第82話 あっちもそっちでっ
「んー誰か……来たー?」
寝そべっていた竜二の室内に、チャイムが鳴った。
のそり、と起き上がると竜二も玄関へと向かったまではよかったのだが。
その来訪した人物は。
「はいはーいー出ますよー出ますよーどちらさ――……ぅっわぁ~~」
「っど。ども、あの、その! 着ちゃいました!」
「そうね――来ちゃったの……」
もっとも、取り扱いが竜二にとって面倒くさい。
「パインちゃん……」
牌文明、従業員。
「よく、分かったなーここ、昨日入室したばっかだっての……あーうん。上がるかー?」
苦笑いを浮かべて、顔で牌に合図を送った。
「はいっ、お邪魔します! あ。お酒は、この通り用意してきましたからっ」
「あのな? 今、昼前なのよ? パインちゃん」
「僕は夜勤明けです」
「あーそぅなの。そう、じゃあ酒は貰うが帰った方がいいぜ? パインちゃん」
「嘘を吐いたことの訂正をお聞かせ下さいませんか? リュージさん」
微笑み返す牌の表情は、怖いくらいに綺麗で。
怒っているのは明白だ。
(っこ、怖っっっっいぃー兄さんンん! くまちゃー~~んンん‼)
◆
「え。見つかちゃったんですか? 前の、職場の人に」
「うんン。そぅねぇ、見つかったんだよぉねぇ、の~坊にぃ」
倉庫から自転車で向う先は、翡翠さんも言わないけど。
翡翠さんが行くところに間違いもないだろうし。
てかさ。いつまで抱っこされてんの、俺は。
「つぅか? 何で、ヘアワックスつけてんの? くっせぇ~~んだよっ!」
わしゃわしゃ、と翡翠さんが俺の頭を掻き乱した。
確かに、翡翠さんからはいい匂いのコロンをつけている。
嫌な匂いじゃない、むしろ、いい匂いだ。
「……つうか。何だって、倉庫の中にいたんだよ、手前」
「っか、勘違いされちゃって……海潮たくまって人と……」
俺は苦し紛れに嘘を吐く他ない。
1つ嘘を吐けば、2っつ、3っつと増えていくことを。
(しょうがないっ、っじゃないかよっ!)
俺は悩まされることと、よりにもよって――意外な人物達に手を借りることにもなるんだけど。
それは、それほど遠くもない未来での話し。
「っあ、そぉうなのぉ? 人違いなのかぁ、酷い目に合っちゃったんだねぇ。たくま君」
「っは、っはは、は……はい、合っちゃいましたね~~……!? ぁ、あの。翡翠さんは、どうしてオペをしてたんですか?」
「視たからぁ?でぇ、の~坊の協力も得てねぇ? こっそりと、誰もいない個室から指示をしていたんだぁ」
視ただの。
の~坊だの。
(ちょっと意味も、誰かも分かんないんですけど?? でも、そのおかげで平静に、仕事も完遂出来た。少なからず、翡翠さんのおかげに間違いはないのに……騙していいのか? ダメなんじゃないのか?)
俺から見た翡翠さんは。
純粋で、情にも厚い上に頼りにもなる兄貴分気質だ。
多分、それは竜子さんとおじさんの存在で掻き消されてしまっているっていうか。
目立たないんだろうな。
実際は、こんなにも――いい人だ。
パァアアアアンンンンっっっっ‼
「「!?」」
あれこれと頭に浮かべていた俺と翡翠さんに車のクラクションが鳴った。
◆
「嘘なんか……吐いてない、し? っは、っはっは? 何を言っちゃってんのーおかしぃなぁ、パインちゃんは♪」
たどたどしい口調で竜二が言うも。
肩を当てながら室内に上がり込んで行く牌。
「あ! ちょっと! 上がんないでくんない??」
玄関の扉を閉めると、竜二も牌の背中を追った。
「早乙女リュージ。歳は僕の1つ下で――20歳……嘘ばかりだ」
「誰に聞いた? そいつを」
「聞きたいんですか? おじさん、は」
「! あァ、知りてぇなぁー」
「いいですよ? ただ、無料では教えられないな」




