第十五話 急成長と次の脅威
机の上に置かれた《変質魔力石》は、青紫色の光を不規則に明滅させていた。
地脈から噴き出した高濃度の魔力によって変質した鉱石。その影響で《剛腕巨猿ガルガンド》が本来の生息域を離れ、西方林へ侵入した可能性が高い。そしてガルガンドに押し出された《剛爪獣グラウル》がさらに浅い場所へ移動し、その結果としてゴブリンたちまで街道やフェルナ村の近くへ追いやられた。
まだ仮説とはいえ、ここ数日の出来事が一本の線でつながり始めていた。
「この石、少し調べてみたいな……」
思わず口にすると、受付職員が即座に首を横へ振った。
「駄目です」
「まだ何もお願いしてませんよ?」
「顔を見れば分かります。《変質魔力石》を一つ持ち帰れないか聞こうとしましたよね?」
「……一個だけ」
「駄目です」
「欠片でも?」
「駄目です」
「ですよね」
内部魔力が極めて不安定と表示されている以上、当然だった。
錬金術師としては非常に興味を惹かれる素材だが、宿の部屋へ持ち帰って爆発でもしたら洒落にならない。
「正式な安全確認が取れれば、錬金術師ギルドにも調査依頼が回ると思います。その時なら、研究用試料が出る可能性はありますよ」
「本当ですか?」
「食いつきがすごいですね」
「知らない素材なので」
「……でしょうね」
受付職員は苦笑しながら《変質魔力石》を専用の保管箱へ戻した。
リリスも名残惜しく視線を外す。
「それじゃあ今日は戻ります。何か西方林で動きがあったら、掲示板にも出ますよね?」
「はい。ただし、何度でも言いますが、リリスさんはまだF級です。グラウルもガルガンドも自分から探しに行かないでください」
「分かってます」
そう答えながら、リリスはふと気づいた。
「……まだF級、か」
冒険者ランクは確かにF級。
でも、自分自身のレベルはどうなっているのだろう。
最初にフォレストウルフを倒した時から、何度も戦ってきた。ホーンラビット、ゴブリン、ブルースライム。実戦中はスキルの成長ばかり気にしていて、ベースレベルを最近きちんと確認していなかった。
(私、《獲得経験値上昇》と《必要経験値減少》も持ってるんだよね)
しかも両方Lv10。
獲得経験値は通常の十倍。必要経験値は通常の十分の一。
単純に考えれば、普通の人と比べて約百倍の速度でレベルが上がる。
「……確認しよう」
ギルドの隅へ移動し、《ステータス》を開いた。
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《ステータス》
リリス・ルクスヴィア
ベースLv:
4
↓
14
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「…………え?」
一度閉じる。
もう一度開く。
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ベースLv:14
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「……十四?」
自分で思っていたより、ずっと上がっていた。
戦闘中に逐一ステータスを確認していなかっただけで、経験値そのものはきちんと蓄積され、レベルアップも反映されていたらしい。
さらに表示を送る。
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ベースLv上昇:
Lv4 → Lv14
上昇数:10
獲得:
AP+1000
SP+1000
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現在:
AP:1400
SP:1342
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「多い……」
特にSP。
第二話で四十五個の基礎スキルを取得した時には、残り四十二しかなかった。それが今では千を超えている。
(これ、使わない方がもったいないよね)
今までは手持ちの技能を実戦で育てることばかり考えていた。しかし《ポイント消費軽減》Lv10がある以上、新しく取得できる有用な技能まで放置する理由はない。
「取得できるもの、もう一回見よう」
《スキル取得》を開く。
Lv1の頃には条件不足だったものの一部が、新しく取得可能へ変わっていた。ベースLvだけではなく、弓での討伐、弱点射撃、複数回の魔法使用、採取、解体、錬金など、ここ数日の行動そのものが条件を満たしているらしい。
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《新規取得可能スキル》
【戦闘】
《回避》Lv1
《軽業》Lv1
《跳躍》Lv1
《集中》Lv1
【弓】
《急所狙い》Lv1
《速射》Lv1
《矢番え高速化》Lv1
《射撃姿勢制御》Lv1
【探索・生存】
《観察》Lv1
《耐久走》Lv1
《呼吸法》Lv1
《応急手当》Lv1
【魔法】
《魔力循環》Lv1
《魔法制御》Lv1
《詠唱短縮》Lv1
《属性制御》Lv1
【生産・整備】
《装備整備》Lv1
《素材鑑別》Lv1
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「十八個」
