第五話 初めての実戦
王都東門。
「通してください!」
リーナの声に。
門を守る騎士たちが。
すぐに道を開けた。
「リーナ副隊長!」
「状況は!?」
「東街道で商隊が襲撃を受けています!」
「ゴブリンは五十以上!」
「騎士団にも救援要請を出しましたが、到着まで時間が!」
「分かりました」
リーナの表情が。
完全に変わる。
昨日までの。
少し勝気で。
面倒見のいい少女ではない。
王国騎士団。
副隊長としての顔。
「私が先行します」
そして。
隣にいるリリスを見る。
「リリス」
「うん」
「絶対に私から離れないでください」
「分かった」
「危険だと思ったら後退すること」
「うん」
「そして」
「?」
「《魔爆矢》へ大量の魔力を込めない」
「分かってるって」
「そこが一番心配なんです!」
後ろから。
緊急依頼を受けた冒険者たちも。
続々と集まってくる。
「行きます!」
「うん!」
二人は。
東門を飛び出した。
◇◇◇
「《身体強化》」
リリスが。
身体へ魔力を巡らせる。
ただし。
今回は。
かなり抑えて。
昨日。
最初に試した時のように。
地面を蹴った瞬間。
十メートル先へ飛んでいくようなことはしない。
「このくらい……」
走る。
「お」
速い。
けれど。
ちゃんと制御できている。
「リリス!」
隣を走る。
リーナが。
少し驚いた顔をした。
「昨日より上手く制御できていますね!」
「《魔力操作》のおかげかも!」
「それなら何よりです!」
王都から続く。
広い街道。
左右には。
草原。
さらに遠く。
森。
「……」
リリスが。
意識を広げる。
《気配察知》。
視界だけではない。
周囲に存在する。
生物の気配。
位置。
数。
それらが。
ぼんやりと。
頭の中へ浮かび始める。
「前」
「?」
「かなりいる」
さらに。
《危険察知》。
ぞくり。
微かな感覚。
「右の森にも」
「分かるのですか?」
「うん」
「街道だけじゃない」
少なくとも。
数十。
そして。
少し離れた森の中にも。
複数の反応。
「待ち伏せでしょうか」
「たぶん」
「……便利ですね」
「すごく」
「では」
リーナが。
走りながら。
自分の身体へ。
赤色の魔力を纏わせた。
「《加速》」
淡い赤光。
リーナの速度が。
一段階。
上がる。
「それ魔法?」
「支援魔法です」
「赤魔法師の?」
「はい」
「そういえば」
リリスは。
まだ。
リーナ自身を。
きちんと《鑑定》していなかった。
「《鑑定》」
━━━━━━━━━━
《リーナ・ヴァルセイン》
種族:人族
年齢:20
Lv:48
職業
《槍術士》
《赤魔法師》
━━━━━━━━━━
「……四十八」
「何です?」
「リーナのレベル」
「鑑定したんですか!?」
「うん」
「急ですね!」
「気になったから」
「……まあ構いませんけど」
「高い?」
「一般的には」
「やっぱり」
「騎士団副隊長ですので」
少し。
胸を張る。
「おお」
「なぜちょっと嬉しそうなんです?」
「頼もしいなって」
「……」
リーナが。
一瞬。
黙る。
「前を見て走ってください!」
「照れた?」
「照れていません!」
◇◇◇
やがて。
金属音。
叫び声。
魔物の声が。
聞こえてきた。
「ギャッ!」
「ギャギャッ!」
「くそっ!」
「馬車を守れ!」
「こっちにも来るぞ!」
「いた!」
街道。
三台の馬車。
その周囲を。
大量のゴブリンが取り囲んでいた。
粗末な剣。
棍棒。
石斧。
弓。
武器は様々。
「本当に多い……」
商隊の護衛は。
十人ほど。
けれど。
すでに何人か。
傷を負っている。
「リリス!」
「うん!」
リーナが。
長槍を抜いた。
「負傷者をお願いします!」
「分かった!」
「ゴブリンは私が――」
「リーナ」
「?」
「右!」
《危険察知》。
森。
木々の間。
弓を構える。
五体のゴブリン。
「伏兵!」
「……!」
リーナが。
即座に方向を変える。
しかし。
「私がやる!」
リリスが。
右手を前へ。
「《魔力弓》」
青白い魔力。
瞬時に。
一本の弓を形成。
そして。
《上級魔弓術》。
視線を向ける。
一体。
二体。
三体。
四体。
五体。
全て。
捕捉。
━━━━━━━━━━
《多重捕捉射撃》
対象捕捉:5
━━━━━━━━━━
「行け」
五本の魔力矢。
同時発射。
――シュシュシュシュシュッ!
