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第93話 カタログと蟻島

 賑わう《武器専科アプリキット》内、中心部にある端末へと向かった。その後ろから、翡翠が腕を頭に回してついて行く。大きな身体を揺らしながらだ。


「坊ちゃんは久しぶ――……初めてでしたね」


「……坊ちゃんってぇw40過ぎのオジさんにい言わないよぉ、フツー」

「普通だと思いですか? ここが」


「……賑やかだって。蓮さんに言われたことがあったけど、本当ほぉんとぉうなんだねぇ」


 翡翠が、身体をゆっくりと一回転させて、しみじみと蟻島に言い漏らす様子に蟻島も自身の端末パッドを取り出し、配線をを繋げて立ち上げた。手早い行動と、慣れた手つきに翡翠も魅入っている。

 手法と、端末の液晶画面を視線が、高速で左右に揺れていた。


「遊園地みてぇだわ」


「そんな遊戯を楽しむ場所なんかじゃないですよ。坊ちゃん。ここは如何に、他の従業員よかいい道具アイテムを課金で装備して、一線を画するかを真剣に見極める――戦場なんですから」


「戦場ねぇ……ふぅん?」


 浮かれる翡翠を蟻島が遠まわしに叱るような口調だったから、翡翠も、それ以上は言わなかった。それでも、後ろにいる翡翠に蟻島が苦笑して指を奥の部屋を差した。


「ダウンロードに時間がかかるから坊ちゃんは、あの2人のところに行って下さいね」


「分かったよぉう」


 背中を向けた翡翠が奥に向かうのを確認をすると、持っていた端末から、アドレスを出し目当ての人物へと電話をした。向こうの相手は早くも出た。


 ――『アリちゃん。息子のことかい?』


「あ。竜之助か? ああ、話しが早いじゃねぇか」


 ――『アリちゃんなら。きっと掛けてくると思ったんだ』


「じゃあ。もっと早い話しだが。幾らまで出せるよ、竜之助? 今、カタログを選んでんだかな? ピンキリだかんな下手に売っちまったら手前が煩そうだからよ。訊いてから持って行こうと思ったのよ」


 電話の向こうの声が止まった。あっちは1人の息子にご執着で、きっと、彼に何かあればブチ切れて手に負えなくなるくらい、目に見えてしまう程、2人の友人関係が長い。

 そうなる前での相談だ。あと、収益にも結びつく大きな商談チャンスでもある以上、ことは慎重に進めなければならない。


 ――『Lv.1からでいい。特別なものを売る必要は無い、彼らが支払える金額程度のガラクタをぼったくって売ってもいいし。売れ残ったものを売りつけてもいいよ』


 素っ気ない言葉に肩透かしすることなく蟻島が、顎に手を置くと、口を大きく動かしてほくそくんで、竜之助の言葉に従うかのように端末からダウンロードをさせていく。


「ああ。成程ね? 強くさせたくないって訳なのな、お父さんってば心配症過ぎなんじゃないのか? 相手は40過ぎのおっさん連中じゃない。どうにも過保護だろうよ」


 あっという間にダウンロードも済んで、配線も取り外して竜之助からの返事を待ったのだが、中々と返事もないから、察してしまう。


「図星か。子離れした方がいいんじゃないかね? ……翡翠坊ちゃんに煙たがられたら、嫌じゃないか? お父さん的に」


 ――『……お願いがあるんだが、アリちゃん』


 少し強張った声が賑やかな中、はっきりと聞えた。


「何? 嫌な予感しかしないんだけど♪」


 ――『翡翠の動画を送ってくれないか。金はいい値を支払うから』


 少し、蟻島は眉間にしわを寄せたが、金になるという話しなら道徳なんかは糞喰らえで、2つ返事しかない訳だ。撮られてしまう翡翠には、ほんのちょっとの憐れみを感じてしまうが。

 それだけ、彼は翡翠に飢えていた。今の今まで我慢をしていたのだから、それを知っている以上は、無碍にもし辛いのだ。


 それだけ愛情が深く、逆に傍にも近寄れない、可哀想な竜之助。


「気色悪いったらねぇな。お父さんの歪んだ愛情は。じゃあ、行くな。いつまでも待たせてもおけないかんな」


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