18もぉ、腹立つ!
それからしばらくアルベルトの様子を見る事にした。
アルベルトはいつも通りに朝食をとると工房に出かけ、用もないのにカレンの様子を見に来ていた。
ディアナはアルベルトの事は気になってはいたが苛立っていた。
おまけに王妃からの依頼の仕事もしなくてはならなかった。
銀のスプーンに銀の食器。他に宝飾品でなく日常使い出来る品物でそれなりに高価な品物。
この難しい難問に日増しに頭の中はその事でいっぱいになって行った。
鉱石の加工金属。金、銀。宝石の原石、クリスタルも。
そうだ。クリスタルを使ったペーパーウエイトはどうだろう?近頃人気がある商品だった。
そう言えば鉱山で石英も採れっるって聞いた。
うちの工房では新たにガラスを作るようになっていた。教会に使うステンドグラスではなく日常で仕えるカップや花瓶などが作れないかリゲルやアルベルトが試行錯誤しているらしい。
アルベルトに相談したいと思った。
でも、相変わらずアルベルトはカレンの世話ばかりしている。
誰があんな奴になんか!
それにカレンは他の男の作業員にも声を掛けられてそれをいいように利用しているとも聞いた。
昼食は大抵アルベルトのおごりらしい。だからここの所昼食を一緒に取った事はない。まあ、平日は仕事の都合で一緒に食べれないことも多かったのだけど。
でも、さすがにアルベルトも毎日夕食に間に合わないのはディアナに悪いと思っているらしくあれから夕食前には帰って来るようになっていた。
それにダンに頼んだ金の都合はまだ出来ないとダンにはっきり言われている。
カレンは夕食は毎日食堂で食べてお決まりのセリフを言うらしい。
「どうしよう。お財布を持って来るのを忘れたわ」
カレンが困った顔で今日はクロノスを見た。クロノスはアキルと同じ年の宝石加工の職人だ。
どうやら今日はクロノスに目を付けたのだろう。
クロノスはすかさず言った。
「カレン、心配すんな。俺が一緒に払ってやる」
「いいんですか?。でも、クロノスさんに迷惑じゃぁ?」
「この程度の金、いつだって出してやるから心配すんなって」
「本当にすみません。今度は気を付けますから」
「いいって、気にすんな!」
カレンがクロノスのそばに行って彼の袖口をほんの少し指先で掴む。クロノスは嬉しそうにカレンを見て耳を赤くした。
そう言うやり取りが毎日のようにカレンと男の作業員の間に続いているとアンたちから聞いて一週間が過ぎた。
その日の夕食後アルベルトが改まった顔でディアナに言った。
「ディアナ、頼みがある。実は友人が少しばかり融通して欲しいと言ってるんだ。5万ギルほど都合つけてくれないか?」
ディアナはついに来たと思った。そして全くこの男ときたら!
「アルベルト、その友人って誰なの?」
ディアナは何だかおかしかった。でも必死で笑いをこらえた。
「いや、それは‥ディアナは知らない。俺の学園の時の知り合いでお、親が病気で薬代がバカ高いらしいんだ」
「ええ、いいですよ」
「ありがとう、助かるよ」
アルベルトはほっとした顔をした。
それを見てすごく腹が立って来た。必死で働いてやりくりしている私がどうしてあんないい加減であざとい女の為に金を工面しなきゃならない訳?おまけにアルベルトったらうまい具合に騙されて。そんなことにも気づいてもいないし。
ばかばかしい。
ディアナの頭はすっと冷えた。
「では、友人にここに来てもらって下さい。きちんとした借用書を作ります。お金の返済期日や返済方法なども話しておいた方がいいですし、もちろん友人と言う事なので利子を取るつもりはありません。あくまで元金だけ返済していただければいいですから」
ディアナはつらつらと借金の話をした。
「いや、そんな固い話じゃあいつも気にするから、俺の小遣いから返すって事でどうだ?俺はあいつから毎月少しずつ返してもらえばいいんだし」
「でも、5万ギルですよ。うちの作業員の三か月分のいえ、カレンさんのような初心者だとしたら半年分に近い給料ですよ。あなたの小遣いから返せる額でもないですよね。いいから友人を連れて来て下さい。そうすればお金は用立てますから」
「チッ!そのくらいいいじゃないか。ここは俺の領地だぞ。いちいちお前の許可を貰わなきゃならないのかよ!ったく。いい加減にしろよ。男には男の付き合いってもんがあるんだ。それくらいわからないのか?」
アルベルトは苛立たし気に声を荒げた。
「あなた、その友人の名前を言って下さい。そうすればお金を出します」
このばか!
