11あざとい女
その日は少し早めに仕事から帰って来るとルナがシチューを準備していた。
「ルナただいま。う~ん、おいしそうな匂い」
「多めに作っておきましたから明日の昼も召し上がって下さい」
「いつもありがとう。カレンの様子はどうだった?」
「はい、午後にはお茶が欲しいと言われてご自分で仕度なさっていましたが」
ルナが口ごもる。
「何か困った事でも?」
「いえ、奥様が作り置きされているクッキーの缶から勝手にクッキーを出されて、私は止めたんですよ。でも、旦那様が食べていいと仰ったと言われたので」
「そう」
デイアナは棚の缶を開けた。
その中にはアルベルトの為に休みの日に作り置きをしているチョコクッキーが入っている。
一枚もなかった。
まったく。
ディアナはたいていアルベルトと夕食後に二人でお茶を飲む。仕事場で聞いた話、商会に出向いて客から聞いた事、何でもないたわいのない話だった。時折思いついた新しい宝石の話やお金の話などもする。
でも、カレンが来てからは一度もそんな時間がなくなった。二人でお茶をするとなれば彼女を呼ばなければならない。ディアナは夫と二人の時間を過ごす時間が楽しみだった。だから、何となくお茶は飲むきがしなかった。
「そう言えば彼女部屋の片づけは出来たのかしら?ルナ、カレンさんの部屋に入った?昨日はかなり散らかっていたようなの」
「はい、一応洗濯物や簡単な掃除をと思って部屋を覗くようにしていますから午前中に少し片づけましたけど」
「あなたがやってくれたの。ごめんなさいね」
「いえ、ごみを回収する程度ですから。それに洗濯物もあちこちに散らばっていたのでついでに洗いました」
「そう、ありがとう。これからはカレンの部屋の掃除は彼女にやってもらうから、洗濯も自分でするように言うわ。そうしないといつまでも1人でやっていけないもの」
「ええ、彼女が18歳になっているなんて聞いていませんでしたから、貴族の令嬢でもあればお世話をする人がいて当然ですがカレンさんは家を追い出されてこちらにお世話になっている平民です。奥様がそう思われても無理はありません」
言い忘れていたがカレンはロートン男爵家から出された時にロートン男爵家の貴族籍から排除されている。
二度と関わるなと言う事だ。
それなのにアルベルトは男気を出して彼女を引き取るからだ。
まったく!
「でしょう?それなのにアルベルトったらいちいち彼女に構うから‥」
「ったく、男って言うのはどうして頼って来る女に弱いんですかね?その腹の中が全く見えていないんですから。奥様、余計なことかもしれませんがカレンさんはかなりしたたかに思えます。奥様も気を付けられた方がよろしいですよ」
「やっぱり。あなたもそう思った?」
「ええ、彼女、旦那様やうちの者には態度が違いますから」
「はぁ、引き受けるんじゃなかったわ。身内に嫌われているには訳があるのよ。それなのにアルベルトときたら」
「男は何でも弱いものは助けるのが素晴らしい事だと思ってますから」
「そう、だから厄介なのよ」
そんな話をした後でカレンの部屋に行った。
「カレンさん少しいいかしら?」
「はい」
扉を開けるとカレンは急いで散らかっていた服などを片付けていた。
「あの、奥様、私また何かしたのでしょうか?」
怯えたように肩をすくませる。
「昨日、あなたには部屋を片付けてと言いましたよね?」
「はい、でも、今日から仕事だったので早く休んだので、今からやります」
「私が来たから急いだんでしょう?それじゃだめだと思わない?言われなくても自分の事はきちんとやるべきでしょう?」
「はい、すみません」
「だったら今から掃除用具の場所を教えるからついて来て、そしてこれからは洗濯もあなたの分は自分でやってね。寮で暮らす様になれば洗濯も出来なきゃ困るでしょう。最初はルナに教えるように言っておくから」
「でも、そんな一度には私‥」
「じゃあ、洗濯は今度の週末にルナに教えてもらうようにしましょう。それならいいでしょう。でも、掃除は今日中にね」
「わかりました」
カレンはディアナについて掃除用具の場所を教えてもらい部屋の掃除をした。
その日の夜、ディアナは仕事が残っていた。いつもは夜に仕事はしないのだが王女のティアラの納期が迫っていた。だから夕食後も工房に行った。
そして銀のカチューシャ風のティアラが遂に完成した。
花はスズランなので真珠を使いその周りに蔦をからませダイヤモンドをあしらい細かな葉脈の銀細工を施した。
ティアラだけでなくチョーカーとしても使えるようなデザインにした。
「出来たわ。アルベルトに見せなきゃ」
ディアナは出来上がったティアラを屋敷に持ち帰った。
リビングにはまだ明かりがついていた。ディアナはまだ夫が起きていると思った。
「アルベルト見て出来上がったの」
扉のノックはしなかった。
ディアナはティアラを入れた箱を持ちあげた。
いきなりアルベルトが立ちあがって恐い顔で迫って来た。
「ディアナ、お前カレンさんに酷いことを言ったんだってな!彼女は辛い思いをしたんだ。少しくらい優しく出来ないのか?まったく、お前ってやつはやれ仕事をしろ片づけをしろすぐにここから出て行けと」
ああ、彼女はアルベルトに私がつらく当たるとでも言ったのだろう。
ディアナの頭にはカレンのあざとい姿が透けて見えた。
それにそんなカレンにいいように扱われているアルベルトにも腹が立った。
ディアナはついかっとなる。
「カレンに何を言われたか知らないけど私は彼女のためを思っているから厳しくしてるだけよ。そんなことよりあの子と何かあるの?いつも彼女を庇うけど?」
「おい、ディアナ。お前は俺を疑うのか?彼女と何もあるわけがないだろう!彼女は悩んで俺に話しをしただけだ。大体お前が彼女に意地悪を言うから彼女は悩んで‥それをお前は浅ましい嫉妬にすり替える気か?」
「あなたはそんな風に思うの?もういいわ。安心して私はもう彼女の世話はしないから。私はもう関わらないから好きにやればいいのよ!」
「ったく。何でそうなるんだ?いい加減にしろよ。おい、ディアナ。待てよ」
ディアナは持っていたティアラの箱をぎゅっと握りしめ部屋から出て行った。




