岸シェロはん…は動かない⑤
「坊や。わたしが名乗ったら、きみは混乱するのかもしれない。
だけど、わたしも勇気を出そうとおもう。
わたしの名は、「秘伝カムイ」といいます」
「な、何だとっ!?」
魔剣の勇者かも知れないと疑っていたおまわりの口から、あのカムイくんの名が聞けるとは夢にも思わなかった。
そいつの言葉通り、俺は震えが来るほど頭が混乱しかけた。
俺はショックで思わずこぼしてしまう。
「きみは、あのカムイくんなのか……?」と。
このタイミングで出会うのかよ。
するとそいつの呼吸が乱れて、俺に吸い付くように急接近してきた。
いまにも抱きしめられても不思議ではない近距離で肩口にそっと手を添えられたのを感じ取った。
「やっぱり、この名を知っているんだね?」
知っているんだね?
その様子だと俺の姿を見かけた時からシェロくんだと知っていた。
知り合いならもっとフレンドリーに言葉を掛けてくればいいものを。
「カムイくんとは少し前に会った」
俺の方は、そう答えるしかない。
二度目の転生前だから時間の経過がどうなったかは知らないから。
だがそうなるとかなりの時が流れたということか。
随分と成長した姿になったんだろうな。
おまわりをやってるというのだから。
この目が見えないのが悔しいよ。
「ほ、本当? それは良かったよ。それともうひとついいかな?」
そうなると少し前の出来事ではなくなるな。
彼にとってはかなり昔のはずだから。
「うんまあ、いいよ」
結局いまは俺が聞かれているけど。
目の前のおまわりが警戒すべき敵でないのなら。
話しをしたいのは俺もおなじだから。
「さっきの聞き返しの意味になるけど、わたしが思うにきみはシェロだよね?」
「……っ!」やっぱりカムイくんはこの子を知っていたのか。
他人の空似じゃなかったの?
「その姿はシェロのものだからね! それに今、目が見えないでしょ」
「あ……それもわかっているのか」
「うん、シェロに出会ったころはそんな病気なんかなかったじゃない」
「出会った? 双子とかじゃないの?」
もともと盲目ではないのなら、何かの事故か。
俺は直接会って話していないからな……シェロくんとは。
「双子ってなんで? きみはこんなに小さくて、わたしは警官で大人なんだよ?」
「へ……?」
ちょっとそこ。
どういう状況なのだ?
俺が職質を掛けたカムイくんは少年であり、この姿にそっくりのはずだ。
その記憶がないのか……それってまさか。
「こっちも訊くけど、カムイくんとシェロくんは同年だったりする?」
「シェロがひとつ上だよ。シェロ……僕だよ。カムイだよ、忘れてしまったの?」
「いやその……」
たぶん、忘れてしまったのはカムイくんの方だと思う。
このカムイくんは、俺が体験したのとおなじ状況に立たされているのかも。
自分の姿が警察官で。
中身が先程までとは打って変わり、少年のような口振りになった。
カムイくんが転生を経験して、おまわりに成りすこし歳をとっている。
そしていくつかの記憶が飛んでいる。
そう考えれば混乱はいくらか避けられる。
「さっきから僕のこと、くん付けで呼んでるけど、自分のこともそう呼ぶのはどうしてなの?」
「だって俺は、シェロくんじゃない……からだよ」
やっと気づいてくれた。
こんな所に突っ立って問答してても仕方がない。
カムイくんを味方にできれば、本当のシェロくんを守れるはずだ。
「シェロじゃないって!? まだ警戒してるの?怖がらなくていいよ、シェロ」
もしも魔剣の勇者ならシェロの姿でバレているだろうし。
信頼してもいいかと思うのだ。
自分が誰かまでは、忘れたりしないから。
目の前の彼はカムイくんで間違いないだろう。
言葉足らずで説明不足がすぎて自分でも萎えてしまった。
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