転生したら「交番のおまわり」だった件①
「おい! そこの君っ! まだ学生だろ。歩みを止めなさい!!」
俺が成るはずだったのに。
この足を止めたからといってお前は俺の心を救えない。
夜道の狭い裏路地を必死に走っていた。
追っ手の声がその暗がりの中に響く。
俺は走り続けた。
パクられるのだけは絶対に嫌だ、そう思いながら。
どこをどのように彷徨ったかは良く分からなくなっていた。
アイツを振り切るのに必死だった。
いつの間にか裏路地を抜けたらしい。
大通りに行っては駄目だ。見つけた脇道に迷わず滑り込む。
細い脇道に進入してそこを抜けると小さな公園が目に入った。
身を潜める場所を探していた俺は無意識にそこへ飛びこんだ。
「な、なんだ……あの長い光の帯は?」
なんだか良く分からないが公園内の中央に長い光の帯が横たわっていた。
焦りで気が動転しているのか。
こんな夜の時間帯に地面が神秘的な光を放っている!?
「どこへ行った! 探せ、近くに潜んでいるはずだっ! 不正者を捕えよ!」
いけない!
通って来た脇道に追っ手の声がした。
どうせ捕まれば転落人生だ。
そう思ったら足が勝手に得体の知れない光景に向かってしまった。
「もう、どうにでもなれっ!!」
この日の夜空は晴れていたが、俺の心の中は土砂降りの雨だった。
「逃がすかっ! 神妙にしろ!」
すぐ背後で声がした。
同時にチャリっという金属音も聞こえた。
脇道の中から聞こえた声だ。そこからここまで一気に宙を飛んで来たのか。
気配でなのか嗅覚か、発見次第、ジャンプ力で飛来してきた。
俺の背後に静かに着地し、速攻で剣を振り下ろして来たのだろう。
流石だと褒めてやるよ。その躊躇なき非道な決断を。
だが俺は振り向くつもりなど無い。
このまま光の中へ突っ走って行くだけだ。
「どこへ行くのだ、もう行き止まりだ! 逃げるなら斬らねばならんっ!!」
いま、何と言ったんだ!?
振り向くつもりはなかったが、無意識に後ろを見た。
ヒュンッという風を斬る音が背後でしたとき直感で解っていた。
やはり、そうなんだろうな。
「がはっ……」
俺を学生だと判断しながら剣を抜きやがる。
現行犯処刑というやつだ。身をもって体験させてもらうとはな。
所詮あいつらは討伐隊だ。
俺が腐ったこの世を変えてやる……はずだったのに。
袈裟懸けの一太刀。
斬殺されただろう俺の身体は剣の圧力で光の中へ弾き飛ばされた。
◇
その日の俺は最悪だった。
高校受験に失敗したのは2度目。つまり二浪だ。
さすがに三度目は失敗できない。
三浪の高校生なんか友達できるはずもない。
だが受験をあきらめてしまったら憧れていた勇者になる夢は永遠にやって来ない。
親たちは高校さえ出てくれれば好きな職業に就いてもよいと言ってくれた。
それに中卒の勇者なんかに成れてもまともな稼ぎにはならない世の中だ。
学歴という階級社会がある世界ではいかに勇者が強かろうとも賞賛などされた歴史はない。
「ああっ……もう……生きてるのが……つらい」
そんな言葉を漏らしたってこの憂鬱な現状は何も変わらない。
もうなにをやっても上手く行かない。
生きづらい……苦しい。
だけど生きなくては、生きていなくては絶望さえも消え去ってしまう。
苦しみにあえぐ世の人を救う側に成りたかった。
自分の現状は誰かに救われる側だ。
「情けなんかいらんっ! 俺は……俺は……救済する側なのだ…」
意識が朦朧としていく。
落ちぶれた浮浪者が集まり漂うような裏路地をさまよっていた。
手には自販機で買った酒の瓶を握っていた。
ここでは誰も他人の事を見ない。誰も咎めはしない。
そういう輩たちが集まる場所だ。
手にしたアルコール度数の高い酒を何本飲み干したか覚えていない。
呑みなれないものを生まれて初めて口にした。
胸と胃が焼け付くように熱い。
頭の中がグルグルと回っている。
最初に手にした一本で一回、吐瀉物をまき散らした。
どうして酒しか並んでない自販機に近づいたんだ。
塾の帰りだったよな?
電車賃を突っ込んで見たくなった。
それさえ無くせば……。
ただ家に帰りたくなかっただけ……出来心だったのだ。
もしも今、ここに勇者がパトロールに来たらヤバイ。
もう何も取り返しがつかない。
学生および学生候補者の飲酒は年齢に関わりなく禁止されている。
学生時代の飲酒歴は勇者になるに当たり致命傷クラスの禁止事項。
「抜け出さねば……。一刻もはやく……ここから…」