それぞれ。
全く違う軌道を描き。
「ギャッ!?」
「ギィ!?」
五体。
同時に。
命中。
森の中へ倒れる。
「……」
リーナが。
一瞬。
ゴブリンたちを見る。
「実戦でも問題なく使えていますね」
「上級魔弓術すごい」
「感心している場合ではありません!」
「あ、うん」
その瞬間。
リリスの視界に。
表示。
━━━━━━━━━━
ゴブリンを討伐しました。
━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━
《素材獲得量上昇》Lv10
《自動収集》Lv10
発動
━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━
《ゴブリンの魔石》×50
《ゴブリンの牙》×50
を取得しました。
━━━━━━━━━━
「……五十?」
一体分ではない。
五体。
通常なら。
各一個程度。
それが。
《素材獲得量上昇》によって。
十倍。
そして。
《自動収集》によって。
自動的に《インベントリ》へ入っていく。
「素材……いっぱい」
「リリス!」
「はい!」
「今は戦闘中です!」
「分かってる!」
ちょっと。
嬉しかっただけ。
◇◇◇
「ギャアアアッ!」
街道側。
ゴブリンたちが。
新たな敵に気づいた。
十数体が。
一斉に。
こちらへ向かってくる。
「来ます!」
リーナが。
前へ。
長槍を構える。
「《身体強化付与》!」
赤い光。
今度は。
リリスの身体へ。
「え?」
「支援魔法です!」
身体が。
少し軽くなる。
自分の《身体強化》とは。
また違う。
「これも赤魔法?」
「そうです!」
リーナが。
地面を蹴る。
「はぁっ!」
槍。
一直線。
――ドンッ!
「ギャッ!」
一体のゴブリンを。
吹き飛ばす。
すぐに。
槍を回転。
横薙ぎ。
「ギャアッ!」
さらに二体。
「強い」
「見ている場合ですか!」
「あ」
別方向から。
七体。
リリスへ。
「じゃあ」
魔力弓。
構える。
七体。
捕捉。
「《多重捕捉射撃》」
――シュシュシュシュシュシュシュッ!
七本。
七方向。
「ギャッ!」
「ギィッ!」
命中。
全て。
一射ずつ。
「便利……」
一対多数。
それも。
複数方向から接近される状況。
《多重捕捉射撃》との相性は。
かなりいい。
直後。
━━━━━━━━━━
レベルアップ!
Lv1
↓
Lv3
━━━━━━━━━━
「……上がった」
さらに。
━━━━━━━━━━
レベルアップ!
Lv3
↓
Lv5
━━━━━━━━━━
「また?」
ゴブリン。
数体倒しただけ。
なのに。
次々と。
レベルが上がる。
「そうか」
エルシアから授かった。
《獲得経験値上昇》。
そして。
《必要経験値減少》。
二つが。
同時に作用している。
「実質百倍……」
「リリス!」
「ごめん!」
本当に。
戦闘中だった。
◇◇◇
「助けてくれ!」
商隊。
一人の護衛が。
肩から血を流していた。
「リーナ!」
「そちらをお願いします!」
「うん!」
魔力弓を消す。
負傷者へ。
駆け寄る。
「大丈夫?」
「ゆ、勇者様……?」
「じっとしてて」
肩。
かなり深い。
剣か。
斧による傷。
血も。
多い。
「《回復魔法》」
白い光。
傷口を包む。
「……!」
裂けた皮膚が。
みるみる。
塞がっていく。
「痛みは?」
「……ない」
護衛が。
自分の肩を触る。
「完全に……?」
「よかった」
もう一人。
脚。
さらに一人。
脇腹。
「順番に治すね」
《回復魔法》。
白い光。
「す、すげぇ……」
「こんな回復魔法……」
後ろから。
驚く声。
その間。
前線。
「《火球》!」
――ドォン!
