7話せばわかると思った
その日の夕方ディアナは先に屋敷に帰って来た。
メニューは昨日の料理の豆の煮込みとパンだった。
ディアナは出来上がった料理を温めて皿に盛り付けサラダとパンも添えた。お茶はポットに入れて直ぐに飲めるようにした所にアルベルトが帰って来た。
「ただいま」
「おかえり、お疲れ様。どうだった?ブローチ。仕上げに掛かっていたみたいだっだけど?」
「ああ、いい具合に出来上がった。あれなら店に出しても直ぐに売れそうだ」
アルベルトは機嫌良くそう言った。
「そう、明日にでも見せてもらっていい?」
「ああ、ディアナはどうだ?アリエル王女のティアラは?」
「ええ、何とかデザインが決まりそうよ」
「そうか。俺にもデザイン画見せてくれ」
「いいわよ。あなたに無理してもらう事になるかも」
ディアナはクスッと笑う。
「どんな宝石でも任せとけ」
デザインや作成はディアナだが、材料を手配するのはアルベルトなのでそんな風に言われてすごく嬉しかった。
だから思わず。
「もう、そう言う所好き」
「ばか!いきなりそんな事‥」
アルベルトは満更でもないって顔でディアナを引き寄せた。二人がキスをする寸前でカレンが入って来た。
「ディアナ、ほら後ろ!」
「えっ?カレン、やだ!」
二人は飛びにくように距離を取る。
気まずい。
「すみません。お邪魔でしたか?あの、時間だから来たんですけど」
「いいのよ。カレンさん。今、呼びに行こうと思っていたの。さあ、座って」
ディアナは急いで席につく。
「ああ、そうだ。カレンさんも座って」
アルベルトもほんのり赤い顔で言う。
「お二人とも仲がいいんですね。羨ましいです。私は幼い頃は母と二人でしたし、あの家に入ってからは皆さん冷たかったので」
「辛かったな。カレンさんうちではそんな気は使わなくていいから、遠慮は要らないからな」
「はい、ありがとうございます旦那様、奥様もありがとうございます」
夕食が始まるとすぐにカレンが手を止めた。
「私、豆はあまり‥」
「そう?でも、ルナの料理はすごく美味しいのよ。一口食べてみたら?」
「すみません。、豆料理は前の家で下剤を入れられてそれから身体が受け付けなくなって、申し訳ありません。せっかく奥様が用意して下さった料理なのに」
カレンはもの凄く申し訳なさそうに頭を下げた。
「いいのよ。知らなくてごめんなさい。じゃ、卵でも?」
「いえ、卵も‥あの、私自分でキッチンに行って適当に食べれそうな物を持って来ます」
「でも」
「ディアナ、カレンさんがそれでいいならそうしてもらったらいいだろう。カレンさん、キッチンにある物は何でも食べていいからな。遠慮なんかしなくていいから」
「旦那様ありがとうございます」
そしてカレンがキッチンに行って戻って来た。
「調理なしで食べれそうなものがこれくらいしか目につかなくて」
カレンが皿に入れて来たのは明日の朝使おうと思っていたハムだった。それも大きなスライスが5切れも。ハム食べれるのね。
ディアナはムッとした。アルベルトも驚いたがそんな気配など気づかれないように笑った。
「もしかしていけませんでしたか?」
カレンは俯いた。
「ああ、気にしなくていい。しっかり食べて元気になってくれよ」
夕食は気まずい雰囲気で終わった。
「カレンさん、この後少しいいかしら?」
「はい」
「じゃ、食器を片付けるから先にリビングに行っておいてくれる」
「カレンさん案内しよう」
「はい、旦那様」
ディアナはアルベルトもカレンのみの振り方の話をしてくれるつもりなんだと思った。
ディアナは皿を片付けるとポットとリンゴのコンポートを持って行く。
リビングの前に行くとカレンの笑い声が聞こえた。
「もぉ、旦那様ったら、くすぐったいです」
思わず入るのを戸惑うがそんな気持ちを振り切るように扉を開けた。
アルベルトはカレンの後ろ側に立っていて彼女の髪に触れている。
「何してるの!」
「ディアナ。違うんだ、これには訳が‥ほら、この髪留めがカレンさんの髪に絡んでな。それを取ろうとしてただけなんだ」
見れば確かにカレンの髪に髪留めが絡んでいる。
「まったく、カレンさんじっとしてて」
ディアナはアルベルトをどかせるとカレンの後ろに立って絡まった髪留めを取り外した。
これくらい自分で取れるじゃない。わざわざアルベルトに頼まなくてもいいのにと思った。
「カレンさん意外とおちょこちょいなんだな」
「もう、私が不器用だって言いたいんですね。でも、そうかも知れません。そう言えばハルドン領では鉱石がたくさん取れるから宝飾品を作っているんでしょう?私、不器用だからそう言う仕事出来るかしら?」
「何だ、カレンさんもう仕事の事を考えているのか。まだ、無理しなくていいんだぞ。落ち着いたら一度工房見学でもすればいい。工房が無理なら事務仕事もあるし王都の店の売り子ですもいいんだ」
「まあ、王都で暮らすなんて素敵だわ。私、王都のお店で働きたいです」
ディアナはまたため息が出た。
「カレンさん、王都で暮らすには一人である程度の事が出来なければ無理よ。部屋を借りても食事や掃除洗濯は自分でしなきゃならないから」
「まあ、ハルドン男爵家のお屋敷があるんじゃないんです?」
「すまないが、うちはそこまで裕福じゃなくてな。王都に屋敷を構えるには相当金が必要なんだ」
アルベルトが少し言いにくそうに言った。
「まあ、私ったらごめんなさい。面倒を見ていただいているのに」
カレンは俯いてしゅんとして見せた。
「そんなの気にしなくていいから」
アルベルトの方が申し訳なさそうな顔をした。
「カレンさん、そう言う事情だからあなたもこれからの身の振り方を考えなきゃね。落ち着いたら作業員寮に入って一人でやっていけるようにすればいいわ。周りにはあなたのように親元から離れて来た年の近い子もいるしきっと助けてくれると思うの」
「奥様ありがとうございます。私もそうなれるように考えてみます」
ディアナはカレンは話せばわかる子だと思った。
だから今日はこれ以上の事はいいと思った。
いくら何でもいきなり出ていけと言うつもりもなかった。カレンがその気持ちで居てくれるならしばらくは今のままでも仕方がないと思っていた。