どれも使えそうだった。
特に《回避》《集中》《急所狙い》《速射》《魔法制御》は、これから強い魔物と戦うなら欲しい。《素材鑑別》と《装備整備》も、錬金術や一人旅との相性がいい。
「……全部取ろう」
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取得選択:
18スキル
通常必要SP:
720
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《ポイント消費軽減》Lv10
効果適用
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最終必要SP:
72
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「やっぱり安い」
迷う理由はなかった。
「取得」
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SP:1342
↓
SP:1270
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18スキルを取得しました。
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新しい知識が一気に頭へ流れ込んでくる。
攻撃を受ける直前の重心移動。弓を構えたまま身体を安定させる方法。素早く矢を番える指運び。魔力を身体の中で循環させ、無駄な消費を減らす感覚。
「……これだけでもかなり違いそう」
しかし、まだSPは千以上残っている。
リリスは続けて《スキル強化》を開いた。
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《強化可能スキル》
取得済みスキルの一部を
SPで強化できます。
《ポイント消費軽減》Lv10
適用可能
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「こっちもやろう」
最優先は弓。
今の主力だからだ。
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【弓系強化】
《弓術》
Lv5 → Lv7
《照準》
Lv4 → Lv6
《遠距離射撃》
Lv3 → Lv5
《動体射撃》
Lv2 → Lv4
《急所狙い》
Lv1 → Lv3
《速射》
Lv1 → Lv3
《矢番え高速化》
Lv1 → Lv3
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次は、近接された時に生き残るための技能。
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【基礎戦闘・身体強化】
《剣術》
Lv2 → Lv4
《受け流し》
Lv2 → Lv4
《回避》
Lv1 → Lv4
《身体強化》
Lv1 → Lv4
《筋力強化》
Lv1 → Lv4
《敏捷強化》
Lv1 → Lv4
《体力強化》
Lv1 → Lv4
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「《回避》は上げておきたいな」
大型魔獣の一撃を、今の革鎧で正面から何度も受けるわけにはいかない。
続いて探索系。
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【探索・隠密】
《索敵》
Lv1 → Lv4
《気配察知》
Lv1 → Lv4
《危険察知》
Lv1 → Lv5
《魔力感知》
Lv1 → Lv4
《追跡》
Lv1 → Lv3
《隠密》
Lv1 → Lv3
《気配遮断》
Lv1 → Lv3
《足音抑制》
Lv1 → Lv3
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特に《危険察知》は、これまで何度も命を助けてくれている。
「これは高めでいいよね」
魔法も放置しない。
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【魔法系強化】
《魔力操作》
Lv2 → Lv5
《魔力循環》
Lv1 → Lv3
《魔法制御》
Lv1 → Lv3
《詠唱短縮》
Lv1 → Lv3
《火魔法》
Lv1 → Lv3
《水魔法》
Lv2 → Lv3
《風魔法》
Lv2 → Lv3
《土魔法》
Lv1 → Lv3
《雷魔法》
Lv1 → Lv3
《氷魔法》
Lv1 → Lv4
《光魔法》
Lv1 → Lv2
《闇魔法》
Lv1 → Lv2
《回復魔法》
Lv2 → Lv4
《生活魔法》
Lv1 → Lv3
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最後に、採取や解体なども実用範囲まで上げる。
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【冒険・生産系強化】
《採取》
Lv1 → Lv3
《採掘》
Lv1 → Lv3
《解体》
Lv4 → Lv5