赤い火球が。
ゴブリン三体をまとめて吹き飛ばす。
「リーナ……」
槍だけではない。
攻撃魔法。
そして。
「騎士殿!」
「腕が!」
「こちらへ!」
リーナが。
負傷した冒険者へ。
手を向ける。
「《治癒》!」
淡い赤白色の光。
傷が。
塞がる。
直後。
「《防御強化》!」
周囲の護衛たちへ。
赤い光。
「体が……!」
「力が戻る!」
「これが」
リリスが。
少し感心する。
「赤魔法師」
攻撃。
回復。
支援。
状況を見て。
全部。
使い分けている。
しかも。
その間も。
槍による戦闘を続けている。
「器用……」
「リリス!」
「?」
「後ろです!」
《危険察知》。
ほぼ同時。
振り返る。
「ギャアッ!」
ゴブリン。
一体。
斧。
すでに。
目の前。
「――っ」
魔力弓では。
近すぎる。
なら。
右手。
腰。
鉄の剣。
抜く。
《上級剣術》。
身体が。
勝手に。
最適な軌道を選ぶ。
――シュッ。
「ギャ……」
一閃。
ゴブリンが。
倒れる。
「……できた」
「だから戦闘中に感想を言わない!」
「ごめん!」
◇◇◇
数分。
戦況は。
急速に変わっていた。
ゴブリン。
最初。
五十以上。
しかし。
リーナ。
商隊護衛。
後から到着した冒険者たち。
そして。
リリス。
次々と。
数を減らしていく。
「あと十五……」
《気配察知》。
だが。
「……?」
一つ。
少し違う。
「リーナ!」
「何です!?」
「奥!」
森。
大型反応。
次の瞬間。
「グォォォォッ!」
木々を押し退け。
一体の。
巨大なゴブリンが現れた。
普通の個体より。
二回り以上大きい。
筋肉質。
巨大な鉄斧。
「ホブゴブリン!」
冒険者が叫ぶ。
「しかもデカい!」
「群れの頭だ!」
リリスが。
《鑑定》。
━━━━━━━━━━
《ホブゴブリン・リーダー》
種族:魔物
Lv:22
━━━━━━━━━━
「二十二」
自分より。
遥かに上。
その時点では。
そう見える。
「リリス!」
リーナが。
前へ出る。
「ここは私が!」
「でも」
「私はLv48です!」
長槍。
赤い魔力。
「この程度なら問題ありません!」
「……」
確かに。
強い。
「じゃあ援護する」
「お願いします!」
ホブゴブリン。
巨大斧。
振り下ろす。
「グォォッ!」
――ドォン!
地面が。
砕ける。
リーナは。
すでに横。
「遅い!」
槍。
一撃。
脇腹。
「グオッ!」
しかし。
浅い。
「硬い……!」
「だったら」
リリスが。
魔力弓を構える。
普通の矢。
では。
面白くない。
貫通。
━━━━━━━━━━
《貫通魔矢》
━━━━━━━━━━
魔力を。
一点へ集束。
ただし。
加減。
「このくらい」
弦。
引く。
「《貫通魔矢》」
――シュンッ!
「グォ!?」
ホブゴブリン。
肩。
魔力矢が。
分厚い筋肉を。
一直線に貫いた。
「今です!」
「はい!」
リーナ。
踏み込み。
長槍へ。
炎。
「《炎槍》!」
――ドンッ!
