第四話 冒険者ギルドへ
王城の訓練場を後にして。
リリスとリーナは。
王都の大通りを歩いていた。
「冒険者ギルドかぁ」
リリスは。
どこか楽しそうに呟く。
「そんなに嬉しいのですか?」
「うん」
「勇者なのに?」
「勇者って言われても、まだ実感ないし」
昨日。
この世界へ来たばかり。
しかも。
《勇者》という職業を持っていること自体。
《鑑定板》で初めて知った。
「それより冒険者の方が」
「?」
「自分で依頼を選んで、いろんな場所へ行けそう」
「……確かに」
リーナが頷く。
「冒険者は基本的に自由です」
「やっぱり」
「魔物討伐」
「素材採取」
「護衛」
「探索」
「遺跡調査」
「その他にも様々な依頼があります」
「素材採取」
リリスが。
ぴくりと反応した。
「そこだけ反応しましたね?」
「気のせい」
「絶対に違います」
◇◇◇
しばらく。
大通りを進む。
やがて。
「着きました」
リーナが。
一つの巨大な建物を示した。
「ここが?」
「はい」
石と木を組み合わせた。
三階建ての大きな建物。
正面には。
剣と盾。
その後ろに。
翼を広げた鳥を描いた紋章。
そして。
大きな文字。
━━━━━━━━━━
《聖ルミナス王国王都》
《冒険者ギルド本部》
━━━━━━━━━━
「本部なんだ」
「王都ですから」
入り口からは。
次々と。
冒険者たちが出入りしている。
剣士。
槍使い。
重装騎士。
弓使い。
魔法使い。
獣人。
エルフ。
ドワーフらしき。
小柄でがっしりした人物までいる。
「……」
リリスの視線が。
忙しなく動く。
「楽しそうですね」
「すごく」
「顔に出ていますよ」
「そう?」
「はい」
◇◇◇
扉を開く。
――ざわざわ。
中は。
想像していた以上に広かった。
正面には。
いくつもの受付。
右側。
壁一面に。
大量の依頼書が貼られた掲示板。
左側には。
食堂兼酒場。
さらに奥には。
素材買取所。
解体受付。
倉庫。
階段。
「……おお」
完全に。
冒険者ギルドだった。
「リリス」
「ん?」
「立ち止まると邪魔になります」
「あ、ごめん」
二人は。
受付へ向かう。
途中。
「リーナ副隊長?」
「あれ、王国騎士団のリーナじゃないか?」
「隣の女は誰だ?」
何人か。
リーナを知っている冒険者がいるらしい。
「結構有名?」
「別に」
「副隊長だもんね」
「その話はもういいです」
「照れてる?」
「照れていません」
◇◇◇
比較的。
空いている受付へ向かう。
「いらっしゃいませ」
受付にいたのは。
茶色の髪を後ろでまとめた。
二十代ほどの女性だった。
「冒険者ギルド王都本部へようこそ」
彼女は。
リーナを見る。
「リーナ様?」
「今日は私ではありません」
「こちらの方が?」
「冒険者登録を希望しています」
「承知しました」
受付嬢が。
リリスを見る。
「初めまして。登録担当のミレアです」
「リリスです」
「リリス様ですね」
「様じゃなくて大丈夫です」
「あ、はい」
なぜか。
横で。
リーナが小さく笑った。
「何?」
「いえ。私と同じことをさせているなと」
「呼ばれ慣れてないから」
ミレアは。
少し不思議そうにしながらも。
一枚の用紙を取り出した。
「それでは登録について説明いたします」
「お願いします」
「冒険者登録には、身元保証人は原則必要ありません」
「よかった」
「ただし」
一冊の小さな魔導具を取り出す。
「犯罪歴や重大な指名手配情報については、登録時に確認されます」
「なるほど」
「問題がなければ、簡単な適性確認を行い」
「冒険者証を発行いたします」
「ランクもあるんですよね?」
「はい」
ミレアが。
横に置かれた表を示す。
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《冒険者ランク》
F
E
D
C
B
A
S
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「初回登録者は、原則としてFランクから始まります」
「一番下」
「はい」
「Sが一番上?」
「通常の冒険者ランクではそうなります」
Sランク。
世界でも。
ごく少数。
「Fランクでは」
「薬草採取」
「街中での雑用」
「小型魔物の討伐補助」
「比較的危険度の低い依頼などが中心です」
「薬草採取……」
「また反応しましたね」
横から。
リーナ。
「素材だから」
「知っています」
「あと」
ミレアが続ける。
「ランクより大幅に高い危険度の依頼は、原則として受注できません」
「勝手に危ない依頼へ行けない?」
