表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そんなつもりではなかった  作者: はるくうきなこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/25

13自立なんかしたくない(カレン)

 最初に第一話でジャックの事をカレンの異父兄と謝った表記をしていました。申しわけありません。ジャックはカレンの異母兄の間違いです。



 翌日カレンは仕事を休み寮の引っ越しの準備をする事になった。

 荷物はほとんど増えていない。

 ここに来れば新しい服も買ってもらえると思っていた。好きな菓子も遠慮なく食べれてもっと自由に過ごせるとも。

 カレンは15歳になるまで母と二人の生活だった。

 自分がロートン男爵の娘だとは聞いていたが暮らしは平民が暮らす街の粗末は借家に住み母は居酒屋で働く貧しい暮らしだった。

 幼い頃は母は昼間の食堂で働いていた。いつも仕事場に連れていかれて母の仕事が終わるのをひとりで待つのが常だった。

 ほんの少しの菓子。使い古したあちこちがほころびた人形。着ている服は身の丈にあっておらずいつも袖が長かったり襟ぐりが大きかった。

 6歳くらいになると母は夜に働くようになり早めの夕食を済ませるとカレンは早々に布団に入らされて留守番だった。

 昼間の仕事がなくなっても母がカレンの相手をすることはほとんどなかった。

 昼過ぎまで寝てそれから家の事を少しばかりするとすぐに出かける支度を始める。

 昼間、時々買い物に連れて行ってもらう時だけがカレンの唯一に母との時間だった。カレンは甘い菓子をねだり飴玉一つでも買ってもらえれば幸せだった。

 母と言う人は絵本を読み聞かせたりすることもなく、近所と関わりも持たなかったので同じ年頃の子供と遊ぶこともあまりなかった。

 一年に何度かロートン男爵が来た。父と呼ぶにはあまりに知らない男だった。父が来るとカレンは母に部屋から出るなと言われて父と一緒の時間を過ごす事はほとんどなかった。それでも父は時々カレンに人形や絵本を持って来てくれた。そんな土産がない日はたいてい少しの菓子をくれた。

 カレンは一人で父の土産の絵本や人形で遊んだ。貰った菓子を口に入れると幸せだと思った。

 カレンのお手本は母であり時々やって来る父だった。

 父は時々土産をくれる人間で、うれしい、ありがとうと言えば頭を撫ぜて喜んだ。そうすれば次にも何かしら持ってきてくれると学んだのはいつだっただろう。

 そして母も居酒屋で働くようになると時々夜遅くに男と一緒に帰って来るようになった。

 母が甘えた声で男にねだれば男が母の望むアクセサリーや服を買ってくれた。

 母は買ってもらった服を身に着け嬉しそうに仕事に出かけた。

 男は時々カレンにも菓子やおもちゃを与えてくれた。

 そう言う世界でカレンは育った。

 欲しいものは男にねだって手に入れる。辛そうな仕草。ほんの一滴の涙。身体を摺り寄せほんの少し甘える。あまり多くを望んではいけない。男の優越感をくすぐり可哀想な女を演じあくまで男を立て自分は助けてもらうひ弱な女ではなくてはならない。出過ぎずでもほんの少し自分の欲を通す。

 そんな自分の欲を満たすための手段を母から学んだ。

 そしてそんな母が死んだのは15歳の時だった。

 その数日前父が来た。二人は言い争いをしていた。カレンは薄い壁一枚隔てた隣で争う声を聞いていた。

 ”もうここには来ない。お前は私を裏切っているじゃないか。散々私に金を出させておいてそんな女の娘だカレンは引き取れん。わかったな!”

 ”そんな。カレンが15になったら屋敷に引き取って下さると仰ったじゃないですか。今さらそんな男爵家の令嬢として学園に通わせて下さると”

 ”裏切ったのはお前だ。もう私に関わるな!”

 ”待って、あなたに捨てられたら‥”

 確かそんな内容だった。

 その数日後の夜母は鼠殺剤を飲んで死んだ。私は朝まで気づかなかった。母はこっそり夜中に服毒自殺をしたのだ。

 母が残した手紙があった。

 自分が死ねばカレンはきっとロートン男爵家に引き取ってもらえる。だから心配するな。と書かれていた。

 15歳のカレンの身体は大人びた曲線を描き始めていた。母が連れて来る男の視線を感じるようになっていた。

 


 母が亡くなると近所の人がカレンはロートン男爵家の愛人の娘だと知れていた。

 ロートン男爵は仕方なく母が亡くなった後カレンを引き取る事にしたらしい。

 カレンは男爵家の屋敷に住まうようになった。

 憧れていた暮らしだった。

 今まで暮らしていたぼろ家とは全く違う世界。屋敷は大きく豪華だった。調度品もどれも目を見張るものばかりで案内された部屋のベッドはふかふかで床も家具も素晴らしかった。

