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アルランティアの日記   作者: 倉門 輝光
人間界
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魔皇帝マルコシウス 仲間入り


 魔皇帝からの献上品だという小さな箱。その中にあったひとつの実。


 『これは?』 


 そう言って箱から出そうと触れる。その瞬間に俺にはそれが何であるか、そして何故ここに齎されたのかがわかった。我ながらびっくりだが、一瞬で映画の早回しのように情報が流れ込んで来たのだ。

 うお!超能力じゃん!と思ったのは内緒だ。超能力ではなく、俺の神力の片鱗だ。大丈夫だ、わかっている。


 『…そうか、これは魔の森に生えていた「あの」木の種だね?』 


 『はい。まだこの世界にお戻りになったばかりで神力にお目覚めでは無かった時、魔の森の負のエネルギーが強い領域に近付いていらっしゃいましたでしょう?…恐れながら申し上げますが、その際に我らは、浅慮にも白銀の御方を我らが都にお招きし、我らが安住の地を見出す為に御力をお借り…いえ、利用しようと画策致しました』


 ああ、あの時か。


 『そして、よく人間(マン)の男が惑わされるその木を使用したのです。イシルディン神の遣わされたアンティアン(蟻人)によって我らの目論見は阻止されましたが、…今では無謀な愚策を弄した我らは、あの時に既にイシルディン神に救われていたと思えます』 


 そうだったのか。そう言えばモハメド元気かなあ…。 


 『それで、その…、白銀の御方がその木の実を大変にお気に召しておいでだったと…、あの、種をご所望であったと記憶しておりまして。お持ちすれば喜んで頂けるのではないかと思い、此度の献上の品とさせて頂いた次第でございます』 


 …ちょっと待った。何?もしかして俺達のあの恥ずかしい行動を全て知っているということなのか?そうなのか?!


 思わず眼光が鋭くなった俺を見て、ハッと顔色を悪くする魔皇帝。


 『も、申し訳ございません。これは我が闇の一族の間でしか手に入らぬ物。魔の森にしか生息致しませんが、白銀の御方でしたらどの土地であろうと生やすことも容易(たやす)かろうと存じましたが、やはりこのような物をお持ちしたのは我の浅慮でございました…』


 そう言って大変な失態をしてしまったという様子で項垂れる。

 いやいや、ごめん。あの時の俺達の、バカ丸出しのハイな姿を見られていたのかと思って焦っただけだ。やっちまったのは俺達だ。恥ずかしいけど仕方がない。


 『いや、ありがとう。とても良いものを貰った。手に入るとは思っていなかったので驚いただけだ。喜んで頂くよ』


 そう言って微笑むと、ホッとした様に笑顔になる魔皇帝。

 本当に綺麗な青年だな。しかも良い奴じゃないか。そう思いながら俺は史朗に献上された種を渡す。


 『史朗、これは女神の木の種だ。あの実を、…いやあの実の果汁をまた楽しめるぞ』


 『マジで!…いや、左様でございますか。それは僥倖。しかし、そうなりますと植える場所を厳選せねばなりませんな』


 『そうだね。我ら以外、誰も立ち入らない場所に植えなければね…』


 史朗と俺の目が怪しく光る。いけない、笑みが溢れてしまう…。

 次は実がなっても撮影はしないでおこう。子供や女性は絶対に入れない場所に植えよう。そして俺達以外がその場に入ってしまったとしても、出る時には記憶が消える様にしておくのだ。いっそのこと亜空間を設けて、そこに植えるのもいいかもな。後で始祖様に亜空間の作り方を教わろうっと。


 俺と史朗の中で魔皇帝マルコシウス三世の好感度は一気に上がった。

 ちょっと変な所があるようだが、人は誰しも完璧ではない。少々変わった所があってもいいじゃないか。


 『マルコシウスくん、中々やるね』


 褒められた魔皇帝が頬を染めて微笑んでいる。

 

 大切そうに俺から受け取った献上品を持って下がった史朗の隣をふと見ると、魔法と誤解が解けた騎士団長グレゴリーが、父上と俺を交互に見ながら目で何か訴えている事に気付いた。


 『どうした?』


 『…はっ。恐れ入ります。お伝えするべき事がございますが、申し上げてよろしいでしょうか』


 俺が許可しようとすると父上が俺を制して変わりに答ようとする。

 そうだ、俺は「形式」として、下の者と直接会話をするべきではないのだ。特にこのような、例え非公式であるとはいえ皇帝という立場の者が謁見に来ている場所では。

 下の者とのやり取りは父上か史朗を仲介するのが正しい。面倒臭いが、そうしないと皆が混乱して困る…らしい。

 