「はい。ただし、上位冒険者との同行やギルドの特別許可がある場合は例外です」
「なるほど」
安全管理。
新人が。
いきなりドラゴン討伐へ行く。
なんてことはできないらしい。
「では」
登録用紙。
「こちらへ」
名前。
年齢。
種族。
得意な戦闘方法。
職業。
「……ジョブ」
リリスが。
筆を止める。
《勇者》。
《錬金術師》。
さて。
「リリス」
リーナが。
小声で耳元へ。
「《勇者》は書かなくて構いません」
「いいの?」
「冒険者ギルドへ全ての職業を申告する義務はありません」
「じゃあ」
さらさら。
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名前:リリス・ルクスヴィア
年齢:21
種族:人族
職業:《錬金術師》
主な戦闘方法:剣・魔法・魔弓
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「よし」
ミレアが。
用紙を見る。
「錬金術師で、剣と魔法と魔弓も?」
「はい」
「かなり多才ですね」
「昨日覚えました」
「昨日?」
「……」
リーナが。
ゆっくり首を横へ振る。
「深く聞かない方がいいと思います」
「は、はあ……」
◇◇◇
続いて。
登録用魔導具。
「こちらへ手を置いてください」
「はい」
リリスが。
手を乗せる。
淡い光。
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犯罪照合……
該当なし。
登録可能。
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「問題ありません」
当然。
この世界へ来て。
まだ一日なのだから。
「次に簡単な実力確認を行います」
「試験?」
「試験というほど大げさなものではありません」
ミレアが。
立ち上がる。
「こちらへどうぞ」
◇◇◇
ギルド裏手。
小さな訓練場。
「ここで?」
「はい」
木製の訓練人形。
射撃標的。
魔法用の標的。
それぞれ。
用意されていた。
「Fランク登録であれば」
「最低限、自分の武器を扱えることが確認できれば十分です」
「簡単そう」
「リリス」
「ん?」
リーナが。
真顔で。
こちらを見る。
「訓練場」
「うん」
「何を約束したか」
「……加減」
「はい」
「分かってる」
ミレアが。
不思議そうにする。
「何か?」
「いえ」
リーナが答える。
「念のためです」
◇◇◇
「まず剣からお願いします」
「はい」
リリスは。
腰の。
《鉄の剣》を抜く。
標的は。
木製人形。
「一度、好きなように攻撃してください」
「分かりました」
《身体強化》。
――使わない。
普通に。
《上級剣術》だけで。
一歩。
踏み込む。
剣を振る。
――シュッ。
刃が。
木製人形の肩口へ入る。
そして。
止める。
ぎりぎり。
深く切断しない位置。
「……」
ミレアが。
瞬きをした。
「今」
「はい?」
「途中で止めました?」
「壊したら駄目かなって」
「……」
剣筋。
踏み込み。
停止。
どれを見ても。
新人ではない。
「剣術経験は?」
「今日が初めてです」
「え?」
「正確には昨日スキルを取得して、実際に剣を使ったのは今日から」
「……リーナ様」
「事実です」
「……」
「私も困っています」
「困ってるの?」
「少し」
◇◇◇
「で、では」
ミレアが。
気を取り直す。
「次は魔法を」
「雷魔法でいいですか?」
「構いません」
魔法用標的。
リリスが。
人差し指を向ける。
「最低出力……」
魔力を。
ほんの少し。
《魔力操作》で絞る。
――バチッ。
「《雷撃》」
――バヂッ!
雷が。
標的へ直撃。
中心部だけ。
黒く焦げた。
「……」
無事。
「よかった」
「何がです?」
「壊れなかった」
「壊すつもりだったのですか!?」
「違うよ」
後ろで。
リーナが。
大きく頷いている。
「進歩しましたね」
「私、子供みたいになってない?」
「昨日よりは確実に成長しています」
「魔力の加減で褒められた……」
◇◇◇
「最後に魔弓を」
「はい」
リリスが。
右手を前へ。
「《魔力弓》」
青白い魔力。
粒子が集まり。
弓となる。
「魔力武装……」
ミレアが。
目を見開いた。
矢も。
魔力で形成。
標的。
二百メートル。
「普通の射撃でいいですよね?」
「はい」
今回は。
戦技を使わない。
《上級魔弓術》。
それだけ。
構える。
「……」
呼吸。
風。
距離。
射線。
標的中央。
自然と。
全てが分かる。
――シュンッ!
魔力矢。
直進。
――カンッ!
