第84話 電話越しでの喧嘩上等
「ぉ、遅いとかじゃないんだよっ! ぃ、今わっ!」
鳴った携帯を牌が出ると、竜二の顔の前で持った。
その遠い携帯越しに、竜二も言い返している訳だ。
情けなくも、やや泣き声で。
『そんなの知らないな。君の状況なんかに興味もないよ。父さんは』
「もってくんない?? 興味っつぅか、少なからずさぁ?? オレってば息子じゃあんンん??」
『? 声が遠くてあまり聞こえないが、何か言ったか?』
「今度あったらぶん殴ってやっからなぁ! 父さんンんっ‼」
電話口と、竜二のタメ口の様子に。
(ひょっとして……この電話の向こうの人はっっ?!)
携帯を持っていた手も、身体も震え出した。
思いもしない人物への緊張でだ。
(群青の竜之助、サン‼‼)
顔も強張って、頬を朱に染めていく牌に。
竜二も、深いため息を吐いた。
「で?! 何の用なんだよ?? こっちは大変な――」
『ああ。えぇと……たくま君と、あの木偶の棒が車での接触事故でね。病院に運ばれたから、今、僕も向かうところだってことを伝える為だが』
◆
「「??‼」」
思いもしないおじさんのお父さんの言葉に。
俺もだけど、翡翠さんも驚いたのか、目を見開いて口を大きく開けていた。
「っちょ?? え、ぇっと???? え????」
「……父ちゃあん? 頭ぁ、大丈夫ぅ?」
後部座席から声を出すと、おじさんのお父さんが俺達を睨んだ。
そして、唇に人差し指を立てた。
静かにしとかなきゃ、色々とヤバいみたいだな。こりゃあ。
◆
「っちょ! ふぇ?? あ゛、っど、どこの病院?? 聖ウィッチ病院なのか?!」
身体を起こそうとするのだが、牌の乗っかられている為に。
それは無理だった。
『いや。田医院だ』
竜典の直属の部下でもあった田久住女史の経営の田医院。
そこはこじんまりとした、地域密着型の病院でもある。
「馬っっっっ鹿じゃねぇ~~の?! なんで、よりにもよってっ! そこなんだよっっっっ‼」
『それは空きがなかったからじゃないのか? 父さんに言うんじゃない』
「はァ??」
キレ気味の竜二から携帯を離すと牌が、
「初めまして。あの、僕は牌文明と言います」
竜之助に自己紹介をした。
『君が誰だなんて、僕は興味がない。息子に携帯を返してくれないかな』
「その息子さんと交際をすることになりました」
突拍子もない台詞に。
竜二の目が丸く、大きくなっていく。
「っちょ! 止めろって‼ マジで洒落になんねぇよ! お前っっっっ‼」
◆
「……? これ、どぅいうことか分かる奴いるのかな????」
思わず、携帯を手で塞ぐと。
バックミラー越しから、おじさんのお父さんが俺と翡翠さんに確認をとった。
「んにゃ。俺は知らねぇしぃ」
「……あの。その牌さんって従業員のお兄さんが……おじさんに惚れたみたいで……どこでそうなったのかは、よく分かんないんですがぁ……」
軽くおじさんのお父さんが頷くと言い放った。
早口言葉でだ。
「つまりは、そこの愚息2号を君が娶りたいっていう話しなんだね?」
頭の回転と、憶測がすぐ出来るところが凄いと思った。
だけど、それを良しとするのだろうか。
『はい。そうですが』
「それは互いが好きであれば文句はない。前の伴侶は、本当に出来ない嫁でね。それに比べれば、ぇえっと……牌君だっけ? 同性愛も、同性婚も構わないが」
「「!?」」
思いもしない言葉に。
(どんな人? 奥さんって)
「…………」
小声で聞いた俺の言葉に。
翡翠さんは応えなかった。
ああ。翡翠さんも反対をしていた側の人間だったんだな。
「結納とかの条件は高いから追って連絡するよ。だから、愚息2号を出してもらえるかな」
◆
「っば、っかっなんじゃねぇのぉおおっっっっ‼」
足をバタつかせながら竜二が竜之助に言う。
顔が赤いのは――自身の愛した女性を、馬鹿にされたことによる怒りからだ。
「早苗ちゃんは! 奥さんは気立てのいい、オレなんかにゃあ勿体ない女だっ‼」




