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11 狂犬との戦い

「ふー美味かったなー」


「…そうだね」


「美味しかった」


 あれから家に戻り、両親と自分、更に赤い人こと【狂犬】リサを加えた4人でオーク肉の鍋を食した。

 新鮮な野菜に、上質なオーク肉。

 不味いわけがなかった。

 しかし、リサから放たれる「その肉、私の何だけど?手を付けないでくれる?手を付けたら殺すわよ」というオーラが恐ろしくて、草食動物のように野菜ばかりを食べていた。

 父や母はその空気を気にすることなくマイペースに食べていた。

 ちなみに、母はエルフだけど、肉も食べる。ただし、あんまり好きではないので、オーク肉は父とリサが殆ど食べていた。

 あの状態で肉を食べたとしても味なんてわからなかっただろうから、気にしないけれど。

 

「さて、食後の運動といくか」


 父はそう言いながら木剣を振る。


「ええ、やるわよ」


 リサもそれに応えるように木剣を振り始めた。


「ほれ、アレックス。俺はただの審判だから、お前がリサの相手をしてやれ」


 父はそう言うと、手に握っていた木剣を放り投げてきた。

 放り投げられた木剣を受け取ることができず、そのまま地面に落ちていった。


「え、俺が…戦うの?」


「そうだけど」


「え、け、けど…俺じゃあ勝てない…」


「アレックス…お前はお父さんに年が10以上離れた女の子を木剣で叩く、そんなことをさせようというのか?」


「いや、でも」


「私はどちらでも良いわ。けど、満足できなかったら、【疾風】あなたが相手をしなさいよ」


「良いぜ。うちのアレックスと戦って勝つことが出来れば俺直々に相手をしてやろう」


 その言葉を聞いたリサからとんでもない殺気が放たれる。

 こ、これ木剣でも死ぬんとちゃうか…そう思わせるほどのものだった。


「ただし、リサ。ハンデとしてリサは木剣を使用した攻撃のみで戦うこと。途中で武器を落としたり、破壊された場合はリサの負け。更にアレックスは魔術の使用アリで。リサの方がお姉さんなんだからそれくらい良いよな?」


「良いわよ。それくらいで私に勝てると思ったら大間違いなんだから」


 更にリサの殺気が膨れ上がる。

 これって、本当に訓練なんだよね?膝の震えが止まらないんだけど。


「よし、アレックス。ちょっとこっち来い。お前にリサ対策を教えてやる」


 父は二カッとガキ大将のような笑顔で秘策を授けてきた。


-------------------------------------


「よし、ルールはさっき行ったとおり、アレックスは持ちうる攻撃手段全て使用可能、リサは木剣のみ。相手が参ったするか、戦闘不能になった時点で終了。リサは更にハンデとして木剣が使用不能になった時点で負け。これでいいな?」


「ええ、問題ないわ」


「はい…」


「よし、はじめぇ!」


 剣を真っ直ぐに構える。剣道で言えば青眼の構えだ。

 意外とこの世界では青眼の構えは使われない。

 左右からの攻撃に弱いし、真正面からの攻撃にしか対応出来ないからだ。

 それに対し、リサは木剣を右手で持ち、半身でじわりじわりと近づいてきている。

 父が言っていた通りの戦法のようだ。

 あれだけリサは殺気を放つが、実は戦い方は冷静である。

 いきなり距離を詰めてきたり、猪突猛進な戦い方はしない。

 相手の出方を待ち、冷静に対応する。

 故に、大事なのは先手を取り、相手にペースを握らせないこと。


「…これは」


 気づいたときにはもう遅い。

 リサの足元は泥沼と化している。

 土と水の魔術のあわせ技だ。

 既に沼の深さは50センチ程度ある。

 下手に動こうものなら、逆に深みにはまる。

 既にリサのくるぶしあたりまで、泥に飲み込まれている。

 この状態であれば、素早い動きは不可能だ。

 こっそりと先手をとる。

 それがリサに対する必勝法との父情報だった。


「面白い」


 リサは笑った。

 赤い瞳が、火を灯したかのように光に満ち、赤い髪が、燃え上がる炎のように逆立った。

 その瞬間、泥沼が爆発した。

 そして、気づけば、彼女は目の前に居た。


「ちっ!」


 信じられない。

 泥沼に浸かっていたのに、父と同じレベルの速度だった。

 後1歩近い間合いだったら彼女の攻撃を回避することはできなかっただろう。


「ウィンドカッター!」


 風の刃を作り出す、風の中級魔術。

 まともにくらえば骨くらいは折れる威力がある。

 それを数にして12。

 

「はぁぁぁぁ!!」


 そのすべてをリサは木剣一つで切り落とした。

 1つも当たらないのは予想外だけど…彼女の動きを考えれば当然か。

 想定していなかったわけではない。

 ウィンドカッターとは別に、同時に発動させいた無詠唱のエアハンマーが泥沼に炸裂する。

 泥を巻き上げることで、リサの視界を塞ぐ。

 

「むっ」


 視界がなくなれば、当然人は躊躇する。

 そのすきを狙って、先程のウィンドカッターよりも、破壊力と数を増やした魔術を使うため、魔力を練り上げた。

 リサは、そんな俺の思惑を知ってか知らないでか、泥を突き破って一直線に飛びかかってきた。

 

「なっ!」


「今の魔術…良かったわ。私に気づかせないほど緻密で、丁寧で。…もしあなたと同じ年の頃に戦っていたら負けていたわ」


 リサの木剣は、人生最大級の痛みと衝撃を持って、俺の意識を奪ったのだった。

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