人が一般の宿泊客と鉢合わせしないように出入り口も別になっている。そうでなくても広いバルコニーがあり、俺たち的には宿側に知られずここから出入りが出来てしまうのも都合が良い。
寝室が3つあって、従者が控えられるように出来ているのも良い。
さっきまで最終打ち合わせをしていたが、今は王宮黒騎士団の3人とグレゴリーとその部下2人は、それぞれに夜に備えて仮眠を取っている所だ。
俺と魔皇帝グループ3人は特に寝る必要性もないので居間で一緒に起きている。暇だったので、『みんなには「状態異常回避」「攻撃魔法反射」「身体強化」「物理攻撃無効化」を付与したペンダントを持たせてるんだけど、要る?』と聞いてみた。
多分、彼らには不要だろうとは思うが、マルコシウスくんが嬉しそうに『我が君から戴けるのでしたら是非!』と言うので、その場で3つ作成した。
捧げ持つようにして受け取ってから、部屋の隅にいるサザナミとアラナミに『家宝とせよ』と渡すマルコシウスくん。
頭を下げ受け取りながらも、強張った顔のまま、2人があまりにも部屋の隅っこに居るので、『もっとこっちに来てゆっくりとソファに座れば良い』と言うと、マルコシウスくんが『我が君、実は…』と言いにくそうに話し始めた。
『この者達も、よりお側でお仕えしたいのはやまやまなのですが、サザナミとアラナミは、あまり我が君のお近くに寄る事が出来ぬのです』
どういうこと?
『 我らは闇に親しむ者。如何に我が君が御神気を抑えていて下さるとは言え、この者達にとっては、光そのものであらせられる御身のお近くに寄るのもこの距離が限界にございます』
『え?そうなの?』
『はい。この二人も力のある者です。光の民であるエルフと接する事も可能な者達ではありますが、神の光はやはり違います。実は我が君のお役に立つ為、我もこの二人も現時点で光防御の魔道具を身につけております。我は魔皇帝を名乗る者でございますれば、このようにお近くに居ることも叶いますが、魔道具を用いたとしてもこの二人はこれ以上お側に近づく事が出来ません』
『…そうだったのか。それでいつも青い顔をしてたんだね?遠慮というか、怖がられてたのかと思っていたよ。全然気づかなくてすまなかった』
そう言うと、マルコシウスくんが遠慮がちに言葉を続けた。
『我が君、御神具を賜った上に、図々しくも甘えたお願いを致します。もしもお許し戴けるのであれば、今戴きました二人のペンダントに「光中和」または「光耐性」の付与を付けて頂けませんででしょうか?』
なるほど。
『マルコシウスくん、それは良い考えだ。そんなに緊張しなくても良いよ。私も二人が楽にいてくれる方が嬉しいからね』
俺は付与する前に彼らの持つ光防御の魔道具をみせてもらう事にした。二人は身につけていないと苦しいだろうから、マルコシウスくんの物を借りる。マルコシウスくんは、魔道具を外しても平気そうだ。魔皇帝となるだけあって、やはり特別力が強いんだなと思う。
後日、この話を史朗にした時、「へえ。じゃあさ、シモーン様が言ってたっていう例えの、俺たちが陸の生き物で闇の一族が水棲の生き物だとした場合さ、魔皇帝って両生類的な位置なわけだな。カエルちゃんか」と言うので、お茶を吹いてしまったんだが、この時点でその発想はなかった俺は、ただ素直に「魔皇帝」ってさすがだなあと感心したのだった。
というか、ジラールだって水棲だけど陸でもしっかり生息するんだから、カエルというよりジラールと思えばいいよね。魔皇帝はジラール。うん、かわいいじゃないか。
閑話休題。
受け取った魔道具をチェックしてみると、マルコシウスくんの魔道具もだいぶ疲労している事がわかった。
『これも随分疲労しているね。修復して改良と強化をしておこう』
そう言って、弾く防御ではなく、中和分散をして受ける圧を消す防御にした改良強化版をマルコシウスくんに渡した。それをそのままサザナミに持たせて『どうだ?』と確認するマルコシウスくん。
『…これは!とても楽です。これを持つとまるで我らが国にいる時のように軽くなります!ほら、お前も持ってみろ!』
そう言って、アラナミにも持たせるサザナミ。
『本当だ!ビリビリしていた感覚がなくなりました。胃が締め付けられてくらくらするのも消えました!』
