5朝から言い合い
翌日の朝もカレンに声をかけた。
「カレンさん?朝ごはんよ。起きてらっしゃい。カレンさん起きてもらえる?」
何度か声をかけたが酒のせいでぐっすり寝込んでいるのか彼女は起きてはこなかった。
私は仕方なく夜話をすることにする。まあ、朝から話をするのも感じ悪いし彼女にも悪い話ではないはずだ。話は夜の方がいいと思い直した。
「アルベルトがお酒なんか飲ますから」
「カレンさんか?」
アルベルトは何もなかったかのような顔をして言った。ちなみに今日もディアナの作ったふわとろオムレツを美味しそうに口に運びながら新聞を見ている。
ディアナはいつものように彼の隣に座った。
「ええ、何度声をかけても起きないわ。でも、昨日も言ったけどあの子が18歳になったならここには置けないわ。なるべく早く作業員寮に移ってもらうから、1人部屋だし仕事をしながらこれからの事を考えるにはちょうどいいと思うわ」
うちの商会の作業員は一人もので家のない者には作業員寮がある。そうは言ってもキッチンもなく寝るだけ程度の部屋だが、一階には湯を沸かす程度のキッチンもあり家のない者には重宝されている。
一階と二階は男用で三階は女用。もちろん3階の入り口には鍵も付いていて勝手に出入りが出来ないようになっていて家が遠くにある若い女性には重宝されている。
「ディアナ、いくら何でもそこまでしなくたっていいんじゃないか」
「でも、若い娘が領主の屋敷に住んでるのもおかしいんじゃないかしら?それにカレンさんもここで気を使って暮らすより一人で自由に出来る方がいいと思うけど」
「まあ、一度彼女に聞いてからにすればいいだろう?彼女がここがいいと言えばこのまま住まわせてもいいんじゃないか」
ちらりとアルベルトがディアナを見た。
「でも、赤の他人の女性よ。もう18歳になってと言う事は成人して独り立ちする年齢だわ。私だって最初は部屋も用意してカレンさんの面倒を見るつもりだったわ。あなただって知ってるでしょう?でも、事情が変わったんだから」
「でも、さっかくディアナが部屋を用意したんだし、もうしばらくはここに置いてやってもいいんじゃないのか?」
「アルベルト。だったらいつまでにするつもり?そう言うところはっきりさせておかないといつまでも彼女は独り立ち出来ないと思うわ」
何しろカレンは意外とわがままで男に甘えるのが上手い気がするんだもの。私の気のせいだったらいいけど、万が一にも取り返しのつかないことにでもなったら‥
そんな事を思ったが間違ってもそれを口にはしなかった。でも、胸の中がざわざわと波打つ。
アルベルトがフォークを置いた。食べかけのオムレツ。彼が大好きな料理。それを途中で止めるとディアナを見た。
「まったく、女って言うのはどうしてそんなにせっかちなんだ?カレンは酷い目に遭ったんだ。少しくらい大目に見てやれよ。話はもう少し落ち着いてからにする。いいだろうディアナ」
「でも、アルベルト、先に話だけはしておいた方が彼女のためにもなるわ。私だって今すぐ追い出すなんて言ってないじゃない!いずれそうしてもらうって言ってるだけじゃない!」
「だったらもう少し待て、いいなディアナ!」
アルベルトは語尾をスパッと切った。彼がこういう言い方をした時はこれ以上何を言っても聞かないと言う事だ。
ディアナは「もう、これだから男って!」
「少し落ち着いたら俺からきちんと話す。仕事をある程度覚えれば王都の店にでも行ってもらおう。そうすればカレンさんは気持ち良く屋敷からは出て行けるじゃないか。俺たちもいい事をしたって思える。だろう?じゃ、先に行ってるから」
アルベルトは食べかけたオムレツを残したまま立ちあがった。これはもう決まった事だとでも言うように。
ディアナはアルベルトを見上げた。
「ええ?オムレツ食べないの?」
「別にいいだろう」
「何怒ってるの?」
「ばか、怒るか‥ったく」
アルベルトはそそくさと出かけて行った。
何よ。
いつもなら工房に行く時は一緒に出掛けるのだがその日アルベルトは先に行ってしまった。
大好きなオムレツを残したまま。
いつもなら前夜睦みあった翌朝にはキスくらいしてくれるのに、朝のキスもなかった。まあ、カレンがいるから仕方がないんだけど‥
ディアナは朝食の食器を片付けながら思った。
”もう、間違いがあってからじゃ遅いのよ。どうしてそれが分からないのよ、あの子絶対あなたの気を引こうとしてるわ。一緒にお酒なんか飲んだりして‥もう‥ねぇ、アルベルト信じていいの?万が一にもあの子と間違いを起こすような真似だけはしないでよ。もしそうなったら私、もう我慢出来ないから‥”
ディアナは大きなため息をついた。