赤い一閃。
胸。
直撃。
「グォォォォ……!」
巨体が。
地面へ。
倒れた。
━━━━━━━━━━
《ホブゴブリン・リーダー》
討伐しました。
━━━━━━━━━━
「おお……」
でも。
まだ。
終わりではない。
「残り!」
リリスが。
周囲を見る。
十一体。
逃げようとしている。
「逃がすとまた街道を襲う可能性があります!」
「じゃあ」
《上級魔弓術》。
一番。
向いている。
「全部捕まえる」
━━━━━━━━━━
《多重捕捉射撃》
対象捕捉:11
━━━━━━━━━━
十一。
ロック。
逃げる。
方向。
速度。
距離。
全て。
自動的に。
感覚へ入ってくる。
「発射」
――シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!
十一本。
分散。
曲線。
直線。
木々の隙間。
岩の横。
それぞれ。
異なる軌道。
「ギャッ!」
「ギィッ!」
「ギャアッ!」
十一体。
ほぼ同時。
倒れる。
静寂。
「……」
街道。
誰も。
しばらく。
何も言わなかった。
「……終わった?」
リリスが尋ねる。
リーナが。
《気配察知》を持っているわけではないが。
周囲を確認。
「リリス」
「うん」
「気配は?」
確認する。
近く。
人間。
馬。
冒険者。
それ以外。
敵意のある反応。
「……ない」
「では」
リーナが。
槍を下ろす。
「討伐完了です」
「おお!」
「助かった!」
「終わったぞ!」
商隊。
護衛。
冒険者たちから。
歓声が上がった。
◇◇◇
その瞬間。
リリスの視界が。
大量の表示で埋まった。
「わっ」
━━━━━━━━━━
戦闘終了
━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━
レベルアップ!
Lv5
↓
Lv12
━━━━━━━━━━
「……十二?」
一気に。
十一。
上がったわけではない。
けれど。
この短い戦闘だけで。
Lv1から。
Lv12。
「やっぱり」
成長速度が。
普通ではない。
さらに。
━━━━━━━━━━
《素材獲得量上昇》Lv10
《自動収集》Lv10
発動
━━━━━━━━━━
倒した魔物から。
取得可能になった素材が。
次々と。
自動回収。
━━━━━━━━━━
《ゴブリンの魔石》
《ゴブリンの牙》
《ゴブリンの耳》
《ゴブリンの粗革》
《ホブゴブリンの魔石》
《ホブゴブリンの牙》
その他素材
獲得量補正:×10
《インベントリ》へ収納しました。
━━━━━━━━━━
「……いっぱい」
リリスの。
口元が。
少し緩む。
「リリス」
「何?」
「今」
リーナが。
じっと見る。
「すごく嬉しそうですね」
「素材がいっぱい入った」
「やっぱり!」
「だって十倍だよ?」
「そこは知りませんが」
リーナが。
呆れたように笑う。
「初実戦を終えた感想が素材なのは」
「あなたくらいだと思います」
◇◇◇
「勇者様!」
商隊の男が。
こちらへ駆け寄ってきた。
年齢。
四十歳ほど。
豪華ではないが。
上質な服。
おそらく。
商隊の責任者。
「本当に助かりました!」
「私は登録したばかりの冒険者です」
「え?」
「Fランク」
「……」
男が。
固まる。
「F?」
「うん」
「今の魔弓で?」
「今日登録したから」
「……」
リーナが。
男の肩へ。
そっと手を置く。
「考えない方がいいです」
「騎士様……」
「私も昨日からそうしています」
「リーナ?」
「何でもありません」
その時。
「う……」
馬車の陰。
声。
「怪我人!」
リリスが。
すぐに向かう。
一人。
護衛。
腹部。
深い傷。
意識も。
薄い。
「これは……」
リーナが。
表情を険しくする。
「出血が多い」
「私がやる」
膝をつく。
手。