《薬草知識》
Lv1 → Lv3
《魔物知識》
Lv1 → Lv3
《野外活動》
Lv1 → Lv3
《装備整備》
Lv1 → Lv3
《素材鑑別》
Lv1 → Lv3
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通常必要SP:
2580
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《ポイント消費軽減》Lv10
効果適用
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最終必要SP:
258
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「これも十分払える」
迷わず確定する。
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SP:1270
↓
SP:1012
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スキル強化完了
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「まだ千以上ある……」
改めて《ポイント消費軽減》の凄さを実感する。
普通なら到底できない使い方なのだろう。それでも、リリスに与えられた能力なのだから使わない理由はない。
ただし、何でもLv10まで一気に上げられるわけではなかった。
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一部スキルの
追加強化不可
理由:
実戦熟練度不足
使用実績不足
上位条件未達成
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「ちゃんと使わないと駄目なんだ」
ポイントだけで完成された達人にはなれない。
それでいい。
むしろ、その方がリリスは好きだった。
「これだけ強化したなら、身体の感覚も変わってるかな」
試してみたくなる。
けれど、ここは冒険者ギルドの中だ。
さすがに弓を構えるわけにはいかない。
◇◇◇
翌朝。
リリスは王都の外にある冒険者向け訓練場へ来ていた。
人型の木製標的が十メートル、三十メートル、五十メートル、百メートルと並んでいる。
まず《樫木の短弓》を構える。
「……軽く感じる」
弓そのものが軽くなったわけではない。
《筋力強化》と《身体強化》がLv4まで上がったことで、弦を引く負担が明らかに減っていた。
矢を番える。
以前より速い。
弓を構え、五十メートル先の標的へ狙いを定めた瞬間、《照準》Lv6の補助が働く。
「見やすい……」
狙っている場所が感覚的に分かる。
風。
距離。
弓の僅かな揺れ。
矢がどこへ飛ぶのか、その予測まで以前より鮮明だった。
放つ。
――ヒュッ!
矢は標的の胸部中央へ突き刺さった。
続けて二本目。
《矢番え高速化》。
三本目。
《速射》。
――ヒュッ!
――ヒュッ!
二本の矢がほとんど間を置かず飛び、最初の矢のすぐ近くへ突き刺さる。
「……速い」
自分で驚く。
今までなら一本撃つたびに、矢を抜き、番え、姿勢を整え、狙い直す必要があった。
その一連の動作が明らかに滑らかになっている。
「じゃあ、百メートル」
《樫木の短弓》としてはかなり厳しい距離だ。
弓自体の性能が足りないので、スキルだけでどうにかなるものではない。それでも試してみる価値はある。
矢を番え、少し上を狙う。
《遠距離射撃》Lv5。
《照準》Lv6。
風を読み、弾道を予測する。
「……そこ」
弦を離す。
大きな弧を描いた矢が飛び――標的の肩へ突き刺さった。
「中心じゃないけど、当たった」
百メートル。
初心者用短弓。
その条件で標的へ届かせただけでも、以前とは明らかに違う。
「もっといい弓も欲しくなるなぁ」
でも、まだ《樫木の短弓》を手放すつもりはない。
この弓で始めた。
もう少し使ってみたい。
◇◇◇
弓の次は魔法だった。
周囲に誰もいない練習区画へ移動し、リリスは掌へ魔力を集める。
《魔力操作》Lv5。
《魔力循環》Lv3。
以前よりはるかに滑らかに、身体の中を魔力が流れていく。
「《ファイアボール》」
炎の球が生まれる。
以前より大きい。
それでも、リリスはすぐに威力を抑えた。
「……これ、普通に撃ったら結構危ないかも」
目標用の岩へ向ける。
――ボンッ!
炎が弾け、表面を黒く焦がした。
続いて雷。
「《スパーク》」
青白い電撃が岩へ走る。
氷。
「《アイスニードル》」
以前は一本だけだった氷針を、今度は三本まで同時に形成できた。
――カカカッ!
三本がほぼ同時に岩へ突き刺さる。
「魔法もかなり使いやすくなってる」
MPは元々十万ある。
問題だったのは、どれだけ正確に扱えるかという部分だ。《魔力操作》《魔法制御》を上げたことで、ようやく膨大な魔力を少しずつ扱いやすくなってきた。
そして。
「《回避》も試したいけど……一人じゃ難しいかな」
何かに攻撃してもらう必要がある。
さすがに知らない冒険者へ「ちょっと殴ってください」と頼む気にはなれなかった。
「実戦で試すしかないね」
その時だった。
――ゴォォォォォン!
