転生したら「交番のおまわり」だった件⑥
俺も暑さでやられたのだろうか。
いや水分ならさっき茶屋で充分取っただろ。
なぜ幻覚を見たりするのだ。
それとも他人の空似というやつか。
俺の前方から歩いて来る一人の少年が目に入ったのだが。
年の頃は10歳。
小学生の男児。
それはどこにでもある一般的に良く見られる風景であろう。
ところがだ、その子の背格好といい顔といい容姿がそっくりなのだ。
さっき茶屋を利用してまで観察していたあの警官と居た少年に瓜二つなのだ。
双子だったりするのか。
別行動を取って同じ場所に存在するなら、その線が濃いのだが。
さっきの少年か、双子か、他人の空似か。
先ほどの少年は、先程の警官と同じ方向へ歩いて行くのを見届けている。
その方向は俺が今向かっている方向とは真逆なのだ。
だから双子か、他人の空似しかないのだ。
先ほどの警官も少年に職質を掛けたことだし、俺も目の前の子で経験させて頂くとしますか。
そうと決まれば早速声掛けと行こう。
「やあ、そこの坊や! お巡りさんです。少しお話してもらえますか?」
少年は俺に気づくとすぐさま返事を返して来た。
「こんにちは! お巡りさん。なにか御用ですか?」
「坊や、お一人ですか? 保護者の方はご一緒じゃないの?」
「分身の心得はありません。えっと親ですか。歩くだけなのに必要ありますか?」
「いえ。それじゃ、お名前と年齢を教えてくれますか?」
「ボクの名前は秘伝カムイです。10歳になります」
「お、職質スルー系ではないみたい……」
「えっ? なんですかそれ?」
おっといけない!
意識下に置き過ぎていたから、つい口走ってしまった。
こちらのことだと失言を軽く詫びた。
「まだ10歳なのにこんな繁華街を一人で出歩いちゃダメじゃないか」
「ダメなんですか? その法律は第何条ですか?」
法律の何条とかよく知らないけど。
「あのね坊や、未成年による繫華街やゲームセンターへの出入りは禁じられているんだよ。これは全国的にですからね」
「へぇー、そうなんですね! 勉強になります」
多分な。
「お巡りさん、ボクを補導しますか?」
「え、いや。知って置いてもらえればいいのです。確認のため聞くのです。坊やのお家は近くですか? 迷子で困っているなら相談に乗りますよ」
「お巡りさん、これ何本に見えますか?」
なんだ?
突然、少年がVサインを手の指でつくって見せて来た。
Vサイン……はて、どこかで見たような気が。
「二本ですね。なぜそんなことを聞くのですか?」
「目が相当お悪いのかなって、思ったからです」
視力は問題ないと答えると「おかしいですね?」といった。
「なにがおかしいのですか?」
「お巡りさん、ボクのほかに坊やは何人いるのですか?」
は?
「お巡りさんが話しているのは、君ひとりじゃないか」
「じゃあ、その坊やって誰ですか? ボク、名前言いましたよ。呼ばないのなら聞かないで欲しいです。個人情報ですよ、周囲に知らない人が沢山いるのに」
こらまたポンポンとよく舌の回る少年だな。
「それもそうですね、申し訳ありません。ではカムイ君にもう一つだけお尋ねしますが……双子の兄弟がおられたりしますか?」
「いませんけど……ボク一人っ子だから。双子ってなんで聞くんですか?」
「いやさっき、そこでね。別のお巡りさんが質問をした子供がきみに瓜二つでね」
なぜ聞くのかを繰り返されては困るから答えてしまった。
「お巡りさん、そーいうの他人の空似って言うんですよね?」
「はい、そうですね。勉強になります」
と言って、苦笑いをした。
「お巡りさん、職質スルーなんて隠さなくてもいいですよ。お巡りさんをいじめる悪い人たちのことでしょ?」
「おや、カムイ君は詳しいんだね?」
なんで一旦、知らないふりをしたんだよ。
可愛さ激減なんだけど。
「ボク、WEB上で小説書いているんです。わりと世間のこと知ってるつもりです」
「へえっ! それじゃ、勇者の話とかは好きですか?」
「なんですか、それ? ボクは推理小説しか興味ないので知りませんけど」
「え、勇者だよ? 知らないの? 魔物を討伐するために剣や魔法を使って強く成る正義の味方の勇者だよ?」
なんで勇者を知らない子供がこの世に存在するんだ。
勇者になるためにみんな勉学に励むんじゃないか。
勇者は権力者よりも強いんだ。
物書きが良くないとは言わないけど。
「お巡りさん、物覚え良くないでしょ?」
「な、なんでそんなこと聞くんですか?」
「たったいま、ボク知らないって、きっぱりと言いましたよ。聞き直すのやめて欲しいな」
「いやごめんね。再確認も仕事のうちでしてね。ご協力ください」
「もう、そういうの職業病って言うんですよ。お巡りさん」
「いやぁ、あはははは。面白いこと言うね坊や!」
「名前言いましたよね? 坊やはやめてくださいってば!」
「いやあ、ごめんごめん。何と言っても職業病のお巡りさんだからね!」
ショタのくせに俺を試すようなことをするからだ。
思いつつ苦笑い。
「お巡りさん、どうして勇者にならなかったんですか? 警察組織の上にあがれるクラスですよ。権力者にさえ唯一屈しない能力を持てる存在なのに?」
なに!?
いま何と言ったんだ。
「やっぱり勇者を知っているんじゃないか! ウソをついたのかい?」
「ウソではないですよ。勇者はリアル職業で強く成れ過ぎるから、小説界ではジャンルとしてはNGなんですよ。だから作家は知らないってとぼけないと逆に無知って認識にされるんです。ご理解ください」
「ええっ! そうなの?」
「はい、偽りはございません」
マジか。
WEB小説のジャンルに無いんだ、勇者ものファンタジー。
そういや小説なんか見たことがなかったな。
物書きさんは勇者の存在を知らない振りをするのが常識なのか。
カムイ君とはここでお別れとなった。




