24それから数か月
それから数か月~
王都では二つの話が街を賑わせていた。
一つは女に手玉に取られたグレナン伯爵の噂だった。
グレナン伯爵家のノエル・グレナン伯爵は40歳を過ぎた男で妻も嫡男もいる。そんな伯爵がある日一人の女を助けた。女は酷く弱っていてこのまま放ってはおけないと伯爵が屋敷に連れ帰った。女は最初は遠慮ばかりしていたがそのうち伯爵の妻にひどい扱いを受けたと言って伯爵に取り入った。執事にとがめられれば執事に言い寄られただとか使用人から眇められただの、あげくに厩に連れ込まれそうになっただのとそれはもう伯爵家をかき回した。
女は事あるごとに伯爵に泣きついた。それこそ女の武器を使って。
伯爵は女に骨抜きにされ遂に女は伯爵の妻を殺そうと毒薬を盛った。でも、使用人がおかしいと気づいて間一髪で妻が口に付ける前に阻止した。
被害はなかったが女は殺人未遂で捕まった。
政務局の捜査官が女の素性を調べた。
女の名は元カレン・ロートン。男爵家の愛人の子供と判明。爵位を継いだ異母兄であるロートン男爵に追い出され引き取られたハルドン男爵家でも高価な品物を盗んで男と逃げた。そして金を使い果たすと男を捨てて別の男に乗り換えた。その男には身売りされそうになってカレンが逃げたところへ伯爵が通りかかった。カレンは伯爵の見ている前で倒れてカレンを助けたという訳だ。
そして最後にカレンは伯爵の妻の座を手に入れようとした。
それだけならよくある話だった。
だが、捕まったカレンの言い分が凄かった。
「私はただほんの少し面倒を見て欲しかっただけなの。そんな大層な企みなんてなかったのよ。ほんの少しお目こぼしを貰ってほんの少し衣服や宝石でも貰ってほんの少し美味しいものを頂ければそれでよかったの。でも、奥様が何でもかんでも邪魔するから‥私の望みなんて些細な事だったのよ。それなのにあの女があれもだめ、これもだめって言うんだもの。だから」
そんなセリフを聞いた取調官が言ったらしい。
「だが、さすがに毒を盛って殺そうとするのはやりすぎだった」
「私は悪くないわ。悪いのはあの女じゃない。それなのにどうして私が責められなきゃならないの?女の武器を使って男にほんの少し手助けをしてもらう。それのどこが悪いって言うのよ。私は大層な事を望んでいるんじゃないのに!」
「だったらまた別の男を利用すればよかったじゃないか」
「だって、前に言い寄った男は最悪だったんだもの。また、あんな男に当たらないとも限らないじゃない。だからもう、当分グレナン伯爵にお世話になるつもりだったのよ!それなのに!」
「そんな事ばかりしてないで自分で生きていく方法を考えればよかったんだ。それだけの器量があれば売り子でも何でも働き口はたくさんあったはずだ。真面目に仕事をしていい青年にでも出会って結婚して幸せになる事だって出来たんだぞ」
「取調官、あなたは本当にそう思うの?この世にたった一人の女を生涯愛してくれる男がいるって?冗談じゃないわ!そんな男いるわけがないじゃない。この世の男はみんな女が少しいい顔をすれば鼻の下を伸ばしてついてくる奴らばかりなのよ。そんな夢を見る方がバカを見るのよ!」
「お前、可愛そうな女だな。まあ、安心しろ。これからは男に色目を使って言いたくもないセリフを言わなくても良くなる。お前は一生、北の修道院で生活する事になるんだからな」
「そんな。いやよ。二度と人を殺そうなんて思わないわ。だからお願い。ねぇ、ここから出してくれたら私何でもするわ。ねぇいいでしょう?ねぇってばぁ~!」
カレンは取調官を誘惑しようとし、牢番にも馬車の御者にもすり寄った。だが、誰もカレンの言う事を聞く者はいなかった。
カレンはその生涯を修道院で過ごす事となった。と言う話だった。
そしてもう一つの話は王妃陛下が頼んだ結婚祝いの品だった。
王妃陛下が頼んだ結婚祝いの品が納品された。その品物は美しい食器だった。見た事もない美しい色合いのガラスで出来た皿やカップに王妃は声を上げて喜ばれたと。
国王もその見事な出来栄えに国宝級の扱いにすると決めたとか。
