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ぼくは職質をパリイする⑩


 シェロ君に関してはわたしの用が済んだ。

 礼の言葉を告げて退散するか。


「それじゃ、お巡りさんはこれで失礼します。ご協力感謝します、ありがとう」


 敬礼とともに笑顔でさよなら。

 よし、これでわたしの任務がひとつ片付いた。

 そう思えたのも束の間だった。


「お巡りさん! あなたの用件が済んだみたいですけど。ぼくの話をもう少し聞いてもらえませんか? 事件とかで忙しければ、その辺を歩いている知らないおじさんにお尋ねしますから別にいいですけど」


 少年から離れようとした。

 その瞬間、呼び止められてしまった。


 は?

 なにその聞き捨てならない呼び止め方は。

 職質スルーではないことも分かったし、少しだけなら聞いてあげてもいいけど。

 つまらない空想にこれ以上付き合わされるのは勘弁してほしいものだ。

 

 そうだ、あの砂場のような不思議な話でないなら聞くことにする、という条件を出すことにしよう。


「──その条件でいいならお聞きしますよ?」

「もちろんそんな話もうしません。お巡りさんの管轄外だもん」


 そういや管轄を理解していたな。

 夕刻にならぬうちに帰ることも約束してもらおう。


「あと少しだけだよ、お話できる時間」

「はい。ありがとうございます!」

「それで聞きたいことは何ですか?」

「お巡りさん、勇者には会ったことあるのですか?」

「へっ……?」


 あるわけないのだけど、ゲームも知らなくてテレビもない家庭だ。

 まあ手短に物語の登場人物であることを説明するしかないわな。


「街にいるひとですか? 友達や家族にいらっしゃいますか?」

「いや坊や、それがですね……」

「お巡りさん、ぼく名前言いましたよね?」

「ああ、ごめんなさい。シェロ君に是非ともひとつ聞いてもらいたいのですが、ゲームの勇者はいません。実在しないのです。ゲームというのは娯楽で遊びの道具なのです」

「えっ。それって作者がいる描かれた世界の人物ですか」


 お、それは理解が早くて助かります。

 わたしは首を縦に振る。


「だからか……まじめに働くひとをもてあそぶ行為に使われるんだ」

「そうなんです。分かってもらえて何よりです」

「それじゃもう少しだけ。勇者はどうしてヒーローになるのですか? なにをしている方ですか」


 そこ気になるよね。

 話しておくか。

 知らない男に聞きに行かせたら、きっとそこでも話が長くなる少年だ。

 それで帰りが遅くなっては危険だからな。


「ゲームの中では、国に現れた悪い魔物を国の人に変わって退治していくのです。最後に魔王を倒して国に平和を取り戻す。そんな人です」

「その国のひとたちは魔物に勝てないんですね?」

「弱い魔物は退治できるけどね」

「勇者はひとりで全部引き受けちゃうんですか?」

「いいえ、仲間がいるんです。仲間と組むことをパーティーと呼びます。仲間には力自慢の戦士や炎や風を操る魔法使いと傷の手当てをしてくれる僧侶がいたりします」

「うわぁ。仲間が頼もしいですね。勇者は何が得意なのですか?」


 グイグイ来るね。

 いっそのことゲームを買ってもらってプレイすればいいのに。


「勇者は仲間ができることは大抵できるのです。勇者が一番強いわけです」

「そんなに強いひとたちがいれば、その国はすぐ平和になりますね」

「あはは。そうも行かないんです。勇者達にはレベルがあって弱い魔物から退治して経験を積んでだんだんと強くなるのです。レベルアップのための修行の旅がある。そこがゲームの面白いところです」


 シェロ君が目をキラキラに輝かせて聞き入っています。

 ゲームを初めて手に取った頃を思い出すなあ。

 現実の世にそのような勇者は存在しない。

 地域の治安のために働ける仕事が警官だった。

 ゲームの勇者に憧れた少年は交番勤務のお巡りさんになった。

 そんな物語は世間でのウケが良くないからほとんど聞きませんけど。


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