第96話 鼻先くじかれる事態からのリスタート
俺はずっと天井の掲示板を見ていると、おじさんが俺に声をかけてきた。のはいいんだけど、思いもしない言葉で、俺は唖然としてしまった。だって、そんな言葉をどうして言えるのかが。俺には理解が出来なかったんだ。
「まー行っちまったもんはどうにもなんねぇしー。くまちゃん、兆時さんが持ってきたカタログ見ようぜ」
ただ、表情は青ざめていて。内心はどういう心境なのか、俺には分からないし。おじさんだって本音を口に出して言うつもりもないんだろう。
(俺に心配させないように……だよな。やっぱり)
「兆時さーん! 部屋に戻ろうよーカタログ見せてよー♪」
依然と身体を硬直させてしまっている兆時さん。きっと兆時さんも、翡翠さんのことが心配で堪らないんだろうな。だって、微動だにしないんだからさ。
俺はどうしたらいいんだろうか。
教えてよ、魔法使い。
◆
――【ERROR……ERROR――……】
「『っはァ~~?! 何なの?? こんなのなったことないってのにィ~~』」
入って《変態》ってすぐに、倉庫に警告音が、けたたましく鳴り響いた。突然のことに都築も、声を荒げてしまうのだが、時間は刻々と流れていってしまう。
「『何事でござるかな? オペの女子に訊くとするでござる』」
冷静な対応をするのは伊井で、もちろん漢書が隊長資格を持った、従業員達の指導者である。
――【ERROR……ERROR――……】
「『あんのさぁ? 多分なんだけどぉ。機能してないと思うんだよねぇ、ボクぅ』」
「『ミドリの言う通りだ私も思うよぉ? 取りあえず、商品確保に集中しようじゃないかぁ』」
翡翠の言葉に紅玉が黒山羊の《変態》姿で頷いた。
それには巨大百足姿の伊井も、上半身を人に戻して、
「『お主は動じぬ性格故……いや、何でもござらんが。厄介事は止してくれでござる』」
そう紅玉に釘を打った。
「親父。このエラーの警告色の意味なら俺ァ、分かるよ」
人型のまんまの息子の翡翠が宙を指差し、それにはクワガタの《変態》をしている都築も聞いた。荒く鼻息を吐きながら顔の正面に飛んでいる。
「『っな、何なんだよ! 早く言えよっっっっ!』」
「『落ちつけって。あんたは~~ぇえっと~~……マサルちゃんだっけ?』」
狼狽える都築に、カマキリの《変態》である無花果が声をかけた。もちろん、彼も羽を動かしで飛んでいた。それから目を反らして、息子の翡翠が紅玉を見た。
「『翡翠、言ってごらん。父さんに。皆に』」
「……――この倉庫内の、どこかに《殉職者》が生息してる」
低くも、確信に近い口調の、息子の翡翠の言葉だったのだが、一方の翡翠はと言えば。あまり、どうでもよく、蚊帳の外にいることにした。加わりたくも、協力もしたくなんかないし。とっとと、商品確保に向かいたかったのだが。
(何を取りに行くのか聞かねぇとなぁ)
如何せん。自身の体質異常者である為に、単独で向かうのは出来ない訳だ。歯痒い思いでしかないし、この状況に苛立ちしかない。
彼の《変態》はLV.が1の為に、とても中途半端なものである。
「……どうして、そんな蛾になっちまったんです? ミドリさん」
目元と口許が開いていて、ピンクのもこもことした毛が、胸のところまで覆っていた。ただ、そこまでで下半身は人間の身体で、パンツは黒のビキニで中央には白い蝶の模様があった。
「『えぇ? 《蛾》じゃないよぉ? 《蝶》だもぉん♪』」
バサバサと羽根を動かす様子に、それぞれが顔を見合った。
【56:42:12】
時間は刻々と流れていく。
それを知るのは《従業員》である都築だけなのだが。全く機能をしておらず、役立たずとなっていたのだが、逆に伊井は優秀で勇ましくも声を荒げた。
「『皆の者! 臆してなかろうなっ! さぁ! 参るぞ‼』」