 カレンは暮らしの先行きがなくなり幸せだと思った。父は冷たかったが感謝すらした。

 だが、父には妻がいて義理母が出来た。他にも異母兄のジャックがいてジャックには妻のキャサリンがいた。

 父には子供は兄だけだったがカレンはロートン家から歓迎はされなかった。

 父の妻から見ればカレンは平民の愛人に産ませた忌まわしい子だった。ジャックからすれば母が嫌う子供のカレンは邪魔な存在だった。

 ジャックの妻キャサリンもカレンを嫌い、すぐにカレンの居場所はなくなった。

 それでも何とか表向きにはカレンは家族として扱われた。

 部屋も与えられ食事も家族と同じものを出され食事を一緒にとった。そんな席でも父はカレンと口を利く事もなかった。

 だが、平民として育って来たカレンには貴族令嬢としては無理があるとされた。ドレスをうまく着こなす事は出来なかった。食事ではマナーが分からなくて何度も失敗した。

 義理母からは同じ席での食事は無理だと言われカレンは一人で食事をとるようになった。

 ドレスは取り上げられたがそれでも平民が着るには少し上等程度のワンピースなどを与えられた。

 父は最初から領地経営が思わしくなく忙しくしていた。家にいる時間も限られていてカレンの待遇に構うことはなかったし義理母も最初からカレンを嫌っていた。

 カレンは日増しにロートン男爵家の中で居場所を失っていった。

 そこでカレンは自分の欲しいものを手に入れるため侍従や男の使用人に媚を売った。甘い蜜菓子が欲しいとほんの少し手を握ってお願いする。読みたい本があるのと言ってすっと身体を摺り寄せた。

 男はそうするだけでカレンの小さな願いを聞いてくれた。多くを望んではいけない。でも、ほんの少しなら願いを聞いてくれるとカレンは手ごたえを感じた。


 そんな状況の中、父と義理母が馬車の事故であっけなく亡くなった。ジャックは酷く取り乱していた。でも、カレンは静かにそれを受け入れるだけだった。

 父が亡くなると当然異母兄のジャックが当主となった。

 ジャックは慣れない仕事に疲れ忙しくしていた。妻のキャサリンも男爵夫人の仕事で忙しくしていた。

 カレンはある意味引き取ってくれて彼らに感謝していた。扱いは冷たくても寝る場所や食事を与えてくれた人だった。だから役に立ちたいと思った。

 家族がどんなものかも知らなかった。どういうふうに関ればいいのかもわからなかった。ジャックの疲れを癒したかった。義理姉のキャサリンにはどう接していいか全くわからなかった。

 カレンに出来た事は異母兄のジャックに優しくする事だった。

 男爵家の執務室に行ってジャックに疲れているなら肩でも揉もうかと言った。

 ジャックは驚いた顔をしたがカレンが肩を揉むのが得意だと言って無理に頼んだ。

 ジャックはソファーに腰を下ろしカレンはその後ろに回り込んで彼の肩を揉んだ。最初ジャックは警戒していたがそれでも毎日のようにカレンは執務室に行ってジャックの肩を揉むようになると次第にカレンに優しくなった。

 そしてその行為は日増しに増長して行った。ジャックの腕、ふくらはぎ、腰と触れる箇所は増えて行った。

 そして運命の日が来た。

 ジャックの腰を揉んでいた。彼はソファーに横になりカレンはその上に乗って腰のマッサージをしていた。

 カレンにはそう言った行為の知識はない。何となく男と女が一緒に寝る程度の知識だった。

 いきなりキャサリンが入って来た時、彼女はそういう行為をしていたと思ったようだ。


 キャサリンは取り乱し大きな声を上げた。ジャックは慌ててそれをやめさせ誤解を解こうとした。

 でも、結局カレンはここにはおいては置けないと言う話になった。

 もし、父が亡くなっていなかったらこんな事にはならなかっただろうか。カレンはこの屋敷で男たちにほんの少しのお願いをしてそれを叶えるだけで良かったのだから。


 新たにハルドン男爵家がカレンを引き取ってくれると言われた。

 カレンは思った。ハルドン男爵家でも同じ事をすればきっとうまく行く。

 カレンはそう信じて疑うことはなかった。



 それなのにあのディアナがいつも口うるさく言う。カレンは几帳面ではない。自堕落な母に育てられ計画性のない生活を送って来たカレンにこの先の生活をきちんとしていく計画など考える事は出来なかった。

 今日が明日が何とかなればいい。嫌われてもじっと黙って我慢すればいい。でも、ほんの少しなら欲しいものを男にねだって手に入れる。それが当たり前のことだった。

 なのにディアナは違った。

 いつも自分の事は自分で出来るようになりなさい。一人で暮らして行くには掃除や洗濯をしなさい。仕事をして一人で暮らして行けるようになりなさい。

 カレンは思った。そんなの出来る訳ない。

 なのに明日にはこの屋敷から追い出される。

 カレンは思った。私が何をしたって言うのよ!アルベルトを寝取った訳でもない。何か盗んだわけでもない。悪い事は何もしていないのにどうして追い出されるの?

 カレンは自立なんかしたくはなかった。





 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