直ぐに商人の間でそのガラスの噂が出回り、ガラスの名前は愛しい妻の名前で”ディアナガラス”と名付けられていると王都中に知れ渡った。
そしてその夫婦の名前はなんとハルドン男爵。あの悪名高いカレンの同居で夫婦は一時は離縁の危機にまでなり、その後”ディアナガラス”の制作で二人は夫婦の絆を取り戻したらしいと言う記事が出たものだからもう大変な騒ぎになった。
ハルドン商会には毎日人が押し寄せた。
ディアナ夫人に一目会いたいとか、夫婦円満の秘訣を記事にしないかとか、それはもう商会の前には人だかりが出来て騎士隊が制圧に来るほどで。
あまりの人にアルベルトとディアナはしばらく王都を離れた。工房に戻りいつもの生活をした。
ディアナは新しいデザインを考えアルベルトはその材料の素材を作った。食事はいつも一緒でカレンの事も話題に上った。
「まさか、カレンがそんな事をしたなんて」
「ああ、ジャックに聞いたんだが。カレンの母親もカレンと同じように男に縋って生きて来たらしい。15歳でロートン男爵家に引き取られるまでそんな環境で育ったカレンにはそうやって生きていくすべしかなかったのかもしれない。考えてみればカレンは可哀想な女かもな」
「まあ、アルベルトったら、カレンの肩を持つの?」
ディアナはアルベルトを信じられないって顔で見た。
「ディアナ、まさかおかしなことを考えてるわけじゃないよな?俺はただあいつも別の生き方を知っていたらもっと違う道があったのかもと思っただけで‥それに、あの時カレンを無理やりでも屋敷から追い出したディアナには感謝してるんだ。だってあのままカレンに騙されていたら俺がグレナン伯爵と同じ運命をたどっていたかもしれないだろう?うう、こわっ!考えただけで身震いする。お前がカレンの毒牙にでもかかっていたら…なぁディアナ。俺がお前をどれだけ愛してるかわかってるだろう?それに感謝もしている。俺にはディアナしかいない。俺はお前がいないとだめなんだ。なぁ、わかってるだろう?」
「もう、わかったわよ。あなたが私を愛してるって信じるわ」
「そうか?本当に?俺を信じてくれる?」
「ええ、今の所、怪しい態度はないと思うしお金も不審な使い道はないから」
「俺ってそうやってずっと見張られてるのか?」
「そりゃそうよ。あなたって人はすぐに人に絆されるところがあるもの。この前だって友達に金を貸してくれって頼まれて貸そうとしてたじゃない。あの人浮気相手の女へ貢ぐお金が必要だっただけじゃなかった?そう言うところよ」
「わかった、認める、俺にはお前が必要だって、そうやって一生俺を見張ってくれていいから、俺にはそれくらいがいいのかもしれないからな。って、お前を裏切るつもりはないけどな。それだけは信じて欲しい」
「ええ、信頼バロメーターは徐々に上がっているわ。この分だと直ぐにいっぱいになるかも‥それにアルベルト、あなたには絶対私から逃げれない理由が出来たの」
「なんだ?俺はお前から逃げるつもりはないぞ」
「それを聞いて安心したわ。実はね。私、赤ちゃんが出来たの。だからもう‥」
アルベルトはその瞬間ディアナを抱きしめていた。
「俺たちのベイビーか?ディアナ本当か?間違いないのか?」
アルベルトは真剣そのもので真顔でディアナを見つめる。
「ええ、もう確実だって‥3か月よ」
「俺たちの子供が‥ディアナ、やっぱりお前は俺の女神だ。そうか、赤ん坊が…」
アルベルトの瞳には涙が光った。
ディアナはその涙が心から美しいと思った。
そしてアルベルトを心から愛していると思った。
もう、何があっても彼を信じて生きて行こうと決めた瞬間だった。
~おわり~
ざまぁで夫と別れる話ではなく元さやの話になりましたが、たまにはこういうパターンもありかなと。
最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。たくさんのポイントやいいねも頂き本当にありがとうございます。ものすごく頑張る励みになりました。
この後番外編としてカレンのその後を書いてみました。
もし良かったら読んでみて下さい。
では、また次回作頑張ります!