中心。
「……命中」
ミレアが。
呟く。
「もう一度お願いします」
「はい」
次。
標的の。
左上。
小さな印。
――シュンッ。
命中。
「今度はこちらへ」
右下。
――シュンッ。
命中。
「……」
「もういい?」
「十分です」
「よかった」
魔力弓を消す。
ミレアは。
書類へ。
何かを書き込んでいく。
「正直」
「?」
「Fランク登録試験の内容ではありませんね」
「でもFからでいいです」
「よろしいのですか?」
「うん」
リリスが。
微笑む。
「最初から順番にやってみたい」
「……分かりました」
リーナも。
それを聞いて。
小さく笑った。
◇◇◇
受付へ戻る。
しばらく待つ。
そして。
「お待たせしました」
ミレアが。
一枚のカードを差し出した。
金属と。
魔石を組み合わせた。
小さな冒険者証。
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《冒険者証》
名前:リリス・ルクスヴィア
種族:人族
年齢:21
ランク:F
所属:聖ルミナス王国王都冒険者ギルド
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「おお……」
リリスが。
カードを手に取る。
「これで」
ミレアが微笑む。
「リリスさんも正式な冒険者です」
「……冒険者」
嬉しい。
勇者と判明した時とは。
少し違う。
自分で選んだ。
この世界での。
一つ目の生き方。
「ありがとうございます」
「紛失にはお気をつけください。再発行には費用がかかります」
「じゃあ」
《インベントリ》。
カードが。
消える。
「そこに入れるんですね」
「失くさないから」
「確かに」
◇◇◇
「依頼も見ていきます?」
「見る」
即答。
巨大な。
依頼掲示板。
Fランク。
Eランク。
Dランク。
さらに。
上位ランク。
場所ごとに。
依頼書が分けられている。
リリスは。
まず。
Fランク欄を見る。
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《治癒草採取》
依頼内容:治癒草20本の納品
推奨ランク:F
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「治癒草」
「昨日三千本分見ましたね」
「もうちょっと見たくないかも」
「珍しい」
次。
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《角兎討伐》
依頼内容:ホーンラビット5体の討伐
推奨ランク:F
━━━━━━━━━━
「魔物」
「王都周辺でよく見られる小型魔物です」
「素材取れる?」
「肉、毛皮、角ですね」
「……」
「受けたそうですね?」
「ちょっと」
そして。
次。
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《スライム討伐》
依頼内容:スライム10体の討伐
推奨ランク:F
━━━━━━━━━━
「スライムもいるんだ」
「当然いるでしょう?」
「五百年前にもいたから」
「……」
リーナが。
こちらを見る。
「また五百年前と言いましたね」
「あ」
しまった。
「リリス」
「……」
「昨日から気になっていたのですが」
赤い瞳が。
じっと。
こちらを見る。
「あなた」
「はい」
「一体」
「何者なのですか?」
「……」
リリスが。
少しだけ困る。
エルシア。
LGO。
五百年前。
本当の世界。
いずれ。
リーナには。
話してもいいかもしれない。
「それは」
答えようとした。
その時だった。
――バァン!
ギルドの扉が。
勢いよく開く。
「緊急だ!」
一人の冒険者が。
息を切らし。
飛び込んできた。
全身。
泥だらけ。
左腕には。
血。
「東門の外!」
「街道近くに魔物の群れが出た!」
ギルド内の空気が。
一瞬で変わる。
「種類は!?」
「ゴブリン!」
「数は!?」
冒険者が。
息を整える。
「少なくとも――」
一拍。
「五十!」
ざわめき。
「五十?」
「集落でも近くにあるのか?」
「商隊が襲われてる!」
「護衛が持たない!」
受付嬢たちが。
一斉に動き始める。
鐘。
――カンッ!
――カンッ!
――カンッ!
ギルド内へ。
警戒音が響く。
━━━━━━━━━━
《緊急依頼発令》
東街道
ゴブリン集団討伐
推定個体数:50以上
━━━━━━━━━━
「リリス」
リーナの声が。
一気に。
騎士のものへ変わる。
「はい」
「私は現場へ向かいます」
王国騎士。
民間人が襲われているなら。
当然だった。
「リリスは」
「行く」
「……まだ何も言っていません」
「私も行く」
「あなたは登録したばかりのFランクです」
「でも」
リリスが。
倒れそうになっている冒険者を見る。
血。
怪我。
その先。
今も。
誰かが襲われている。
「助けられるなら」
「助けたい」
「……」
リーナが。
数秒。
リリスを見る。
そして。
「分かりました」
「いいの?」
「私から離れないこと」
「うん」
「無理に前へ出ない」
「うん」
「《魔爆矢》へ大量の魔力を込めない」
「……」
「リリス?」
「分かった」
「なぜそこだけ間があったんですか!」
「念のため使えるかなって」
「ゴブリン五十体相手に訓練場の防壁を抉った攻撃を使わないでください!」
「じゃあ」
リリスの視線が。
一つの戦技へ向く。
━━━━━━━━━━
《多重捕捉射撃》
━━━━━━━━━━
「こっちなら?」
「……」
リーナが。
少し考える。
「威力を抑えられるなら」
「分かった」
「本当に抑えてくださいよ?」
「うん」
初めての。
実戦。
初めての。
冒険者としての戦い。
リリスは。
腰の鉄の剣を確認する。
そして。
《魔力弓》。
《上級魔弓術》。
《気配察知》。
《危険察知》。
《回復魔法》。
使える力を。
一つずつ確認する。
「行こう、リーナ」
「はい!」
二人は。
冒険者ギルドを飛び出した。
向かう先は。
王都東門。
そのさらに先。
ゴブリンの群れに襲われている。
東街道だった。