「それは‥言わないでくれと頼まれてるんだ。男には男としてのプライドがあるんだよ!」
「わかりました。では、この話はなかった事にしましょう。誰に貸すかもわからないお金を出せる訳もありません」
「お前いつからそんな偉そうになった?お前は俺の妻だ。妻は夫の言う事を聞くもんだろう!?それにお前最近冷たいぞ」
アルベルトは自分が悪いとは思っていないらしい。
ディアナは完全に頭に来た。大体どうして冷たいなどと言われなくてはならない?冷たいのはあんたじゃないのか?
内心沸々と込み上げる怒りに任せて椅子から立ちあがりアルベルトの前に仁王立ちのように立った。
アルベルトはディアナを見上げる。
「はぁ?アルベルト!私が冷たいですって?冷たいのはあなたじゃないですか!そもそもこんなふうになった原因を作ったのはあなたでしょう?お父様がこれで浮気を水に流してくれって頼まれてお金の管理はすべて私に任せる事になったんじゃないんですか?いい加減にして下さい!それにあなたがこのお金を誰のために使う気か知らないとでも思ってるんです?カレンにいい顔をしたいんでしょう?あわよくばあの子を手に入れられると思ってるんでしょう?男ってホント!ばかよねぇ~。カレンがそんな女だと思ってるの?あの子が貴方みたいな男だけで満足できるとでも?金がなくなればカレンはすぐにあなたの事なんか捨てるわ。その時泣きついても知らないから、あなたがこのお金をどうしてもカレンに用立てると言うなら好きにすればいい。私はあなたと離縁します。これ以上あなたとの信頼関係がなくなったら私はもうやってはいけませんから!さあ、覚悟を決めて下さい。どうするんです?カレンです?私です?どっちにするつもりなんです?まさか仕事は私にやらせてカレンとは楽しもうなんて思ってないでしょうね?」
ディアナは怒りに任せて激しくアルベルトを罵った。
「ディ、ディアナ。誤解だって、そんなつもりあるわけないだろう?カレンはほんとに困ってるんだ。お金だってないしひとりで暮らすのも不安で仕方がないんだ。わかるだろう?なぁ、ディアナ、俺が悪かった。こそこそお前に隠れてやるのは間違っていた。俺からも頼む。カレンに少し用立ててやってくれないか?」
「ほら、やっぱりあの子に金を融通する気だったんじゃない!ふん!カレンに渡すお金は一ギルだってないわ!私は今だってはらわた煮えくりかえってるんですから!!あなたと言う人はほんとに懲りない人なんだから!!!何よ。この浮気者。ほんと、頭にくるぅ!!!」
ディアナはアルベルトの背中をバシバシ叩きまくった。
「そんなつもりなんかない!俺はあれからディアナを裏切ったりしていない。なぁ、ほんとだ。ディアナ!信じてくれ」
「そんなこと言って信じれるわけないじゃない!もぉ腹立つ~!!」
「悪かった。でも、カレンとは何もない。ほんとだ。信じてくれ!俺はそんなつもりはない。なぁ、信じてくれ!おい、ディアナ頼むから機嫌をなおしてくれよぉぉぉ~」
アルベルトはそう叫んでいた。




