転生したら「交番のおまわり」だった件⑤
警官が何やら職質をしだしたようだ。
しばらく話を聞いていた少年はなぜだか右手でブイサインを作って見せた。
もしかして質問をし返したのかな。
警官は頭の後ろを手で掻くように苦笑いをしている。
何をやり取りしているのかは分からないが、少年がプイッと向きを変えた。
どうやら警官にバイバイをして帰ろうとしたらしい。
だが警官は話の途中だったのだろうな、少年の前方に回り込み彼の足を止める。
「まさか……これって?」
あんな少年が【職質スルー勇者!】をやっているのか?
もしそうだとすれば、厄介な世の中になったものだな。
子供の口答えほど忌々しいものはないぞ。
ただの年上だったらいつまでも優しく接してくれない場合がある。
つい、カッとなって高圧的に成りパワハラに発展するケースもある。
警察官がそんなにメンタルが弱くては職務を全うできない。
長丁場になれば警官はさぞ疲れることだろう。
ここはお手並み拝見といこうではないか。
俺の方も制服だし、突っ立っているわけにもいかない。
すぐ傍に茶屋がある。
店の前に長椅子が設置されていたので冷たい抹茶を一杯注文して、そこに座らせて頂く。
交番から持って来た冷水もあるが同じ場所にとどまりたいので店を利用する。
そこから二人の行動を静かに見守っていると、突然少年がお辞儀をした。
「なんだかお礼を言っているようにも見えるな……」
警官はそれを不思議がっている。
そこから再び問答が始まっていく。
これは少年が警官に質問をぶつけて警官が説明をさせられている様に感じる。
まあ相手は子供だからな。
お手柔らかに応対されているのだろう。
「あ……」
少年の声がここまで聞こえるぐらい大きく発せられた。
周囲の人々が振り返るほどに。
逆ギレか?
警官頑張れ!
お、なんか警官が腕時計を確認した。
どうやら時間を聞かれたようだな。
忙しさを訴えられたのかな。少年も中々やるねえ。
だが──。
警官の職質に噛み付く児童、なんて見出しのニュースは見たくないぞ。
それから二人の問答が加速度を増しどんどんヒーットアップしていく様だ。
こりゃ厄介そうなのに絡まれたもんだ。
警官の身振り手振りも増えている。
あれだけ言い合うところを見ると、相当、口の達者な少年のようだな。
「おや?」
警官の口が止まり、少年だけが声を出している状況だ。
少年の方に随分と言いたいことが溜っていたようでそれを全て聞き入れようというのか。じっくりと耳を傾けてやるという大人の対応に出たのだな。
それでこそ交番の巡査である。
どこまでも市民の声に寄り添うのが正義だ。
誰にでもできることではない。
少年の身振り手振りも大げさに必死に何かを抗議しているかのようだ。
ひとしきり言い終えたのか、警官が微笑みかけながら問いかけている。
だけどあの警官はなぜ少年の背丈を考えて屈んでやらないのか。
ずっと直立した姿勢で会話をしているのだ。
少年もはじめは視線を外していたが、聞いてもらえたからか警官の顔に視線を移して見上げているが首が疲れてはいまいか。
アーケードの中とはいえ、真夏だぜ。
水分補給をしっかりさせてやれ。
少年の言い分が長くて内心で腹を立てたりしていないよな、あの警官。
「うん? どうしたんだ……」
少年の話を真剣に聞いていた警官が一瞬顔を歪めた。
手の指先をおでこに当てようとしたような。
暑さのせいで脱水でも起こして頭痛をおこしたか。
ずっと二人の様子を見ていたがどちらも水分補給はしていなかった。
子供のほうが元気なのは分かるが俺としては負けて欲しくない。
そして今度は二人は互いを労わるようにお辞儀をし合っている。
話が終わりを迎えているのかな。
警官が少年に敬礼をした。
職質はスルーされなかったんだな。
だが警官が立ち去ろうとすると今度は逆に少年が呼び止めたようだ。
またしばらく話し込んでいくようだ。
手短に済ませたようだけど最後の方は何だか両人とも楽しそうにも見える。
少年の目はキラキラとしていた。
警官は得意げだったり。
まるで「趣味が合いますね!」って感じの雰囲気だ。
いいよなやっぱり警官は正義だ。
最後は市民に愛されるものなのだ。
俺も折角パトロールに来たので職質に挑戦して帰ろうかな。
俺は茶屋のおばちゃんに「ごちそうさま」と声を掛けて店を後にした。
少し商店街の奥へと進んでみた。




