第90話 おかえりと、ただいまと
「何で俺だけ、こん中で待機なのかな~~」
俺のそんな愚痴にトトナも、
「『いや。まぁ、主にはまだ……早いというか。黙って待っていればいいだろうさ』」
そう一緒にアパートを見ながら、俺に言う。
だけど、もういいんじゃないのかな。出て来ないのは、俺の存在を忘れてアットホームな感じになっちゃってんじゃないのかな。部屋の中で、ワイワイギャーギャーって賑やかに。
「行く! もう我慢の限っっっっ界ッ!」
ギュぃイイイインンンッッッッッ‼
いきり立った俺の耳に、訊き慣れた運転捌きの音は。
「――あ。キリちゃんさんが来た」
「『? 誰じゃ、そいつは。たくま』」
「ほら! 拉致されて俺を罵ったポニテの男!」
「『‼ 噛みついても構わないか??』」
「逆に噛みつかれて、強制退場になっちまうよぉ~~いいのぉ?」
俺は肩を動かした。
それにトトナも、
「『立場が……っち! 厄介な奴が来やがったんだ??』」
俺に聞き返すんだけど、逆に俺も聞きたいけど怖いから無理ですよっと。
車の窓から俺は音のする方を見た。
「あっれぇ~~? 違ったみてぇ」
痛いアニメのキャラが描かれている、通称痛車があった。
流石に、こんな車にキリちゃんさんは乗っていないと思いたい。つぅか、信じたいってのが本音なんだけどさ。本当に自由に運転する従業員大杉でしょ、ここ。
バン!
バン‼
「あ! 魔法つか――後方さんだっ!」
俺は慌てて車から下りた、「『たくまっ』」とトトナの吠えたけど。
それどころじゃないから、ごめんなトトナ。
「やぁやぁ♪ くまちゃん、活躍してくれたみたいだな。ほら、ジャンの奴が渡しそびれちまったヤツな」
結構な距離から後方さんが、俺へとぶん投げた。
俺も慌てて走って、手を伸ばしたんだけどギリギリ――指先をかすめて落っこちちゃった。
「そんくれぇ、受け取りなさいよ。あンた」
すぅうう~~
っぷ、っはぁああ~~……
「これって……よっと! 何ですか? 後方さん」
俺が拾ったのは銀のペンだ。
「ああ。まだ習ってないかぁ~~これは昇級した従業員に支給される道具な訳よ。ま。まだ、身バレしてないんだろう、群青さんにゃあ? なら、使用の出来てバレないようなもんがいいよなぁ~~って……かんなり迷った結果! ペンになったんだよっ!」
額を指先でトントンと叩く様子に。
「や。嬉しいですよ! ありがとう、後方さん!」
俺も、ペン先が出るのかなって押したら、ペンが出た。
「未来でいいよ。俺だってあンたをたくまって呼んでるし。その使い方はペンに初期設定方法説明があるから、そこをまずして、後は学校で習うんだな! ネット検索でもでるけどな♪」
「あ。はい……未来さん」
「よろしい♪ じゃあ――《時間》を動かそうか?」
「っへ??」
パッチン!
「『今、何か違和感があったが……本当に、戻って来ないな』」
トトナの言葉に、手の中の冷たい銀のペンを握っている手を俺は見た。
(未来さん、もう少し普通に来てくれればいいのに)
っが!
「ん?」
今度はどこかが開く音が聞えた。
バン! ババン‼
ガラガララ――……っつ
「たくま‼」
「! あ、ぁあ……ぉ、おじさんっ」
何でかしんないけどびしょ濡れのおじさんが息を荒げて、俺の名前を呼んだ。何時間ぶりかのおじさんだ。牌さんと、何があったのか聞きたいけど、今はいいかな。
「どこも怪我とかなかったのか?? もーコンビニに行ってどうやったら巻き込まれちまうんだよー」
俺の身体をぺたぺたと触るおじさん。ちょっと、くすぐったい。
「! あ、こら! オレに言うことないのかよ」
「え」
「ほらー帰って来たら言う言葉があるでしょー」
両手の人差し指で俺を差す。
「あ! っそ、うだった、な……あのぅ」
「ん♪」
にこにこと笑うおじさん。
「ただいま!」
俺も、いつまでもつが分からない嘘を抱えながら。
笑うことにしたんだ。
「おう。お帰り、くまちゃん」




