第95話 いざ、出陣!
俺は驚いた。
まさか、さっきまで一緒にいた翡翠さんが、俺のように、他の従業員に拉致をされるとは思わなかったからだ。
(ペーペーだって、きちんと言ったのかな?? 翡翠さんっ)
ざわざわと胸騒ぎを起こしながら、俺は横におじさんに聞こうとしたら、聞く必要もなくおじさんが小さく、素っ気なく言ったからだ。
「箱入り息子が行っちゃったのかー」
「え゛」
「ん? あァー兄さんは実戦経験がねぇのよ。体質異常者だから勤務不可の烙印を押されちまってたからな。それから、どんな仕事してたんかは、知んねぇけどよー」
本当におじさんと、家族は疎遠だったようだ。
あまりに重く、長かった20年という年季の入った引きニート生活は、それぞれの事情も、状況も分からない、まさに、翡翠さんとは意味が異なった、箱入り息子状態だったようだ。
「倉庫に入ってないんだったら――」
「……もう。入って時間が経過の針を刻んでいる!」
頭を掻きむしりながら、兆時さんが言う。
(翡翠さんっっっっ‼)
◇
『とりあえず。メンバーをどうにかして出勤だっ! 今月はΔチャンスがあっし、P倍増月間なだけに、出勤もしてぇしぃ~~っ!』
頭を抱え込んでしまう都築に、翡翠も顎に手を置き。
あっけらかんと言う。
『じゃあ。オイ――……ボクの知り合いでも、呼ぼぅかぁ』
◆
ガッコン!
【60:00:00】
ガッシャアァアンンンッッッッッ‼
【59:57:41】
倉庫の扉が締められ、従業員達はそれぞれの《変態》を纏った。
◇
『あ。いたいたぁ』
倉庫の前には、翡翠が呼び出した従業員達が、立っていた。
その中の一人は、無花果紫陽花だった。
『あ! 早乙女さんっっっっ‼』
腕を振る彼に、翡翠も軽く手を振っていたら。勢いよく、正面から、抱きかかえられてしまった。その行為に及んだ彼も、翡翠が頭数で仕方なく呼んだ、数少ない友人であり群青の親戚でもある。
蛇苺紅玉。翡翠の5歳下の39歳だ。
『あァ゛♡♡♡ お兄さんン゛んン゛♡♡♡』
『!? あのぅ、ボクは君なんかより一回り年下なんだけどぉ??』
顔は鼻下に髭のあった翡翠にそっくりで、違うのは目元と、天然パーマであることぐらいで、身長も変わらない。
(…本当に手伝ったら、家に遊びに来てくれるんだね?)
蛇苺が耳元で翡翠に聞いたのに対して、
(オイラが嘘を吐いたことがあんのかよぉ? なぁ、ルビーちゃん♪ だから、オイラの演技に付き合うよなぁ?)
翡翠も、背中を優しく叩いた。
『でぇ、もう1人連れて来てくれるって話しだ――』
翡翠の言葉が終わらないうちに、かぶせるように言う人間がいた。
『親父。その人に呼び出されたってのは、分かっけどさぁ~~俺、念願の部署に配属されたからさぁ? 戻ってもいいかぁ?』
『それは上に話しをつけているよ。だから、安心してこっちに専念しなさい』
『っかぁ~~っ!』
翡翠と紅玉と同じ形の眉毛。そのあとは――翡翠と、そっくりだった。
早乙女ミドリになっているときの目に、群青翡翠と同じ髪質なのは、明らかに見ても分かる。どこをどう見ても、自身と瓜二つであって。
『え? 何? 何?? お前の兄弟で、弟さん? 兄さんのどっちだよ????』
『マサル殿。この者は全く似てはおらぬよ……むしろ。この者は』
低い口調で伊井が喉を鳴らしたことに、
『おやおや? おやおやぁん? 分かっちゃうの? 分かっちゃうのぉおう??』
紅玉も声を弾ませたのだが。
『うん。どうでもいいからぁ、行こっかぁ♪』
自己紹介も省いた翡翠が倉庫のボタンを押した。
◆
「本当に大丈夫なのか? 兄さんは……」
低く言う様子のおじさんの表情が硬いものに変わっていく。やっぱりというか、なんなのか分かんないけど、翡翠さんが単独で行ったことは、おじさんも心配するほどに。
まずいんだ。
「翡翠さんっ!」




