20最初からそのつもりで?
それから二週間ほどが過ぎた。
昼過ぎの事だった。明日は大切な納品の日と言う事で工房も事務所も忙しかった。
ディアナは職人頭のリゲルさんから話があると言われた。
事務所にはアルベルトもいたがリゲルさんの顔色は悪い。
あまりいい話ではないらしい。
「会長。奥様‥実はアキルが大切な商品を持ちだしたみたいなんです。それも明日納める指輪で」
「どういう事だリゲル!お前が付いていながら。なくなった?どうするんだ!」
アルベルトは激昂した。
「リゲルさん、それでアキルさんは?」
「それが帰って来なくて‥」
「それで何を持ちだしたかわかる?」
「今回の発注で一番高額な宝飾品になるサファイアの指輪です」
「そんな大事な物がどうして?」
「私が悪いんです。昨日仕上げが終わってアキルが金庫に片付けるからと言うからあいつに任せたんです。まさか、そんな事をするなんて‥」
リゲルの顔は真っ青だった。
彼は長年ここで働いて来て信頼も厚く腕も確かな職人だ。息子が仕出かした不始末にどれほど心を痛めているだろう。それに正直に話をしてくれた。
「アキルの奴!」
「急いでアキルの行方を捜せ!」
「ええ、それも急ぐけど万が一を考えて代替えの品物を準備した方がいいんじゃない?」
「ああ、そうだな。リゲル出来そうか?」
「はい、サファイアではないんですがエメラルドの上物があります」
「よし、それを使って指輪を作ってくれ」
「はい、承知しました。必ず仕上げます」
そして何とか納められる指輪は出来上がった。
その日の夕方だった。
「奥様、カレンさんが見当たりません。それに何だかおかしいんです」
金具担当の責任者のメアリーが報告に来た。
「どういう事?」
「昼過ぎから仕事場では顔を見ていません。何でも気分が悪くなったとかで寮に戻ったと聞いていましたがアンが寮に戻ってカレンさんの部屋に声をかけたんですが、鍵も開いていて‥とにかくおかしいんです」
ディアナは急いでカレンの部屋に行った。
カレンの部屋にはもともとあったベッド、家具、寝具などはそのままだったが彼女の荷物がなかった。着替えや小物、靴やトランクがなくなっていた。
まさか、カレンも逃げたんじゃ?
それからみんなにカレンの事を聞いた。
出てくる出て来る。
カレンは大抵食堂では誰かにおごってもらっていた。若い男たちは何かしらカレンに都合をつけていたらしい。昼食代。夕食を奢ったり失敗したブローチをやった者もいた。他にも枕を届けた者、花を持って来たもの、一緒に街に出かけてカップやスプーンを買ってやった者、ねだれててスカーフを買ったもの、次々にカレンに貢いだものが現れた。
そしてここ最近はアキルと二人でいることが多かったらしい。
みんなにカレンの事を聞いて回る。
「食堂はつけで食べていたはずよね?」
「いつも誰かにたかってましたよ」
「くそっ!あの女は最初から姿をくらますつもりで?」
「そう言えば最近は夕食の後はいつもアキルと出て行ってましたよ」
「じゃあ、アキルとカレンは出来てるって事なの?今日も一緒って事?」
そこでやっとアキルとカレンが一緒に逃げたのではないかと言う話になった。
リガルが「あの女~!」とうなり上げた。
「会長!アキルは魔がさしたんです。あの女が!カレンがアキルを誘惑したんだ。そうに決まってる!あいつはそんな事をするような奴じゃなかった。なのにカレンに言い寄られてあんな事をしでかしたに違いありません!会長、アキルを連れ戻して下さい。あいつは騙されてるんです。あの女は誰かれなく男にすり寄って物をねだるような女です。アキルはうぶだから騙されたんだ!」
リゲルは泣きながら膝をついてアルベルトに縋っていた。




