第80話 翡翠とジャン
とても、静かな室内。
ポツンと竜二は兄の翡翠に言われた通りに、出て行ったきりの彼を待っている。
テレビもあり、衛星アンテナもあり、チャンネルも視放題というのに。
「……もー~~帰って来たらーおしおきだべ~~っ!」
竜二は段ボールで埋まっている床の、その隙間に身体を横たえている。
だが、やはり窮屈だったようで、
「もー~~……本当にっ!」
和室の方へと向かって行き。
ばっふん!
朝から引きっぱの布団の上に身体を横たえた。
「どいつもこいつも……みぃんな、オレを置いてくんだ……何でなんだよぉー」
顔を枕に置くと、携帯を取り出して彼女の写メを見た。
色褪せない彼女の笑顔に、
「君もだ……早苗ちゃん」
目を潤ませながら、動画も見始めた。
◆
――まぁあず。現在地点と商品棚は結構離れてるなァ。
【42:38:08】
――時間は、……まぁあ? 大丈夫じゃなぁい?
「大丈夫じゃない? っじゃ、っなぁあィいい‼」
どこか他人事に言う翡翠さんに、俺は腹が立ってしまう。
これは言わば戦場じゃないか。
「茶化さないでくれ! 翡翠さん!」
――ぁ゛あ゛??
「仕事と私事は分けてくんなきゃあさぁ~~?!」
て、言うか。翡翠さんてば、どこにいんのさ。
オペレーションをしてるってことは、だ。
っよ、っもっぎださぁンンンっっっっ。
――んじゃ。こっから真剣に指示をする……商品確保を迅速にせよ。
声のトーンが下がった翡翠さんだもんだから。
蓬田さんのことが聞けなくなってしまう。
バクバクバクバクバク――……
(終わったら、終わったらっ!)
俺は聞きたいこと飲み込んだ。
さっき、自分が言い放ったばかりだからだ。
――まずは、だ。
◆
バッシュぅ!
「「!?」」
倉庫の扉が開くとジャンさんとトトナが見えた。
俺の膝がかっくんと折れて落ちそうになるも。
「ぉ、っと!」
ジャンさんが、支えてくれた。
「『主! たくまに触るなっ!』」
「あー~~あー~~犬の言葉なんか分かんないなァー~~」
グルグルと威嚇の声を上げるトトナにも、俺は何も言うことも出来ない。
ポシェットの中から確保した商品を取り出した。
それをジャンさんが受け取ると。
通路の真ん中にあるベルトコンベヤーに乗せた。
「! さっすが! 《死星のたくま》! Δも、PもGetじゃん! お疲れ様しった♪ んじゃ。、少し休憩を挟んでから、次の倉庫に商品確保に行くか」
「む、無理……も、帰る……おじさんが、待ってるんだ」
「ダメダメ! 正社員の社蓄! きっちりかっきりと働け! 給料泥棒になられたら困んだわっ!」
キキキィイイッッッッッ!
「困るのはぁ。ボクぅもなんですけどぉ?」
社内車ではなく、自転車でやって来たのは翡翠さん。
「お宅、誰?!」
苛立ったような口調でジャンさんが聞くも。
翡翠さんは俺の腕を引っ張って、ジャンさんから引き離した。
「ボクぅの仲間を誘拐たぁ。どぅいうつもりだぁ? ぁあ゛っ??」
俺の都合も、俺の立ち位置も知らない翡翠さんが。
ジャンさんに歯を剥き出しに、俺を守る為に威嚇をしている。
(ぃ、言えないぃいい~~っっ‼)




