第78話 突撃の彼
バっタン!
「っな……何だってこうなんだー??」
アパートからたくまが消え、そして、翡翠も出て行ってしまった。
残されたのは竜二だけで。
広くもない一室が、とても広く感じてしまう。
「たくまの奴もっ! どこで、何をしてんだァ~~っっっっ??」
溜まらずに、竜二はたくまの名前を呼んだ。
◆
「っと、取りあえず! どっかに案内版とかが、きっと、あるはずだっ!」
俺はそう、自分に言い聞かせて走った。
時間が刻々と、流れていくような音は聞えないというのに。
耳元に、そのちっくたっくと、聞こえるかのようだ。
限られた時間と、商品確保。
「っさ、最初はやっぱり誰かと一緒のがよかったぁ~~っ!」
うん、本当に後悔は先に立たないんだなって。
どこか冷静に思っちゃったよ、俺。
「っこ、今度は誰かを巻き込んでやるぅ~~っ!」
◆
さてさて、とだよ。
オイラは出て行ったように見せかけて、トイレへと向かった。
そこから、日本支部に行けばオイラもたくま君の倉庫へと行けるもぉん。
(早く行かねぇとなぁ)
一度、入れば空間が閉じられる倉庫だが。
経過時間にもよるが、交わることが可能だと、オイラは知っているのさ。
ヴォンン‼
着地が上手くいったんだが、如何せん。やっぱ、慣れねぇわな。
「ぎも゛ぢ……ぅ、っぷ!」
でも、今はそれどころじねぇ。
オイラはよろめきながら、廊下を進んで行ったのよ。
そしたら、やっぱり日本支部なだけであって。
知り合いに会っちゃうよねぇ。
(あ。同じ課の――樋口……ああ。兄の登別の方か)
まぁ、今のオイラは群青翡翠じゃない。
そぅ、今のボクぅは早乙女ミドリなのぉ。
通り過ぎようとしたときだ。
「兄っ! あの新しい部長の奴がねっ!」
登別の弟の幌加内が。
泣きながら走って来たかと思えば登別に抱き着いた。
その拍子に。
「っわ゛‼」
持っていたファイルが。
登別の奴の身体も廊下にダイブをした。
「っぽ、ろっかなぃいい~~?!」
「ごっめぇ~~んンん‼ 兄~~っっっっ‼」
いっつも、こんな調子の兄弟だ。
オイラも横を通り過ぎちゃうよねぇ。
なのに。
「? ん????」
オイラの足首を、何を思ったのか登別が掴んでいた。
さらに、足の下を見ると。
「あ」
散らばった紙を踏んずけそうになっていた。
流石だよ。書類課の課長代務君。
「踏むなっ。大事な資料だっ!」
「っごめぇ~~んねぇ~~よっと! はい、の~坊君♪」
「!?」
目を細める彼に、オイラは一刻も早く分かれることにした。
だって、彼とは書類課での一緒だった時代が長い。
下手をすりゃあ、一発でバレちまう。
「? 兄~~あの呼び名って……他の従業員にも浸透してるんですか?」
「んな訳ねぇじゃ~~ん。ポー……」
首を捻る幌加内を剥がし、登別が立ち上がっちゃよぉ。
紙をオイラから受け取ると、オイラを頭から足元まで見やがる。
しょうがねぇわなぁ。
オイラは登別のポロシャツの胸ポケットから、三色ボールペンを拝借した。
ま、これはオイラがやったものだが。
目を見開いて、宙に文字を書いていった。
「《この場では色も何も、空気すらも感じずに通り過ぎ。脳にも影響はないっ!》」
文字が浮かび上がり、二人へと貼りついた。
これで、記憶は削除されるはずだ。
指先でボールペンを回して、
「これは借りるねぇ」
ほぼ、無断で借りて腰のポケットに差したの。
「こんなんじゃ、また誰かに会っちまうじゃァん?」
オイラはポケットから《標識調》の種を取り出した。
これは最終兵器にも近いんだけどぉ。
「《潤い溢れろ》」




