17これだから男って
その日の夕方ディアナが屋敷に帰って来るとダンに呼び止められた。
ダンは領地の執務の手伝いや屋敷の事を取り仕切ってくれている。
アルベルトが結婚して半年ほどたった時浮気をしたことで、当時ディアナは離縁したいと言ってアルベルトともめた事があった。
その時アルベルトの父がアルベルトが二度とそんな事が出来ないようにするためにハルドン男爵家のお金の管理をディアナに任せることを決めた。
アルベルトの個人で使うお金も領地の税金やそのほかのお金の管理、決裁権をディアナにするとしたのだ。
こうすれば二度とアルベルトは自由なお金を勝手に使うことが出来なくなる。浮気をしようにも自由なお金がなければできる事もないだろうと言う父の判断だった。
そのおかげで一切の決裁権はディアナが持っている。
領地の税金管理から鉱山の経営管理費。壊れた橋の修繕費、孤児院の管理費、疫病などの対策費、屋敷の管理費、交際費にはダレス代や宝飾品の費用もある。そしてアルベルトの個人的な小遣いの管理も入っていた。
「奥様、少しご相談が」
「ええ、どんな事?」
ダンが残っているのは珍しい事ではない。月末の決済や大口の取引の書類がある時など、彼は家の事情に合わせて働いてくれている。それはルナも同じでその日によって仕事の時間は変わる事も多かった。
ダンは珍しく言いにくそうに口ごもった。
「はい、それが‥」
「何か入用でも?あなた達にはいつもお世話になりっぱなしなんだから少しくらいいいわよ」
ディアナはダンの個人的なお金の話かと思った。
「いえ、そうではないんです。実は旦那様が奥様に内緒でお金を用立てて欲しいとおっしゃっておられまして」
「まあ、アルベルトが?それでいくら?」
「5万ギルです」
「まあ、そんなに?それで何に使うか言っていた?」
「いえ、それがご友人に頼まれて用立てる事にしたからと」
「友人ねぇ‥」
ディアナにはそのお金が誰の為か想像がついた。
「それはいつまでに必要だと?」
「出来れば明日にでもと」
「私に内緒でそんな大金をあなたが動かせるとでも思ったのかしら?無理よ」
「はい、もちろん私も無理だと言ったのですが、そこを何とかと頼み込まれまして‥取りあえず何とかしてみるとお話をしております」
「わかったわ。その話は数日中に私からアルベルトに確認するから、ダンは今、用意をしているとでも言っておいて」
「わかりました」
「こちらこそ教えてくれて助かったわ」
「いえ、決裁権は奥様にありますので当然お耳に入れておくべき事ですので」
「ダン、ありがとう。そうだ。ねぇ、これ見本で作ってみたんだけど良かったらルナと二人で使ってみて」
ディアナは王妃から頼まれた依頼を何にするか悩んでいて今日は思いついた銀のスプーンを作って見たのだ。
男用と女用で少し大きさを変えて持ち手の突端は平たくして紋章か宝石を入れたらどうかと考えていた。まあ、これは見本なので突端は宝石もなくただ平たいだけの形なのだが、素材は銀製なので高価なものに変わりはない。
「こんな高価なもの頂くわけには参りません」
「いいのよ。銀と言っても少し混ざりものが入っている二級品だし、そんな有難がってもらうほどの物じゃないの。普段使いに使ってくれるとうれしいわ。それにダンには先代の頃からずっとお世話になっているんだから、ねっ」
ディアナはダンの手にスプーンの入った箱を押し付ける。
「では、ありがたく頂きます」
「いいの。こちらこそいつもありがとう」
その日アルベルトは夕食の時間になっても帰って来なかった。
ディアナは工房に顔を出した。アルベルトは食堂に行っていると聞いた。
食堂の表まで行くと窓越しにカレンと一緒に座っているアルベルトの姿があった。
周りには若い作業員の男の子たちもいてみんな楽しそうにカレンを囲むようにして食事をしていた。
もう、アルベルトのデレデレした顔に頭に血が上る。
もう知らない!
ディアナは食堂の前をさっさと後にした。
それから2時間ほどが過ぎたころアルベルトが上機嫌で帰って来た。
「ただいま」
「どうしたのこんなに遅いなんて?何かあったのかと心配したわ」
ディアナはカレンと一緒にいたことは知っているがわざと心配そうに尋ねた。
「ごめんディアナ。実はアキルから相談を受けてたんだ。あいつ好きな子がいるらしい。どうやってデートに誘ったらいいかって聞いて来るもんだから‥」
アルベルトはハンカチで額の汗を拭う。
「まあ、アキルがそんな事を‥どうしたのアルベルトさっきから汗ばかり拭うなんて今日はそんなに暑くはないと思うけど‥まさか熱でもあるの?」
ディアナは椅子から立ちあがりアルベルトの額に触れる。
ぷ~んと微かに香る香水の香り。これはいつもカレンがつけている香水の匂いだと気づく。
「いや、アキルがそんな話をするから話に熱がないっただけだ」
「もう、あなたまで熱くなってどうするのよ。それに何だかいい匂いがするわね。これってカレンがつけている匂いに似てる気がするけど、あなたまさかカレンと一緒じゃなかったんでしょうね?彼女が一人暮らしを始めたから彼女の所に行くつもりだったの?」
「ばか!俺がそんな事する訳ないだろう。これはきっと今日カレンが倒れそうになって支えたからその時に匂いが移ったんだろう。いいからディアナ。もう、遅いから寝るぞ!」
アルベルトはそう言うと急いで風呂に駆け込んだ。




