14アルベルトはわかっていない
翌朝、カレンは朝食の時間にはおりて来なかった。
「ほら見ろ、ディアナがあんなことを言うから」
アルベルトはディアナが悪いとばかりに言った。
「それでも、今日出ていってもらいます」
「まだ言うのか?まったくお前と来たらどうしてそう強情なんだ?女はもっと…こう、何て言うか」
「カレンみたいに頼ってくれるって言いたいんでしょう?」
「ああ、そうだ、そうすれば男は張り切る。頑張れるんだ。それに仕事だって夫の前にでしゃばるもんじゃない」
「私がいつでしゃばったと?」
そこでディアナほはーんと思った。
近頃、私の仕事を見に来なくなった。前は出来上がりに口を挟んだり励ましてくれた。でも、あのティアラの一件からアルベルトは仕事の事に口出ししなくなった。聞いたり見たりする事もなくなった。
いわゆる男のメンツが損なわれるとでも思っているのだろう。
だからと言ってカレンの事は別問題だ。
ディアナには今度は王妃から仕事の以来が来ていた。
なんでも結婚20年の記念に国王陛下に贈り物をしたいとか。
宝飾品は在り来たりなので、日常に使える物がいいとか。今ディアナはその事でも頭を悩ませている。
日常使いなら私でなくても良いのではとも思うが、せっかく頂いた話に水をさすようなことを言えるはずもなかった。
カレンがいなくなればアルベルトとゆっくり過ごせる時間も増えるはずだ。仕事の相談もしやすいだろう。
そんな心づもりも知らないで。
というか、相談があるのと甘えた声の一つも出せばいい事かもしれない。でも、カレンがこの家にいる間は言いたくなかった。
まったく、つまらない意地を張らなくてもと思う。
「とにかくカレンには今日中に作業員寮に移ってもらいます。荷物はダンに頼めばいいし、私が寮の方は確認しておくから貴方は何もしなくていいわ」
「そんなに急かさなくたって」
「まだ言うの?彼女が来てもう三ヶ月も経ったのよ。ここでまた引き伸ばせばそれこそ…それともあなた。カレンを引き留めておきたい事情でもあるの?」
ディアナはいつになく強気だった。
アルベルトもディアナがかなり怒っていると思ったのだろう。
「わかった。俺は彼女がただ気の毒だと思っているだけだ。それ以上の気持ちはない。好きにしろ!」
アルベルトは食事を終えると逃げるように仕事に行った。
ディアナは片付けが終わるとカレンの部屋に行った。
部屋の外から声をかける。
「カレンさん、午前中に荷物の支度をして、昼食を食べたら寮に移るから。出来てなくても移ってもらうから。心配しないで寮には寝具もある。寝るには困らないから。仕事は明日から始めて。そんなに片付ける荷物もないでしょう。こう言う事は時間を開けない方が前に進めるはずだから。じゃお願いね」
部屋の中からはカレンのすすり泣く声がした。
でも、同情はなかった。
もう、充分誠意は尽くした。それに仕事も住まいも奪うわけではない。
カレンにはある程度の給料も支払われている。当座の暮らしに困る事もないだろう。
たからこそ、夫との私たちとの距離はちゃんと取って貰う。
まあ、アルベルトがどういうつもりかはっきりとはわからない。でも、ディアナの中で彼への信頼はまだ完全に失くしている訳ではなかった。
でも、この三ヶ月の彼の態度を見ていれば彼への信頼が揺らいでいるのは確かだった。