 『話しなさい』と父上に発言を許されて騎士団長が話す。


 『ダレンを捕らえましてございます』


 『なに?捕らえたと?』と父上が聞き返す。


 『はい。今朝、つい先程ですが、出勤をしたダレンの元へバーティスが向かいました。騒ぎを報告をしに来た者の話では、バーティスが急にピーピー言って捕らえようとし始めたとの事です』


 『…な、なるほど。敵だったという事だな』


 『良いかな?』と魔皇帝が発言する。

 

 『逃げようとしていた者は珍しい魔道具を使って転移をしようとしていたぞ。ちょうど我らがこの城を訪れた時でな、騎士達ではどうにも出来ぬようであったので、その魔道具による逃亡を阻止してやった』


 『なんと。魔皇帝陛下が止めて下さったのですか』


 『うむ』 


 マルコシウスくん、俺と話す時とは態度が違うな。やっぱり魔皇帝だもんな。それにしても逃亡を止めてくれたのは良かった。俺からもお礼を言おう。 


 『良くやってくれたね。マルコシウスくんが居て良かったよ』


 『はっ。有難きお言葉。このマルコシウス、白銀の御方のお役に立つことが出来たのであれば、無上の喜びでございます!』


 うん。全然違うね。面白いな。

 そして父上と騎士団長に向かって続ける魔皇帝マルコシウス。


 『あの者は捕まる間際に、この国の王宮にいる仲間の事を思い浮かべたぞ。そちらも当たった方が良いのではないかな?』


 『…もしや魔法省の妹か?』と父上と騎士団長が顔を見合わせる。


 『うむ。女のようである。確かにあの者の血縁であろうな』 


 その言葉を聞いて、父上が動く。


 『こうしてはおられぬ。魔法省であれば私が行かねばなるまい。魔皇帝陛下、ご協力を感謝致します。アルランティア様、わたくしは急ぎ王宮に向かいます!』



 …というようなやり取りがあって、その後、王宮魔法省に行った父上がダレンの妹を見つけて近付き、無事に捕らえるまでピーピーと言い続けたらしい。 


 バーティスと父上から苦情があったので、術を改良することとなり、敵を認識したらピーが止まる様に全員にかけ直しをした。


 

 ダレン兄妹はそれぞれに尋問を受けたが、やはりすぐには吐かず。特にダレンは魔法を駆使して言い逃れをしようとするので、尋問の者も手こずったようだ。そこで魔皇帝が配下を貸そうと申し出てくれ、配下の2人、サザナミ君とアラナミ君が尋問を行い、とても良い仕事をしてくれたらしい。


 程なくダレン兄妹は陥落し、10年と少し前、未完成だった転移玉を使って魔法省に出勤した妹が、その現場をたまたまワルノー侯爵に見られてしまい、未完成で構わないので量産をしろと脅された事を。そして、ダレンも脅されてやったが、研究の成果を誰よりも認め褒めてくれたのがワルノー侯爵で、更に研究に集中出来る「疲れが取れ思考が冴えるという薬」をもらい、どんどん心酔していった事を告白した。


 兄妹共に、ワルノー侯爵の求めることであればどんどん情報を流していたのだと。完成はしていなくても利用出来そうな魔道具の発明があれば、それが他人の発案の物でもコピーをして作りこっそりとワルノー侯爵に流すことすらしていたのだそうだ。 


 それだけではなく、ダレンは俺の誘拐の時も新しく入った侍女を脅かし唆し、誘拐が上手く行くようにワルノーに手を貸したのだという。捜索の際に犯人達の移動の痕跡を一生懸命追ったのは、自分の作った転移玉がどのように働いたのかデータを取りたかったかららしい。とんだ研究バカである。

  

 彼等の告白により、ワルノー侯爵は完全に黒となった。

 魔法省の者が絡んでいた事で、この件はシャノトワ家とワルノー家の問題に留まらない、明確な国の問題となったわけだ。


 この件だけでも捕らえられるが、ワルノー侯爵がやっていることはこれだけではない。この機会にやつの全ての悪事を根こそぎ殲滅する。


 だが、黄騎士団にだけはこの件は秘されて伝えられる事はない。黄騎士団長に察知され逃げられては困るからである。


 ____________


 さて、父上が出動した時点に話を戻す。


 騎士団長も退出し、サロンでは「形式」が解除された。

 魔皇帝への持て成しも兼ねて、そのままサロンでの軽い朝食となり、皆も打ち解けて会話を楽しんでいた。 


 お祖父様が闇の一族の歴史や役割について、熱心にマルコシウスくんに話を聞いている。お祖母様と姉テレーシアは、いつか手合わせを願いたいとサザナミとアラナミに申し込んでいる。

