第83話 緊急事態となんとやら
「「…………」」
それはとても重い空気だった。
どうしてこうなったかと言うとだ。
◇
『乗れ』
◆
クラクションを鳴らした人が、車に乗せてくれたからだ。
赤毛で体格もいい翡翠さんに。
正面から抱きつく体格も、ほどほどの青年である俺を見ても。
なんの躊躇も、動じることもなくだ。
それはそれは、鋼の心を持っているような人物は。
「その姿のなりで、あまり歩きまわるんじゃない」
「あぁ~~……父ちゃんこそよぉ。こんな時間に何で、うろついてんだよ?」
低い口調で言う翡翠さんと。
俺は後部座席に仲良く、肩を並べているもんだから。
肘で翡翠さんの腕を突いた。
どうして。何でたって。
(夜勤明けなんじゃないのっっ??)
夜勤かなんかじゃなければ、社内の山中街モデルに帰るハズもないじゃんか。
そんなことも分かんないほどに、混乱をしちゃってんのか。
「君に言う義理はないな」
「降りる! 車を停めろってんだよッ!」
「喚くなよ……子供じゃあるまいし」
騒ぐ翡翠さんにおじさんが呆れたって口調で言い返す。
「あァ゛! 手前の子供だっつぅんだよぉ゛!」
大きく言い返した言葉が何とも――空しく思えたことはないな。
「降りる! こっから歩いて帰るっ!」
「……ここから? あのボロアパートまでどれぐらいあるか知ってるのか?」
「――~~っみ、視ればいいだけだろぉうっがぁ‼」
目を大きく見開いて。
口も大きくさせて言う翡翠さんからは。
いつものような冷静な表情がなくなっていた。
「横の子を巻き込んで? 大人げないな……本当に、考えなしなところも。自分のことしか考えないところなんかも、あの人と同じだ。腹が立つんだよ……本当に、君を見ているとっ」
なのに、おじさんは淡々と、そう淡々と。
子供を咎めるかのように言うんだ。
「ぁ、あの……ぉ、おじさんに電話してもいいですかぁ~~?」
親子の言い合いなんか、俺はどうだっていいんだって。
今は、おじさんに何か言わないと、だ。
「時間、かかちゃってるんでぇ~~……あのぅ、……携帯。お借り出来ますかぁ?」
◆
「だから! おじさんはおじさんなの!」
「20歳なんでしょう? リュージさん」
「っそ、そぅなんだけどー~~それと、これとは話が違うっつぅの‼」
玄関先のあった段ボール箱につまずいたことが発端で。
倒れ込んだ竜二に巻き込まれた文明も倒れてしまった。
まではいいのだが。
どういう訳か位置が逆転して。
牌に見下ろされている格好になってしまっていた。
「! 君が好きなのは群青なのっ! オレは早乙女リュージなん――」
「それは……否定はしませんが……はい」
(これはイケるんじゃねぇのかァ?!)
ほくそくみながら竜二は。
「それほれ! 触ってみっ」
牌の手を握って、自身の胸を触らせた。
「な! 贅肉のぶにょぶにょのない、至って面白見もない板だかんなっ!」
さわ。
「確かに……本当に――板ですが、触り心地がいいですね」
さわさわ。
「‼ ぉ、お前はバイってやつか! どっちでもイケるタイプのアレかっ!」
顔を真っ青にさせて慌てて、胸から手を離させかたったのだが。
逆に両手を掴まれ、頭の上にやられてしまう。
「っひぃいい~~っっっっ‼」
「いい表情です。おじさん」
伸し掛かれ、言い寄られる最中。
ポケットから落ちてしまった竜二の携帯が鳴った。
「「…………」」
◇
『いいや。貸せないな』
『あァ゛?? 貸せよぉ、いいからよォお!』
おじさんに貸し出しを拒否されてしまう。
やっぱ、携帯は持ち歩いての携帯なんだよなァ。
『僕が直に電話する』
『『何で??』』
◆
「遅い。すぐに出ろ、愚息2号」




