22進展
その夜の夕食は豪華だった。ルナが無事取引が終わったお祝いだと言った。
二人で用意されたシャンパンをグラスに注ぐ。
ディアナはアルベルトが今日言った話が本気なのか聞きたかったがそれを問いただす勇気がなかった。
グラスを持とうとしてアルベルトが先にディアナに話しを始めた。
「ディアナ、改めて言わせてくれ。いつもありがとう。カレン、いや、彼女とは何もなかった。信じてくれるよな?」
「ええ、それは知ってるわ」
そう言うとアルベルトが意外そうな顔をした。
「じゃあ、何を怒ってるんだ?みんなの前で言ったじゃないか!これからも一緒にって‥」
「あら、あれはそう言うしかなかったからじゃない。それに怒ってるのはあなたじゃない。いつだって口もきいてくれないし、寝る時だって‥」
「だって、あんな風に言われたら」
「それは、だって、本当の事じゃない。カレンに邪な気持ちを持ってたくせに!」
前日カレンがアキルと商会の商品を持ちだしたことでカレンの本性ははっきりわかったはずだった。だからこそアルベルトはカレンに好意を寄せていた事を後悔しているに違いない。
気持ちの上でもカレンへの気持ちはすっかり冷めただろう。でも、今までの事を考えるとそれを素直に受け止める気にはなれない。まして平気な顔でカレンと何もなかったと言われても‥
いや、何もなかった事ははっきりしている。ただ、彼の心の中には絶対にカレンに対して邪な気持ちがあったはずだ。それを今になってそんな風に言われるのがすごくモヤモヤした気持ちになる。
「それは‥確かにほんの少し。ほら、男なら誰でもある事だ。だろう?カレンが好きとかそういう気持ちはなかった。それに、間違いは起こしてないぞ」
「それは私があんな風に言ったからでしょう?そうじゃなかったら絶対一線は越えていたはずよ。だってあなたのカレンを見る目ときたら‥それに彼女はあなたを狙っていたもの。だから彼女を無理にでも追い出したのよ。ふん、いい気味だわ」
「そんな訳あるはずないだろう。なぁ、ディアナ。だってカレンはあれからすぐに他の男を誘惑してたじゃないか!あいつは頼れる奴なら誰でもよかったんだ!」
「悔しいの?まあ、カレンはこっちがだめならあっちって感じだったものね。昨日の事でやっと目が覚めたんでしょう?おあいにく様」
アルベルトが気まずそうに額に手を当てる。
「‥‥なぁ、ディアナ。もう許してくれないか?」
「私だってあなたを信じたいわよ。でも、あなたはいつだって私を不安な気持ちにさせるじゃない!私は不安なの。あなたを信じていいのか。わかるでしょう?」
ディアナはとうとう本心を言った。
アルベルトの眉間がきゅっと寄る。苦しそうな顔でディアナを見る。
何よ。苦しいのは私なのに。ディアナは唇をキュッと引き結びアルベルトを睨み返す。
アルベルトが詰めた息を吐きだす。
「ディアナ、俺が悪かった。カレンは可哀想だからってカレンを優先した。でも、カレンは最初からそれを見越してあんな態度を取っていたって今はわかる。彼女はそう言う状況を利用する事に慣れていた。なのに俺は気づかなかった。だから、もう二度とそんな間違いは起こさない。でも俺がまた間違いを起こしたら今度はちゃんと言ってくれないか。今度はきちんとお前の話を聞く。立ち止まってちゃんと考える。俺は本気でお前と。ディアナと一緒にやって行きたいんだ!」
「アルベルト狡いわ。また間違いを犯すかもしれない。でも、信じて欲しいって都合がよすぎるわよ」
アルベルトの眉が上がる。自分が都合のいいことを言ってると気づいたらしい。
「ああ、ディアナの言う通りだな。俺は最低だ。前にも同じことを言ったな。二度と間違いは起こさない。誓うって。だから今回も間違いはなかったんだからって‥俺は開き直っていた。ディアナが不安になるのも無理ないな‥」
アルベルトはグラスをテーブルに置くとうなだれて腕を組んだ。
「俺はどうすればいい?離縁したいか?お前は俺に愛想がついたんだろう?」
「アルベルト‥」
ディアナは口ごもった。そこまでの覚悟は出来ていない。まだ、心のどこかではアルベルトを信じたいと思っていた。
だからこんなに苦しい。
「なぁディアナ、もう一度‥もう一度だけ俺を信じてくれないか。今度こそお前に心から信頼してもらえるように俺、変わるから!お前とちゃんと向き合って本当に信じあえる夫婦になれるように頑張るから。だからもう一度俺を信じてくれないか?」
アルベルトは今まで見たことがないほど真剣だった。
いつまでも意地を張るのはもう無理だった。ディナはアルベルトが好きだ。だからこそ許せなかった。でも、彼は真剣に向き合おうとしてくれている。
だったら‥‥自分の頼みを言ってもいいんじゃないかと思った。
「じゃあ、私の頼みを聞いてくれる?」
ディアナはずっと頼みたかった事を言ってみる事にした。
「ああ、何でも言ってくれ!」
「実はね。王妃から依頼を受けた品物が決まらなくって困っているの。でもね、今日見たあのランプシェード。あの技法が使えないかと思ったよ。あのガラスでお皿やカップなんかが出来たらすごくいいと思わない?」
ずっと思っていた。二人で一緒にそう言うものが作れたらって。
「ああ、いいと思う。それで俺に頼みって?」
アルベルトはなんだそんな事かというような態度だ。
ディアナはほんの少し戸惑った。でも、本当にやりたいのは‥
「一緒に作って欲しいのアルベルト」
「いいのか?だってお前に来た依頼じゃないか」
「でも、これって結婚記念日の品物でしょう?夫婦で一緒に作成してもいいんじゃない?」
「そりゃ、ディアナがいいなら」
「ほんと?いいの?」
「当たり前だろう。俺たちは夫婦だ。夫婦って言うのは助け合うもんだろう?」
「ええ、そうよね。アルベルト私を助けてお願い」
アルベルトは当たり前だって顔をしている。
ディアナはこんな簡単な事だったのかとほっと胸を撫ぜ下ろしたせいで体勢が崩れた。
アルベルトが隣で慌てて手を差し出した。
「ディアナ?お前。も、もしかしてずっとそれを悩んでたのか?」
「そうよ。あんなこと言った手前、素直に頼めなくて‥あなたがカレンと距離を置いてくれてのはすごくうれしかったのよ。でも、それまでのあなたにはもやもやしてたし、内心はどんなんだろうとか勘ぐったりもしてたから」
「そうか‥ああ、俺が悪い。お前を不安にさせたのは俺の責任だ。ディアナ、俺は二度とお前を不安にさせたりしない。誓うよ。それに俺もお前の商品ばかり売れて少し嫉妬してた。お前に置いて行かれるんじゃないかって不安だったんだ」
「私だってずっと不安だった。あなたがまた浮気して‥そしたら私‥もう‥だって」
アルベルトの腕がディアナをふっと引き寄せると、唇がそれ以上言うなとばかりにディアナの唇を塞いだ。
何度も優しくキスされてその度に愛してるって囁かれて二人はやっとその夜仲直りをした。
信頼し合えるなどと言うにはまだ遠かったがやっと二人の関係は進展し始めた。




