転生したら「交番のおまわり」だった件⑨
ラビから折り返し連絡を貰ったのはすぐだった。
確認を取るだけだが仕事が早いではないか。
交番内の地図で住所を確認して只今現場へ急行している所だ。
現場とは、行方知れずの少年シェロの父親の住む家のことだ。
地図で確認した場所は繁華街の近くに位置する小さな市民公園が目印。
「えっと……公園の中道を通り、北側に抜けた大通り沿いだったな」
公園に出るまで行ったり来たりさせられていた。
話に聞く裏路地が迷路のように入り組んでいて苦戦する。
地図を頭に入れて実際迷子になっていたらシャレにならない。
そう思い、スマホを持って来たかったのだが俺の手元にはない。
スマホは自宅と交番の移動時に消えてしまったから。
こちらのエリアは管轄外。
管轄外じゃなくても俺は来たこともないけど。
ラビからの最初の電話を切ったのが17時前。
折り返し掛かって来た電話を切ったのが10分後になる。
それから現場へ急行しようとして公園前の裏路地で迷走中。
腕時計の針は、17時30分を回った。
18時までには家を訪ねていかなければ夜分になってしまう。
暑さのせいか額から汗が滴り落ちる。
手の甲で拭っても拭っても追いつかないぐらい。
本当に迷路みたいにおなじ景色ばかりを見ている様な。
「あぁ……やけに喉が渇くなぁ」
俺はいつの間にか喉の渇きを癒したくて自販機を探してうろつく。
暫くして見つけたのだが、おあつらえ向きの自販機軍。
十台以上は立ち並んだ一角だ。
助かった、と思うも束の間。
「こ、これは…………なんだよ?」
自販機が結構な台数立ち並んでいる一角、どれもこれもアルコールばかり。
「水はないのか? お茶でも炭酸でもいい」
何か喉ごしのスッキリするものをくれ。
周辺を見渡すと仕事帰りの若者のうろつく姿を目にする。
会社帰りのサラリーマンはまだいい。
こんな場所を学生が通学路に選ぶのか?
俺はいま制服を着た警官である。
その存在を気にしてか、自販機に手を伸ばす未成年者はいなかった。
だけど夜の帳が下りる頃にはきっとたまり場になるのでは。
一人、二人と座り込むのを目に止める。
まるで浮浪者の吹き溜まりのような──
しかしいま俺は勤務中だ。
水分は諦めるしかないか。
自販機の窓越しに目を凝らし、渡り歩くように。
最後の一台までことごとく外れじゃないか。
この先には市民の憩いの場である公園があるはずだろ。
なぜ酒類しか置かないんだよ。
おかしな街だ。
夏だから何かのお祭りの準備でもしているってのか?
そんなこと今はどっちでもいい。
どの道をたどれば公園に行き着くんだよ。
そう思いながら最後の自販機の前でうなだれていると。
「お巡りさん、もしかして持ち合わせがないのですか?」
若者の声だった。
声に振り返るとそこに居たのは学生ではなく児童。
みっともない背中を見られたか。
焦りながらも説明する。
「いやお金じゃなくて。この暑さでしょ……お水を頂きたいなと思いましてね」
「なーんだ…」
小学生の低学年ぐらいの男の子だった。
どこかで出逢ったようで全く見覚えのない人物だ。
辺りの住民だろうか。
ついでだ、公園までの道を尋ねてみよう。
「坊や、すまないけど道を尋ねてもいいかな? 近くの公園に抜ける道……」
「クスッ! クスクス!」
わ、笑っているのか。
「あ、ごめんなさい。お巡りさんに道を尋ねられるとは思わなくて」
「ごめん坊や。向こうの繁華街エリアから来て、周辺に詳しくなくてね。近くにあるという公園に足を運んで来たのだけど、迷ちゃってね」
この現状だ。笑われても致し方がない。
まったく面目ないです。
照れ笑いをして場を和ませたりして。
「そうだったんですね。迷子のお巡りさん!」
「参ったなぁ。カッコ悪いよね、絶対……」
「そんなことないですよ。良ければ道案内しますよ!」
「よろしくお願いします!」
浅くお辞儀をした。
迷子の子供の捜索に来た警官が逆に迷子になって子供に道を尋ねる始末。
しかし彼は俺の背後の自販機を見て、一言加えた。
「そこ、どいてください。僕も水を買いたいので……」
「えっ? 坊や、ここには水は置いてないみたいだよ?」
「お巡りさん、やっぱりよその人だなぁ」
ニコッと笑って。
彼は、俺が水分を断念した自販機にコインを投入しようとした。
いやそれは流石に見逃せないだろ。
「お家のお使いですか? お酒しかないから一応聞かせて下さい」
「お酒ではなく、お水を買うのです!」
「水……?」
え、どういうこと?
子供の背で手が届かない所のボタンを押そうと彼はつま先立ちをしている。
「あ、すみません。この上のボタンを押してください」
「この酒カップでいいの?」
「ありがとうございます」
コイン投入後、商品のボタンプッシュを手伝ってあげた。
すると、
ピピピピピ──ッッ!!
電子音がルーレットを回した様に勢いよく鳴り、段々速度を落とした。
「あ、これは! もう一本当たるやつじゃないか」
「そーなのです。でも僕、運がものすごく悪いからいつも外れるんです」
「いや坊や、こんなの確率だから運の悪さなんか関係ないと思うよ」
ピピピッ!
『ザンネンデシター!マタドウゾ!』
ガラッガッコーン!!
「あら外れちゃったね。結局、注文したお酒が出てきたのかな」
彼は取り出し口に手を入れると涼しい顔をして「これこれ」という。
「残念賞のミネラルウォーターです。ハズレはお水なんですよ」
「なる。選んだ瓶の酒カップは出てこないんだ。俺もやって見るか……」
「良かったお水で。お酒だったら流すしかないし」
「え、もったいなくない?」
少年は首を横に振る。
「お酒はね、死に水にありつけなくなるの」
「死に水とは縁起が良くないね。なんのこと?」
「死後も喉の渇きに苦しむと言い伝えがいつの間にかできちゃって。ここ……」
「ここ」といい、自販機の立ち並ぶ周囲を指差した。
言い伝えって随分近年の話だよね、と訊くと「昭和時代からずっとだよ」と。
なにその気味の悪い意味不明な伝承は。
「その、いま押してもらった上の段のボタンでだけ出来るんですよ!地元では隠しコマンドって呼ばれています。縁起の悪い言い伝えのせいで設置されたの」
そりゃ、地元住民しか分からんわ。
地方の都市伝説というやつだな。
彼が満面の笑みで「はいこれ」といって、ハズレで出た水を手渡してきた。
「えっ? これ、お巡りさんにくれるの? それじゃ代金を……」
「ごめん……ぼく急いでるので。公園の道こっちです。着いてきてください」
少年は向こうを指さしながら駆け出した。
公園へ繋がる道を示してくれるのだな。
俺も急いで後を追わなければ。
「待って坊や。お家の人にはちゃんと説明するのでお代も受け取ってね!」
そう声を掛けるのだが。
親切な少年は時折振り返ると満面の笑顔を浮かべ楽し気に「こっちだよ」と。
スキップをしながらまた駆け出すのだ。
せめて帰りが遅くなった理由を家人に補足してあげねば申し訳がない。