王都の方角から鐘が鳴った。
「……また?」
昨日聞いた緊急招集の鐘。
続けてもう一度。
そして三度。
訓練場にいた冒険者たちも一斉に王都を見る。
「西門だ!」
「西方林で何かあったらしい!」
嫌な予感がした。
リリスは短弓を背負い直す。
「……グラウル?」
◇◇◇
冒険者ギルドへ戻ると、予想通り西方林の地図を囲んで職員たちが動いていた。
「リリスさん!」
「何があったんですか?」
「《剛爪獣グラウル》が移動を始めました」
地図を見る。
昨日までグラウルが留まっていた地点から、南東方向へ新しい印が伸びている。
その先。
フェルナ村。
「村の方へ?」
「現時点では断定できません。ただ、進行方向が悪いです」
「どれくらい離れてます?」
「今朝の痕跡から推測すると、フェルナ村まで十数キロ。グラウルがそのまま進めば、今日中に村周辺へ到達する可能性があります」
リリスの表情が変わる。
ロイ。
エレナ。
ダリオ。
ベルク。
知っている顔が頭へ浮かぶ。
「討伐隊は?」
「編成中です。ただ……」
職員が言いにくそうに続けた。
「現在、上位冒険者の多くが《剛腕巨猿ガルガンド》と地脈異常の警戒に回っています。グラウルへ出せる戦力が不足しています」
「でもD級ですよね?」
「ええ。本来ならC級を中心とした複数人で対応します」
リリスは地図を見る。
今の自分はF級。
それは変わらない。
けれど昨日までの自分とも、もう違う。
ベースLv14。
十八個の新規スキル。
多数の技能強化。
それでもD級魔獣と戦ったことは一度もない。
「……」
「リリスさん」
「はい」
「行こうとしてますね?」
「まだ何も言ってません」
「昨日と同じ返しですね」
受付職員が困った顔をする。
「リリスさんが急速に成長していることは分かっています。それでもグラウルはD級です。ゴブリンやブルースライムとは違います」
「分かってます」
その時、ギルドの扉が勢いよく開いた。
「フェルナ村から急報!」
泥だらけの男性が飛び込んでくる。
「森の近くで大きな獣が確認された! 灰色で、四、五メートルはある! 村長が避難準備を始めてる!」
ギルドの空気が一変した。
「グラウル……」
もう十数キロではない。
村の近くまで来ている。
受付職員もすぐに動き出す。
「緊急依頼へ切り替えます! 対応可能なC級以上の冒険者を――」
「私も行きます」
「リリスさん」
「一人で探しには行きません」
リリスははっきり答えた。
「でも、フェルナ村までなら何度も行ってます。道も分かります。《索敵》も《危険察知》もあります。戦えないなら避難誘導を手伝います」
「……」
「それに」
少しだけ間を置く。
「知ってる人たちがいるので」
それだけは放っておけなかった。
受付職員は数秒考えたあと、深く息を吐いた。
「討伐隊から絶対に離れないでください。戦闘許可が出るまでは支援と索敵だけです」
「分かりました」
「本当にですよ?」
「はい」
嘘ではない。
最初から一人でD級へ突撃するつもりはない。
けれど。
腰の《鉄の剣》へ触れる。
背中には《樫木の短弓》。
昨日までとは違う身体。
強化したスキル。
そして今夜、宿へ戻ったら使おうと思っていた《鉄葉浸透強化液》。
「……そうだ」
リリスは受付職員を見る。
「出発まで、どれくらいあります?」
「早くても三十分ほどです」
「十分あれば足ります」
「何をするんです?」
「防具を少し強くしてきます」
今できる準備は、全部しておく。
初めてのD級魔獣。
《剛爪獣グラウル》。
リリスがその魔物と直接向き合う時は、もうすぐそこまで迫っていた。




