21いよいよ納品の日
ディアナは王妃からの依頼の事で朝から頭が痛かった。あれこれ試行錯誤を繰り返しているが未だ思ったものが出来上がらない。
アルベルトはあれ以来カレンを昼食に誘う事もなくなったし夕食もディアナと摂っている。
ただ、お互い食事中も殆ど話はしない。寝るときは背中合わせで口も利かなかった。
話は必要最小限。仕事の話だけだった。
その日は宝飾品の納品日で朝から皆忙しかった。前日には作業員の給料日でもあったせいか皆張り切っていた。
出来上がった商品を王都の店に運ぶ支度をする。取引先の商会に渡す品物を倉庫から出してまとめる。高価な宝石が次々に工房に運び込まれた。
ハルドン男爵家では、工房で仕上げた商品の品出しの日には出来上がった宝飾品を一度作業員にお披露目をする事になっている。
これは先代の頃から始まった事だった。
職人たちに出来上がった宝飾品に誇りを持って欲しい。次の作品への創作意欲を狩り立たせる目的もあった。それに小さな金具が役だっている事も知ってほしい。そんな先代の思いがあったのだろう。
アルベルトもそんな父の思いを継いで毎回納品の日にはすべての宝飾品をみんなに見せる事にしていた。
昨日アキルが持ち出した指輪の代替えも何とか出来上がりこの日を無事に迎えられた事にアルベルトはほっと胸を撫ぜおろしていた。
「今回も素晴らしい仕上がりだ。それに昨日の不始末があったにもかかわらず何とか品物も出来上がった。これもみんなが一致団結して協力してくれたおかげだ。本当にありがとう」
アルベルトはみんなの前でいつも以上に声を張り上げて礼を言った。
「会長、奥様。この度は息子の不手際でご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。それなのに会長は私に指輪を任せて下さった。心からお礼を言います」
リゲルさんが頭を深く下げる。
「アキルの事は残念だ。だが、カレンを引き入れたのは俺だ。だから俺のせいでもある。リゲルにはこれからも仕事を頼むつもりだからよろしく頼む」
「もったいないお言葉です。奥様、感謝してもしきれません」
リゲルは更に頭を下げた。
「リゲルさん、頭を上げて下さい。今日は祝いの席なんだからもうこの話は終わりよ」
ディアナはリゲルに近づいて頭を上げるように言った。
その後ろでさっきからクロノスが待ち構えていた。手にはランプを抱えている。
「会長、みんな見てくれ!今回、新たな試みがうまく行ったんだ。ほら、見て下さい奥様。このランプシェードを」
ディアナは宝飾職人のクロノスから差し出されたランプを見た。
色とりどりのガラスには幾重にも繊細な花や葉の模様が彫りこんである。
ディアナはこれを見るのは初めてだった。もしアルベルトとの仲がもっと上手く行っていればこのランプの話も聞いていたかも知れなかった。
「こんなもの、いつの間に」
思わずこんな言葉が出た。ディアナは口を覆う。
すかさずクロノスが言った。
「会長は奥様にも内緒でこれを仕上げていたんです。知らなくて当然です」
「そうなんですか。本当にきれいですねぇ‥」
ディアナはその美しいに細工に目を細める。
他の作業員たちもディアナを取り囲んで同じように感慨のため息をこぼす。
ディアナの頭に王妃に頼まれた品物のアイディアが浮かび上がる。この美しいガラスで皿やカップを作ったら。
王妃が国王に送る結婚記念日の品物。アルベルトと一緒に力を合わせて作れたらどんなにいいだろう。
もう一度彼と信頼関係が築けたらいいのに。
アルベルトは誇らしげに立っていた。
不意にアルベルトがディアナの隣に立った。
「この場で改めて言う。こうしてこの商会が順調に成長していけるのもここにいる妻であるディアナが新たな商品開発に取り組み成果を上げてくれたおかげだ。潤沢な資金のおかげで新たな商品の作成にも取り掛かる事も出来工房も新しく出来た。俺は彼女にすごく感謝している。実はこのガラスは新たな特許を取るつもりなんだ。名前はディアナガラスにするつもりだ。それでだが‥ディアナ、この場で言わせてくれ。こいつもありがとう。これからもよろしく頼む」
ディアナはいきなりの言葉に驚いた。それ本気なの?アルベルトは笑顔でその瞳には嘘があるようには見えない。
おまけに新しい商品名を私の名前にするなんて。
うれしかった。でも、戸惑いもあった。
でも、みんなの前だし、今はそれなりの事は言わなくてはいけない。
ディアナはすこし間をおいて話始めた。
「もう、あなたったらみんなの前なのに‥皆さん、聞いてください。この商会が成り立っているのはみんなのおかげです。皆さんいつも本当にありがとうございます。これからも一緒に頑張りましょう」
今のディアナにはこれが精いっぱいだった。アルベルトに応える返事には出来なかった。
それでも、みんなは二人が仲睦まじい夫婦に移ったらしい。
「「「「はい、奥様!」」」」
「会長いいとこあるじゃねぇか」
「ったくよぉ、熱々じゃねぇか」
「おい、そんなんじゃないからな。俺はただ‥」
「会長、照れてるんですか?」
「ハハハ‥」
その日、商品は無事に王都の商会に向けて出発して取引先への納品も無事に終わった。




