9嫌な予感
「それで、工房の案内は終わったんです?」
ディアナは不機嫌なまま尋ねた。
「ああ、金具を作る所や磨き、検品なんかも見て回った」
「そう、それでカレンさんはどうだった?あなたが興味がありそうな物はあったかしら?」
「まあ、皆さん大変なお仕事をしてらっしゃるって思いました。でも、私、宝飾品って聞いてたのでもっとネックレスやブローチの仕上げみたいな事をするのかと思っていたんです。ちょっと期待が外れたって言うか」
「まあ、一般の方は出来上がった商品しか目にする事がないから仕方がないわ。でも、そんな華やかな商品を作るには金具の一つ一つが完璧に仕上がって初めて完成されたアクセサリーになるのよ。どの仕事も決して華やかではなくても大切な仕事なのよ。そうね。初心者だったらまずは検品作業なんかどうかしら。出来上がった金具に傷や不具合がないか確認する仕事よ。うちの商品を作るのに大切な作業よ。でも、カレンさんは若いからコツさえ掴めば出来るんじゃないかしら?」
「ああ、細かい傷なんかは目がよくないといけないし、どうだカレンさんやってみるか?」
「はい、やってみたいです」
「じゃ、決まりね。明日から早速始めましょうか。朝は8時に起きて私達と一緒に工房に行きましょうか。一週間もすれば仕事に慣れると思うわ。そしたら作業員寮に移って貰う流れで行きましょう」
「奥様、私、そんな早く寮に移らなきゃ行けませんか?出来ればもう少し待って頂けると‥私、新しい環境に慣れるのに慣れていなくて今もかなりきつくて」
カレンは仕事はすると言っている。
ディアナは少し急かしすぎたかもと思った。でも、ここまで来るのにもかなりの日数が過ぎていた。だからこそ仕事をすれば家から追い出せると思った。
アルベルトは何も感じないのだろうか?彼女が甘えるたび、嬉しそうに笑うたび、その胸の奥で何を考えているのか?
ディアナには何か嫌な予感がしてならないって言うのに。
「ディアナ。そんなに急かさなくてもいいんじゃないのか?カレンさんも慣れない環境に馴染もうと努力してるんだ。なっ」
「ええ、そうね。まずは仕事に慣れてからにしましょう。でも、自分の身の回りの世話は自分でやれるようになりましょうね。今日帰ったらまずはあなたの部屋の掃除から始めてちょうだい。夕食までには出来るでしょう?」
「私、そんなにひどいですか?ごめんなさい。ゴミとか捨てる場所わからなくて掃除道具だってルナさんは忙しそうでなかなか声を掛けれなくて」
カレンは鼻をすすった。
「ディアナ。そんなに厳しくしなくたっていいだろう?掃除はルナに頼めばいいだろう?カレンさんは仕事もするって言ってるんだ」
「でも、独り立ちするには自分の身の回りの世話が出来るようにならなきゃ。私はカレンさんのためを思って言っているのよ。意地悪をしてるわけじゃないわ!」
「それは分かってる。でも、ディアナは何でも一度に言い過ぎなんだ。なっ、カレンさんゆっくりでいい。少しずつやって行こう」
「旦那様ありがとうございます」
カレンが顔を上げてうれしそうにアルベルトに微笑んだ。それを見てアルベルトは満足したように笑った。
ディアナはそんな二人のやり取りに嫌な予感がする。




