12明日移ってもらいます
ディアナは泣きながら夫婦の寝室に駆け込んだ。ティアラの入った箱をテーブルの引き出しにしまうと身体をベッドに投げ出した。
確かに私はカレンに嫉妬している。彼女は甘え上手であざとくて取り入るのが上手くてディアナが持っていない部分だった。
ディアナは幼い頃から両親が苦労していたのでいつも自分の事は自分でやるようになった。
兄がいて可愛がってくれていつも自分の味方になってくれてはいたがそれさえも迷惑を掛けてはいけないと思うような子供だった。
そんな中で育ったディアナは人には迷惑を掛けない、困っている人には優しく出来る人間に育ったつもりだが甘えるのはあまり上手ではない。
何でも無理をして一人でやってしまうタイプだ。男はそんな女より頼りにされて甘えてくるような女の方がいいのだろう。
きっと。
夫は優しくて頼りになる人だと思っていた。でも、女には絆されやすい人なのかもしれない。一度の浮気だと彼を許したけど間違いだったのかもと思い始めた。
「ディアナ?」
アルベルトはすぐに夫婦の寝室に駆け込んで来た。
「アルベルト」
「ばか、心配するだろう。いきなり飛び出すなんて‥さっきは俺も言い過ぎた。なぁ、俺たちカレンさんの事で喧嘩するのはやめないか。俺はお前が好きだしお前を頼りに思っている。お前だって‥嫉妬してくれるくらい俺の事‥」
アルベルトは大きな犬みたいに頭を下げて甘えるようにディアナにすり寄った。
さっきまでの怒りがすっと引いて行く。だって好きだから。こんな私を好きだって言ってくれる。
胸の奥にあったモヤモヤが押しのけられる。
「私だってあなたが好きよ。でも、あなたいつもカレンさんを庇うじゃない」
「カレンさんは可哀想な人だからだろう?それに嫉妬したディアナかわいい‥」
「だって‥」
アルベルトの唇がディアナの唇を塞ぐ。そのままベッドに押し倒されて何度も愛を囁かれた。
翌朝、ディアナの機嫌はすっかり直っていた。
そしてその日ディアナはカレンの事はアルベルトに任せて王都に出向き王宮にティアラが仕上がった事を報告した。
それから一週間後王妃様からお礼状が届いた。
出来上がったティアラをアメリア王女が大層喜んでいるというものだった。
王宮で開かれたアメリア王女の誕生日パーティーにはそのティアラを付けたアメリア王女が大層話題を呼んだ。
そしてそれをきっかけに一大ブームが起きた。
ディアナのデザインしたカチューシャが飛ぶように売れるようになった。
王女デザイン風の花シリーズは予約一年待ちと言うほどの人気ぶりで工房も大忙しで王都の店にもたびたびディアナは行かなければならなくなった。
それでも最初の頃は王都にはアルベルトも一緒について来てくれた。だが、こう度々となると彼も忙しくてそうもいかなくなった。
ディアナが王都に滞在する間は屋敷にはルナとダンにも泊まってもらう事になった。
万が一にも間違いが起きないために。
アルベルトを信じていない訳ではないが若い女性とふたりきりと言うのは良くない。これはアルベルトも賛成したことだった。
それでもカレンの事はアルベルトに任せっきりになっていたし二人の時間は限りなく少なくなって行った。
でも、なるべく屋敷には帰る事にはしていた。
そうやってカレンがやって来てすでに三カ月が過ぎていた。
カレンは、上辺だけは自分の事をやっているとルナから聞いていた。でも、掃除も適当だし洗濯は最低限ですませている。
アルベルトはカレンが泣きつくと甘く結局カレンの言う事に流されているらしい。
でも、屋敷ではきちんとカレンとの距離を置いているとルナから聞いてもいた。
仕事も簡単な検品作業も続かなくてその後は彼女がやりたいと言った宝石の選別作業。
これもすぐに飽きて今度は金具磨きに回った。そこでも文句ばかり手が荒れるとかこんな地味な作業は自分には向いていないと文句たらたらでそして三カ月目検品の終わった金具をパーツごとに整理する仕事。
それさえもアルベルトに泣きついている始末だ。
作業場の者も最近ではカレンは特別なのではと言う憶測がちらほら囁かれているらしい。
そして目にしたのがカレンのそばに付き添うアルベルトの姿だった。もういつまでも彼女を屋敷に置いておくわけには行かない。
「もういいわカレンさん、あなたには明日作業員寮に移ってもらいます。ああ、仕事はこのままやってもらっていいから安心して。追い出すんじゃないわ。きちんとあなたが自立できる環境を整えるの。いいわね」
アルベルトは反対したが私はもう決めた。彼が私のデザインが売れて妬んでいるとは薄々気づいていた。
そのせいでカレンといれば気が楽なのだろうとも。
確かに私が作った商品が売れて人気が出れば彼の職人としてもメンツがたたないのかもしれない。でも、私はそんな風に思ってはいない。
アルベルトにはアルベルトのよさがある。
それに私は彼の妻でハルドン男爵家の者で私の作ったものが売れれば領地が潤うことは明白だ。アルベルトにはそれを生かしてさらに領地を豊かにすることを考えて欲しい。




