転生したら「交番のおまわり」だった件⑦
俺の初の職質体験の時間は短かった。
少年の名は秘伝カムイといった。
着用していた服装の種類と色までそっくりだった。
だが確認を取って同一人物ではないと知った。
ただ俺は先程の警官が接していた少年の名は知らないわけだ。
道玄坂商店街の中央十字路付近での少年への職質をこの日していたのは、あの警官ひとりだけである。
8月10日(土)午前11時45分~12時15分頃。
問答が長かったのを覚えている。
商店街の外まで警官が見送るのだろうと思い、結局声を掛けなかった。
二人で俺がやって来た方向へと仲良く消えて行った。
俺は安心して奥の商店街へ突き進んだ。
5分もしないうちに、カムイ君に出会ったのだ。
思わずあの警官はどうしたのかと尋ねそうになったぐらいだ。
パトロールなのでもう少し回りたいところだが昼食もあるからこのまま交番へ戻ることにした。
交番勤務なので休憩時間などは交代で奥へ引っ込む。
戻って来たのは12時30分過ぎだった。
「戻ったか、ここは任せて奥で飯を食って来い」
「はい、そうさせて頂きます」
先輩の言葉に甘えて俺は昼食のため奥に行った。
小さな流し台の前にテーブル席があった。
出前を頼んでくれたようで岡持が置いてあった。
開けて見るとカツ丼とラーメンのセットが入っていた。
「岸は食べ盛りだろ、あとはお前の分だから残さず平らげろよ!」
先輩の激励がありがたい。
わあ、しかも俺の好物だし。
「頂きます!」
お座敷になった畳の上に上がり、あぐらをかいて食事を済ませた。
腹がいっぱいになったので畳の上にそのまま寝転んだ。
再び目を開けると随分と時間が経過しているのに気づいた。
うっかりと睡眠をとってしまっていた様だ。
がっつりと寝込むつもりなどなかったのに。
でも先輩の怒鳴り声が聞こえたわけでもなかった。
なんとも不思議な気分だった。
時計を見ると夕方だった。
16時30分頃になる。
あと30分で定時?
俺、遅刻してんだよな。
夜勤をすこし手伝えとかあったりするのか。
いや企業じゃないから確か、非番とかなんとかハードなシフトだった気がする。
そんなことより職務怠慢の理由を先輩に申し開かなくては。
急いで表の勤務席に飛び出て見たが誰もいなかった。
交番がもぬけの殻だった。
交番不在は日常にあることだが。
きっと俺が飯を喰らった後、先輩は急用により出動することになったんだ。
留守番を頼むと俺に声を掛けて行ったにちがいない。
きっと俺はすでに眠りに落ちていた。
その声を拾うことも出来ぬほど深い眠りに支配されていたのだ。
誰かに聞きたい。
聞かなければ不安でたまらない。
これは本当に現実の出来事かと。
俺は一体どうなったのだ。
自宅の部屋から一瞬で交番に移動した現象もそうだが。
浪人生だった十七歳の俺は魔が差して酒におぼれた。
勇者という職業が現実世界に存在し、それを目指して生きていた。
なのにここでは、ゲームの世界の主人公みたいなもの。
ただの創作物という認識でしかないのだ。
どちらかが夢なのか。
どちらが現実であって欲しいのだ。
俺は過去が現実であって欲しかった。
しかしあちらでは過ちを犯してしまい逃走劇に至り、現行犯処刑に遭った。
その傷が嘘のように消えているのが現在の状況だ。
誰か教えてくれ。
致命傷では無かったのか。
深手を負った俺を誰かが介抱してこの年齢まで何も問わず面倒を見てくれていた者がいるのか。
先程までここに居た先輩警官がそうなのだろうか。
もう一人、いまの俺を知る人物が居たな。
ラビという同僚の警官。
声だけは電話で聴けたあの人だ。
「……」
不意に目の前の電話が鳴った。
『プルルルル……プルルルル……』
何か事件の通報だったらどうしよう。
一人で心細さを胸に抱いていた時に交番の電話の呼び出し音が鳴り、俺の心臓に突き刺さる。
ズキッと胸に痛みを覚えた。
物思いにふける自分の目を覚まさせようとするかのように呼び出し音が鳴り響いた。