え…、二人ともずっとそんな感じだったの?うわぁ、本当に気がつかなくてごめん。具合悪いまま頑張っていたのか。逆にすごい精神力だなと驚くよ。
俺は3人のペンダントに「光中和」を付与し、それからマルコシウスくんのにしたのと同様に二人の光防御魔道具の修復と改善強化をした。これで、どちらかを身につけていれば俺のそばでも楽でいられるはずだ。
改良強化版の魔道具を渡すと、顔色が良くなった2人が俺の近くに寄って来て正座をし、『我らも白銀の御方のお側に侍る事が叶いました!』と笑顔を見せてくれた。子犬の様な目の3人が正座をして俺を見上げている。…ソファに座りなよ。
子犬の様な目一号のマルコシウスくんが言う。
『ありがたい事でございます。これを戴けました今、お力を全開で放たれても我らは負傷せずに済みそうです』
『…ちょっと待って。俺、じゃなくて、私が全開になると闇の一族はダメージを受けるのか?』
『どれだけ近くに居るかによるとは思いますが、例え離れた位置であってもお姿が見える距離でしたらそうなるかと思います。お力を抑えていて下さっている今の時点でも、弱い者であれば無事ではいられないでしょう』
それはまずいんじゃないか?それじゃ、パワー全開になったら爆発に巻き込んじゃうような感じじゃないか!
『我ら闇の一族に生まれた者からすれば、生涯を終える際に光に消える事が出来ますのは恵みであり悲願でもございます。憧れの神の光に還る事が出来るのですから。
ですが、お役目半ばで消えるのは少々残念でもありますので…出来れば寿命とお役目は全うしたいと…』
闇の一族として肉体を持ち生まれながらも、魂は光に属しているという事だね。光に焦がれる思いと、そうであるが故の切なさが伝わってくる。
ああ、そうか。もちろん始祖様がそれを知らないはずはない。
『ねえ、イシルディン神が300年前に闇の一族を訪れた時、一陣の風を吹かせただけですぐに去ったのは、思いやりだったのかもしれないね』
『はい。我も今ではそう思っております。あれは我の魔皇帝即位の時でございました。先触れがありましたので、民も皆イシルディン神が我らが地にお出ましになると喜んでおりました。ですが、特に力のある者以外、ほとんどの者は魔道具で守られた建物の中や地下に隠れねばなりませんでした。
…あの時は、我がお気に召さず、お言葉もなく一瞬で立ち去られたのかと悲しみましたが、我が君とお会いして後に、神はむしろ我らにダメージを与えぬようにしながら、わざわざ我が即位を寿ぎにお姿をお見せくださったのではないかと』
『そうだね。…そうか、それじゃ、私がマルコシウスくんの所に遊びに行く時は、すごく出力を抑えて行かないと皆が危ないんだね。聞いておいて良かったよ。うっかり気軽に行ってたら大変な事になっていた…』
『わ、我らの元へ来て下さると…!?』
『闇の一族の都も行ってみたいなと思ってたんだよ。制御が出来る様になったらだけど、そのうち行くよ』
俺がそう言うと、3人がぴょんぴょん飛び上がって喜び、どのようにおもてなしをするべきかと企画を立て始めた。いや、そんなにすぐには行かないからね。そもそも制御が可能なのかどうかも、まだわからないんだし。いよいよの時は、3人に渡したのと同じような神具を量産すれば良いのかな…?
それにしても、サザナミもアラナミも全然クールキャラじゃなかったんだね。俺の近くにいて具合悪かっただけだったのか。
3人のはしゃぎモードの気配で仮眠から目覚めたらしいグレゴリーが寝室から出て来た。声を落として『聞こえておりましたよ。そろそろ御神気とか闇等のお話はお控え下さい。他の者達が目を覚ましますぞ』と注意をする。おっと、いけない。
通常モードに戻ったアラナミとサザナミが、俺達にお茶を煎れ直す。
丁度その時、俺にだけ見えるスクリーンに王都のワルノー侯爵邸に潜入する史朗達の視点が映った。史朗班が「姿消しの指輪」を着用したようだ。
『おや、どうやら王都では史朗達がいよいよワルノー邸に潜入したようだよ。白騎士団はまだ動いてないようだな。先に良男くん(仮)の身柄を保護するみたいだぞ』
俺がそう言うと、グレゴリーが『おお、始まりましたか!』と言ってニヤリと笑った。