 レジーナは史朗に『お兄様と魔皇帝陛下のツーショットを撮りなさい』と指示している。そして、ミステリオンは『兄上はすごいですね』と俺の隣でニコニコしている。


 そんな和やかな中、母上が言った。


 『魔皇帝陛下は350歳と仰っていましたが、こうして見ているとアルランティアと同じくらいのお年に見えますわね。何だか息子のお友達が遊びにいらしたみたいで嬉しいわ』


 『とっ、友達っ?!我が白銀の御方の友達っ?!そ、そんな恐れ多い…』 


 赤くなって汗をかきながら狼狽え、俺をチラチラと見る魔皇帝マルコシウス三世350歳。


 『この子達が学園のお友達をお招きする度に、いつかアルランティアのお友達もお迎えしたいとずっと夢に見ていたのよ』と俺に微笑む母上。


 そうか、誘拐さえされなければ俺はこっちで学友を持ち、家に招いたりしていたのかもしれない。母上からしたら、同じくらいの年に見えるマルコシウスくんと俺がこうしている様子は、確かに夢に思い描いていた光景なのだろう。

 俺が微笑んで『学校の友達か、そうだね』と言うと、慌てて手で顔を隠した魔皇帝。

 史朗がさっと進み出て、尻のポケットからハンカチを出して渡した。『すまぬな』と言って受け取り顔を抑える。鼻血が出たらしい。


 史朗、それいま尻のポケットから出したよね。そんなのを皇帝に使わせちゃって良いのか。サザナミとアラナミが怒るんじゃないのか?あ、ほら、2人の目が鋭くなってるぞ。


 『そなたの持ち物を汚してしまったな。後で礼をする』と律儀に言う魔皇帝。


 『お気になさいますな。アランの友達は私の友達でもありますからね』と爽やかに笑って史朗が魔皇帝の背中をバシッと叩いた。

 フレンドリー史朗。良いんだけど、サザナミとアラナミの目が更に鋭くなっているよ。

 

 『アラン?…我が君(レ・アラン)か』


 『ええ、アルランティア様の事ですよ。普段はアランとお呼びしています。友達ですからね』


 『友達…レ・アラン…。わ、我も 我が君(レ・アラン)とお呼びする事をお許し頂けますでしょうか?』


 『うん、アランで良いよ』 


 また、アランとレ・アランが混同か。まあ、何でも良いけどな。そう思ってにっこり笑うと、魔皇帝マルコシウス三世は『はうっ』と声を上げ、また鼻血を押さえていた。


 そして、その日は午後まで我が家で過ごし、そうしている間に2人の配下をダレンの尋問に貸してくれたのだった。


 まさかこの時に、翌日俺がワルノー侯爵領の城地下ダンジョンの探索に向かうという情報を掴んでいたとは。そして自分も加わる事を決めていたとは、俺は全く想像もしていなかった。  


 


 大分長くなったが、そんなわけで魔皇帝マルコシウス三世は俺の知り合い、いや友人となったのだ。それにしても、いつも「急に来ちゃう系」なのか。そこは後でちゃんと注意をしようと思う。

 確かに今回は、ダンジョン化した地下道の探索には役に立ちそうなので、同行の申し出は有り難く受け入れる事にした。


 グレゴリーと俺以外は彼等の正体を知らないので、俺小隊の皆には「負の念が強い闇の空間での戦闘に慣れているので、地下道探索の応援として来た魔法剣士」と伝えてある。…まあ、間違いではない。


 闇の一族と言っても良かったが、作戦前にチームに動揺を与えるような事は控えておきたい。後に落ち着いてから、正しく誤解のないように伝えたいのだ。

 騎士達は、急に現れた謎の3人の戦闘能力が規格外であると言うことはすぐに見抜いたらしい。そこに来て美しい容姿も手伝いすんなりと受け入れたようだ。 


 マルコシウスくんが歩きながら店先の商品を見るだけで、店主がこぞって受け取ってくれと品物を献上しに来る。その様子を見ていた黒騎士シュバルツが、『ちょっと、マルコくんだっけ?あの串焼きも見つめてくれないか』とか、『あそこの酒を見つめて仲間と飲みたいと呟いて来い』等と無茶を言い出した。

 魔皇帝ともあろう者が一兵卒にあれこれ指示をされて、無礼者と怒り出すのではないかと心配したが、俺の方をチラッと見てはイソイソと「俺の仲間達」が満足するように動く。そして、皆がよくやった!と言う度に、俺の所に来て『我はお役に立つでありましょう』と嬉しそうに言う。 


 そういう役の立ち方は違うような気もするが、まあ一緒に作戦に臨むチームなので、仲良くなっておいてもらうに越したことはないだろう。 


 彼が魔皇帝だと知っているグレゴリーだけが、胃の辺り押さえて青い顔をしているので、後で癒しの水を飲ませてやろうと思う。



  

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