傷口へ。
「《回復魔法》」
白い光。
先ほどより。
少し強く。
傷。
止血。
修復。
皮膚。
臓器。
損傷した箇所を。
魔力が。
次々と治していく。
「……」
数秒。
男の呼吸が。
安定する。
「……あれ?」
目。
開く。
「俺……?」
「大丈夫?」
「傷が……」
腹部を見る。
消えている。
「……すげぇ」
周囲。
静か。
「完全回復……」
「高位治癒術師でも……」
「この子、本当に何者なんだ?」
「……」
リリスが。
リーナを見る。
「なんて説明する?」
「私に聞かないでください」
◇◇◇
商隊の安全を確認し。
後続の騎士団へ。
現場を引き継ぐ。
「リーナ副隊長!」
王国騎士たちが。
駆けつける。
「遅くなりました!」
「問題ありません」
「ゴブリンは!?」
「全滅しました」
「……」
騎士が。
周囲を見る。
「もう?」
「はい」
「五十体以上いたと……」
「いました」
「……」
リーナの隣。
リリスを見る。
「こちらは?」
「……」
リーナが。
ほんの少し。
考える。
「私の専属護衛対象です」
「はい?」
「詳しくは王城で」
「は、はい」
◇◇◇
王都へ。
戻る道。
「初実戦」
リリスが。
自分の手を見る。
「どうでした?」
「思ってたより」
「?」
「ちゃんと動けた」
「それどころではないです」
「そう?」
「《多重捕捉射撃》を初実戦で普通に使いこなしていました」
「上級魔弓術のおかげ」
「近距離では上級剣術」
「うん」
「回復魔法で重傷者まで治療」
「うん」
「そして」
リーナが。
少しだけ。
笑う。
「危険察知も役に立ちましたね」
「うん」
伏兵。
背後からの奇襲。
どちらも。
先に気づけた。
「取っておいてよかった」
「その判断は正解でした」
だから。
《狙撃》より。
今はこちらでいい。
「それにしても」
リーナが。
リリスを見る。
「Lvはいくつになりました?」
「十二」
「……」
止まった。
「リーナ?」
「昨日Lv1でしたよね?」
「うん」
「たった一戦で?」
「うん」
「十二?」
「うん」
「……」
沈黙。
「早い?」
「早いなんてものではありません!」
「やっぱり」
「普通の新人冒険者が聞いたら泣きますよ!?」
リリスは。
少し考える。
そして。
「エルシア様のスキル」
小さく呟く。
「?」
「なんでもない」
その力は。
やはり。
想像していた以上らしい。
◇◇◇
やがて。
王都の東門が見えてくる。
「まずは」
リーナが言う。
「冒険者ギルドへ戻りましょう」
「緊急依頼の報告?」
「はい」
「討伐報酬も出るはずです」
「お金」
「そこに反応するんですか?」
「旅には必要だし」
「昨日、金貨三百枚も手に入れたでしょう」
「あ」
「忘れていましたね?」
「ちょっと」
「金銭感覚まで心配になってきました……」
リリスが。
苦笑する。
初めての実戦。
初めての。
魔物討伐。
そして。
冒険者になって。
最初の依頼。
Lv1から。
Lv12。
《インベントリ》には。
大量のゴブリン素材。
「……冒険者」
なんだか。
少しだけ。
実感が湧いてきた。
「リーナ」
「はい?」
「楽しいね」
「……戦闘がですか?」
「違うよ」
知らないこと。
知らない魔物。
知らない素材。
自分で選んだ道を。
一つずつ進んでいくこと。
「この世界」
リリスが。
遠くに見える。
王都を見上げる。
「まだ来たばかりなのに」
「見たいものが増えてきた」
「……そうですか」
リーナが。
柔らかく笑う。
「なら」
「?」
「これからもっと増えますよ」
「本当?」
「この世界は」
リーナが。
前を向く。
「とても広いですから」
「……うん」
五百年後の。
《リリンズ・ワールド》。
リリスの冒険は。
まだ。
始まったばかりだった。




