第91話 群青の親馬鹿 竜之助
それはようやく落ち着けた時間であって。
堪らなく優しい時間だった。
◆
「昼は食べたのか? 翡翠」
おじさんのお父さんが立ったままで腕を組んで、辺りを見渡した。
引っ越したままの状態に、眉間にはしわが寄ったままだ。
「食べてねぇよ」
「食材は…あるのか?」
「あるよぉ。手前が作っても食べないかんねぇ」
「あ。段ボール箱開けてないから、フライパンも何もないんです! すいません!」
俺の身体はおじさんの膝の上に固定されていた。
べたべた、とされるのは悪くないんだけど。
「乙女さん! そんなのより僕と仕事の話しでもしましょう! 乙女さ――……竜二さんにはブランクがあるんですから!」
おじさんの横にはべったりと貼りつく牌さん。
いい加減、帰ってくんないかな。本当に、わりとマジで。
「牌君。君はまず、履歴書と源泉徴収を提出してくれ」
「! っはい! 家に帰って送信させて頂きます。義父さんっ!」
牌さんが、おじさんのお父さんの言葉に立ち上がった。
そして、何を思ったのかまた座り直したかと思えば。
おじさんの頬にキスをして部屋から出て行った。
「……あの。何かよく分かんないことになってない? おじさん」
俺はおじさんの太ももから起き上がった。
流石に、いつまでもこれじゃあ男だし。
「あーもー聞かないでーくまちゃん……」
机の上にコップを4っつと麦茶が置かれた。
置いたのは頼れる長男の翡翠さんだ。
「麦茶ぁー? オレはコーヒーがいぃなー」
そんな長男の優しさを次男の末っ子のおじさんが残酷に言う。
「翡翠! そんな馬鹿の言うことなんか聞く必よ――」
「はいはい。コーヒーねぇ」
頭を掻きながら冷蔵庫に行こうとしたんだけど。
それをおじさんのお父さんが手で止めて、お父さんが冷蔵庫へと向かった。
「お、おじさんンん?? いっつも、こんな感じなの?? 家族間でっ」
「ん? こうして会うのなんざ、20年ぶりだけどな♪」
「よっこいっしょっと! そぅそぅ、20年ぶりの再会だもんねぇ。ま、オイラもこうして父ちゃんに会うのも……いつぶりだっけ?」
「竜馬の小学校卒業した年の正月ぶりだ!」
コーヒーを4っつ抱えて、おじさんと俺に投げつけ、翡翠さんに手渡しをした。
震えるおじさんのお父さんの言葉にも、
「会う必要もねぇし。孫にお年玉でもやっとけよ」
翡翠さんは冷淡にも、吐き捨てた。
「コーヒーあんがと」
そしてプルを開けておじさんのお父さんに聞く。
「あ。そういや、今日の《模擬体験》て何時からだっけぇ?」
「!? っちょ! 兄さん?? お前、事故に合ったじゃねぇかよっ! 今日は休養だろうが、流石に!」
それは俺も思った、だって仮病だし。
一刻も、早く練習がしたいんだ。
「なら、まずは食事をしょう。翡翠の好きなシチューにしょう」
「! っまじっでぇ~~♡ うっひゃ~~♡♡♡」




